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コラムColumn

通常級・特別支援学級 交流ワークショップの実践 vol.1

芸術家と子どもたちでは、令和5(2023)年度「公益財団法人 パブリックリソース財団」による「Y’sファンド D&I基金」の支援を受け、都内公立小中学校3校で通常級と特別支援学級の子どもたちが共同でワークショップを体験する交流ワークショップのプログラムを実施しました。
日本の学校教育のなかでは、通常級と特別支援学級の子どもたちが行事や給食、一部の授業などで交流する機会はありますが、理解する・ケアするという視点ですすめられることが多いのが現状です。
そこで、そのような関係ではなく、対等な関係性のなかでさまざまな枠組みを意識することなく、身体を動かしながら自然なかたちで体験を共有する機会となるよう、振付家・ダンサーとして活躍するアーティストを学校に派遣し、通常級と特別支援学級の交流ワークショップを実施しました。

今回のコラムでは、交流ワークショップの概要や実施の様子を、先生・子どもたちの感想とともにご紹介します。


【交流ワークショップ 実施概要】

(1)都内 A 小学校
●アーティスト:田畑真希(振付家・ダンサー)

●対象
[特別支援学級] 小学1~6年生 16人
[通常級] 小学2年生 4クラス131人 ※2クラス約65人ずつ実施

●実施スケジュール
[1日目]
10:40-12:15(3-4限) [特支級のみ] 

[2日目]
10:40-11:25(3限)[特支級のみ]
11:30-12:15(4限)[特支級+通常級2年生]※

[3日目]
9:35-10:20(2限)[特支級+通常級2年生]※
10:40-11:25(3限)[特支級のみ]
※2年生は2クラス約65人ずつ2回に分けて実施

(2)都内 B 小学校
●アーティスト:青木尚哉(振付家・ダンサー)

●対象
[特別支援学級] 小学1~6年生 38人
[通常級] 小学4年生 1クラス34人※
※4年生は2クラスあるが、インフルエンザ流行の影響により1クラスのみの交流となった。

●実施スケジュール
[1日目]
10:45-12:20(3-4限)[特支級のみ]

[2日目]
10:45-11:30(3限)[特支級のみ]
11:35-12:20(4限)[特支級+通常級4年生]

(3)都内 C 中学校
●アーティスト:鈴木ユキオ(振付家・ダンサー)

●対象
[特別支援学級] 中学1~3年生 20人
[通常級] 中学1年生 108人

●実施スケジュール
[1日目]
9:50-11:40(2-3限)[特支級のみ]

[2日目]
11:25-12:10(4限)[特支級のみ]
14:10-14:55(6限)[特支級+通常級1年生]

【ワークショップの進め方】

ワークショップを実施する前に、先生方と打合せを行いました。
特別支援学級の先生からは、様子を伺ったり授業見学をするなどして、どんな子どもたちがいるかをヒアリングしました。その後、通常級の先生も交えて、通常級の子どもたちの様子や、普段は通常級と特別支援学級の子どもたちのあいだでどんな交流の場があるか、先生方のご希望などを丁寧に聞き取り、ワークショップ実施に向けて打合せを行いました。

●特別支援学級のみのワークショップ
いずれの学校においても、1日目に特別支援学級のみのワークショップの時間を設定し、2日目・3日目に通常級との交流ワークショップを実施しました。
特別支援学級の子どもたちがはじめて出会うアーティストに慣れること、ワークショップの内容やルール等の理解に時間がかかる場合があることなどを考慮し、はじめは特別支援学級のみでワークショップを実施し、その後に通常級と交流することで、安心して取り組める環境を整えました。

●通常級の子どもたちとの人数比
通常級との交流にあたり、通常級と比べると特別支援学級は人数が少ないため、できれば通常級1クラスと特別支援学級の子どもたちとで実施することで、交流がより一層深まっていくと考えています。しかし、学校によってはクラス数が多い場合もあり、体育館・時間割調整などの学校事情を考慮し、今回の実施では、通常級の学年全体との交流、または2クラスずつとの交流を検討することになりました。

 

【ワークショップの様子】
●1日目:特別支援学級のみのワークショップ
1日目は特別支援学級の子どもたちとアーティストがはじめて出会うとき。身体を動かしながら様々な表現を体験していきます。
アーティストによってワークの内容は異なりますが、例えば、手のひらと手のひらを近づけて、互いの呼吸をあわせて動くワーク、新聞紙を動かす人と、その新聞紙を見て感じながら身体で表現していくワーク、ペアになって相手の関節を曲げていくことでさまざまな身体の形を体験するワーク、1本足で立つ表現からはじまり、3本足、5本足というお題で、子どもたちそれぞれのアイディアを活かしながら表現を引き出すワークなどを行いました。
どのワークも、まずはアーティストとアシスタントがお手本を見せることで、子どもたちはそれを見て、実際に体験してみることを繰り返し、さらに慣れてくると自分たちなりの表現を探しはじめる姿がありました。

新聞紙を見ながらさまざまな身体の動かし方を探る

呼吸をあわせて動いてみる

オリジナルの表現がどんどんうまれる!

