現代アーティストの力を、子どもたちへ─
小学校に現代アーティストを連れていってワークショップ型の授業をしようと最初に考えたのは、1999年のことでした。ごく普通の、一般的な家庭に育つ子どもたちにアートを届けたいという思いがありました。劇場や美術館に行くような“特別な”子どもたちではなく、“芸術家”などという人には一度も会ったこともないような、“普通の”子どもたちのところへ行きたい…。
その後、小中学校や保育園、幼稚園等でワークショップを続けるうちに、現代アーティストとの出会いは、子どもたちにとって、単に芸術に親しみを感じる機会というだけのものではないのだということに気付きました。それは、子どもたち自身の創造性を引き出し、他者との多様なコミュニケーションを促し、ものの見方・考え方を変え、引いては、彼らの自己肯定感を高める、まさしく、学びや育ちにとって、最も重要な体験をする場なのだと考えるようになりました。
そして、“普通の”子どもたちとは何だろう、とも考えるようになりました。現代日本における、社会・家庭・地域をとりまくさまざまな問題や状況は、子どもたちの育ちに対して多大な影響を与えていて、子どもの実態は複雑かつ多様です。もはや“普通の”子どもたちは存在せず、それぞれの子どもがそれぞれに置かれた環境の中で、もしかすると逆境に耐えながら必死に育っているように見えます。
現代アーティストとの出会いはそんな子どもたちに何をもたらすのでしょうか?一人ひとりの子どもがワークショップで何を感じ、何を表現しようとしているのか、じっくり見つめるなかから、私はその答えを探そうと思います。そして、子どもたちにかかわる諸課題に今後も向き合っていきたいと考えています。
特定非営利活動法人 芸術家と子どもたち
代表 堤 康彦