言葉を使わずに表現してみる

 

●2日目・3日目:通常級と特別支援学級の交流ワークショップ
1日目に楽しくワークショップを終えた子どもたちは、2日目の通常級との交流ワークショップも、自信をもって安心して臨むことができました。
基本的には、1日目に特別支援学級の子どもたちと行ったワークのなかのいくつかを通常級の子どもたちも交えて実施しました。アーティストによって方法は異なりますが、ペアをどんどん変えていく方法をとったり、たくさん走り回って止まったあとに近くにいる人とペアを組んだり、あるいは、先生にあらかじめグループをつくっておいてもらい、特別支援学級と通常級の子どもたちが混ざるように混ぜ合わせて新たなグループをつくるなど、ワークのなかでなるべくいろんな子どもたちが交流できるように実施しました。

全員でまねっこダンス

お互いに表現を見せ合う

次々ペアを変えて混ざりあう

 

1日目のワークショップを体験している特別支援学級の子どもたちには、アーティストがワークを見せる際のお手本として前に出てきてもらったり、1日目に創作したポーズを通常級の子どもたちに披露することもありました。
また、言葉を用いずに身体を動かして交流していくことから、特別支援学級だけではなく、通常級のなかで言葉で伝えることが得意ではない子どもたちにとっても、自然とまわりとコミュニケーションをとることができており、あちらこちらで笑顔がこぼれているのが印象的でした。

 

【子どもたちの感想】

[特別支援学級の子どもたち]
~小学生~
・2ねんせいのまえでぽーずがとれた
・いっしょにげーむ(ワーク)をしてたのしかった
・大人数でこうりゅうできたから楽しかったです
・かんじたことは、人とかかわることはだいじなんだと思いました。
・2-1とやって教えられたのが嬉しかったです
・なかなかできない体験をできたからよかった

~中学生~
・通常級と交流できる機会が少なかったから楽しかった。
・通常の1年生も楽しそうな顔してて僕も楽しくなりました。
・人と一緒にダンスをするのが気持ちよかった。
・ユキオさん(アーティスト)と僕で一緒に手を合わせて動いたのが楽しかった。
・先生方のダンスを生で見る事ができたことと、自分の考えを身体で表現できたことが思い出に残った。

[通常級の子どもたち]
~小学生~
・5組さん(特別支援学級の名称)がおてほんをしてくれた
・5組のすごさがわかった
・5組の人と一度ペア組んで、そのとき5組の人から「いっしょにやらない?」といってくれたのが嬉しかったです。
・5組さんとダンスの先生たちがいろいろおしえてくれたり、いろいろなあそびをしたことが楽しかったし、嬉しかった
・5くみさんとの友達ができたから思い出にのこった
・いろんなことに「こうしたらいいかな」など、考えることができました

~中学生~
・昼休みでもあまり関われないので直接運動を通してD組と関われ、またやっている間も仲が深まった感じがしたので楽しかった。
・動きが面白く、一緒に笑えた。
・いつもD組さん(特別支援学級の名称)と一対一で話すことや授業することがないから。
・何となくかわいそうと思っていたけど、D組と授業を一緒に受けてみて、D組にも人間くささがあって、同じ人間なんだなと実感することができた。

【先生の感想】

[特別支援学級 教員]
~小学校~
・いくつかのルールのもと、子どもたちが自由に身体を動かして表現することができて良かったです。子どもたちが表現をした際に、常に肯定的な言葉かけをしてくれたため、子どもたちも自信をもって表現することができました。
・友だちと関わりたいが、上手に関わることが苦手な児童も、ペアになった友だちと楽しく関わることができて本当によい顔をしていました。
・交流のやり方について学びの多い機会となりました。子どもたちが同じ目的のもと、一緒に活動することが自然な交流につながり良かったです。
・通常学級との交流となると、どうしても支援学級はお客さんになってしまう場合が多いです。今回の交流は支援学級がホストとなって交流ができて、見通しももてたため、安心して交流することができました。2年生も楽しかったと声をかけてくれる児童が多くいました。

~中学校~
・子どもたちの様々な動きを自然に引き出せたこと。また、その動きを互いに見合って「良いね!」「すごいね!」と会話できたことが良かったと思います。通常学級との交流でも、そういった声が聞こえてきたので、有意義な交流になったかと思いました。
・みんなが正解にとらわれることなく、思うがままに身体で表現できたことで「自分を伝える」という社会的に求められる行動を恐れずに達成できたと思う。
・〇×という正解がないことが、生徒がのびのび活動するきっかけにつながったと思った。
・スポーツや身体を動かした授業を通して交流することの有効性を感じたので、そういった機会を大切にしていきたい。
・子どもたちに正解を求めずに、様々な方法での表現ができるよう、授業を計画したい。また、(ワークショップでは)言葉での説明が少なかったため「まずはやる」という実践の時間から得られるものを大切にしたい。
・「交流をしよう!」という少し堅い感じで普段の交流を行うことが多く、生徒たちも「今、自分たちは交流をさせられている」「交流の時間である」という枠の中で活動している雰囲気がありますが、今回のワークショップではそのような枠を感じさせない、とても自然な交流だったように思います。
・言葉でのコミュニケーションが無かったからこそ(主ではなかった)、自然な笑顔と会話が生まれていて素敵な時間だと感じた。
・言葉を発することが難しい生徒でも、今回の内容は共に交流しやすい内容で良かったです。

[通常級 教員]
~小学校~
・体を動かして表現することに積極性がみられるようになりました。
・(今後活かしていけそうなことは)説明は視覚的に簡単に。活動時間をたくさんとっていく。動きは短時間で変えていく。

~中学校~
・新しい交流の形になった。話すコミュニケーションが苦手な生徒も、身体でコミュニケーションを取ることができて、満足した表情があった。
・D組(特別支援学級の名称)との交流により仲が深まったと思います。特に、2人組による身体を使った表現は、お互いに動きをよく見ないとできないことだと思うので、お互いを知るという観点でも成果があったと思います。
・生徒からのアンケートにもあったように、「普段接点のないクラスメイトとの交流の機会になったこと」「言葉を用いないことで相手の考えを察する、思いを巡らせる」といった新たな(本当はとても大事な)コミュニケーションに気づく、良い活動だと感じました。
・身体を動かすことの楽しさを味わうことができた。
・仲間との交流、コミュニケーションが不得意な生徒も一緒に身体を動かす中で笑顔が見られた。通常級とD組との交流にもなった。
・会話が無くてもコミュニケーションが取れていたと思いました。全員が笑顔で楽しそうで良かったです。
・流れの中で自然に交流することができていた。
・特に教科では、言語を使うと理解力や進度に差が出てしまい、一斉学習が難しいことが多いです。なので、個別学習による個別最適な学習の必要性を今回改めて感じました。また、共同学習には身体を使った学習が最適であることを学びました。

 


今回のプロジェクトは「D&I=ダイバーシティ&インクルージョン」の視点から、通常級と特別支援学級の交流ワークショップを実施しました。大人と子ども、特別支援学級と通常級…、いろいろな枠組みがありますが、その前に一人ひとり違う感覚や表現を持っていることをどのアーティストも大切にして、ワークショップを実施していきます。一緒に身体を動かすこと、一緒に微笑むこと、そんな優しい時間があれば、なんとなく心地よく一緒にいる時間も増えるかもしれません。休み時間や遊びの時間だけではなく「ワークショップ型授業」で他者との関わりを体験することで、その後の交流のきっかけとなっていたら嬉しく思います。
今回の交流ワークショップを実施していただいたアーティストの皆さま、ご協力いただいた先生方、そして子どもたちに、この場を借りて改めて御礼申し上げます。

後日、交流ワークショップを実施したアーティストのコメントを掲載したコラムと、外部アドバイザーから見た交流ワークショップに関するコラムを掲載予定です。どうぞお楽しみに。

※4/8追記:コラムの続編が公開されました。是非ご覧ください。
>>「通常級・特別支援学級 交流ワークショップの実践 vol.2 ~アーティストの視点から~」はこちら
交流ワークショップを実施したアーティスト3名それぞれの実施後コメントを紹介しています。

>>「通常級・特別支援学級 交流ワークショップの実践 vol.3 ~外部アドバイザーの視点から~」はこちら
交流ワークショップを視察した外部アドバイザーの海老沢穣さんによるコラムをお届けしています。

[助成] 公益財団法人パブリックリソース財団(Y’sファンド D&I基金)

写真・編集:NPO法人芸術家と子どもたち
※無断転載・複製を禁ず