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コラムColumn

【シンポジウム報告】少年院×アーティスト~矯正教育におけるアーティスト・ワークショップの可能性~<後編>

【シンポジウム報告】
少年院×アーティスト
~矯正教育におけるアーティスト・ワークショップの可能性~
<後編>

シンポジウム「少年院×アーティスト~矯正教育におけるアーティスト・ワークショップの可能性~」の様子をお届けしているコラムの後編。今回のコラムでは、シンポジウム後半、登壇者の方々によるフリーディスカッションの様子の一部をお届けします。

>><前編>の記事はこちらから/<中編>の記事はこちらから

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シンポジウム「少年院×アーティスト」~矯正教育におけるアーティスト・ワークショップの可能性~ 概要

登壇者 山本宏一/法務省矯正局少年矯正課 課長
向井信子/元・東日本少年矯正医療・教育センター教育調査官、現・法務省大臣官房会計課
北村靖子/東日本少年矯正医療・教育センター統括専門官 法務教官
隅地茉歩/セレノグラフィカ(ダンスカンパニー)
阿比留修一/セレノグラフィカ(ダンスカンパニー)
実施日時 2024年1月14日(日)13:30〜16:00
実施場所 IKE・Biz としま産業振興プラザ 6階 多目的ホール
プログラム

①芸術家と子どもたちの活動紹介
②講演『生きづらさを抱える少年院の子どもたちへの対応の現状と課題』
 …山本宏一
③講演『東日本少年矯正医療・教育センター(少年院)でのアーティスト・ワークショップの取り組みについて』
 ~セレノグラフィカによるミニワークショップ付~
 …向井信子、北村靖子、隅地茉歩、阿比留修一
④フリーディスカッション『“矯正” とは何か?』
 ~子どもたちが社会で生きていくために、アーティスト・ワークショップができること~
 …山本宏一、向井信子、北村靖子、隅地茉歩、阿比留修一

太字の④が、今回の<後編>のコラムでお届けする内容です。

参加者 法務省関係者、矯正教育研究者、教員、アーティスト、メディアなど80名

フリーディスカッション<山本宏一×向井信子×北村靖子×セレノグラフィカ>
『“矯正” とは何か?』
 ~子どもたちが社会で生きていくために、アーティスト・ワークショップができること~

久保田(芸術家と子どもたち):少年院という場所は、子どもたちが「矯正教育を通して改善・更生し、社会復帰できるように、様々な教育や指導がされている」という場所です。では、「少年院で行うアーティスト・ワークショップは、子どもたちにとってどんな時間だったのだろう?」と考えたときに、セレノグラフィカの隅地さんから「愛おしいと思える自分にもう一度出会い直してもらえる機会になったらいいな」と思いながらワークショップをしてくださったというお話を伺いました。「これはしては駄目」とか、「こうしなさい」とか、外から言われる形ではなく、「こういう自分でありたい」という、自分の中での気づきや、自分の中で何かが溶けていくような、そういう更生もあるのではないか。矯正教育の一つのアプローチとして、このアーティスト・ワークショップに可能性があるのではないか。そんな所から、今日はお話ししていけたら、と思っております。よろしくお願い致します。

早速、山本さんにお伺いしたいのですが、今、少年院の中で実施している矯正教育と、アーティスト・ワークショップのアプローチの違いなど、実際にワークショップをご覧になった感想なども合わせてお伺いさせてください。

 

// これまでの矯正教育とアーティストワークショップ ~アプローチのちがい~

山本宏一さん(以下、山本):「矯正」というと、何か間違っているものを正すっていうイメージですよね。もちろん、非行のことや、自分の問題性を変えていくという意味では、少年院にいる少年は、いろんなルールや規則を逸脱した結果として、少年院に来てしまっているからこそ、まず「ルールを守ろう」あるいは「先生の指示の通りにできるようにしよう」という指導は非常に大事にされていると思います。一方では、先生は“信じていい大人”であるために、どうすべきかということに心を砕いている。そうした心の繋がりと、実際の指導場面では、割とギャップがあるのかなということを、今日のワークショップで改めて感じました。
特定少年、つまり18歳、19歳は、もう自立しなさいという流れもあり、我々が課題に思っているのは、言われる通りにできる子を育てたのでは、少年院の扉を開けて出た瞬間、転んでしまう。自主的に行動できる、あるいは、表現できることができるようにならないと、本当の意味での社会復帰ができないのではないか、と思っています。そのきっかけの一つとして、アートとの繋がりは、ものすごく大事なことではないかな、と思っているところです。

久保田:向井さん、北村さんは、実際に東日本少年矯正医療・教育センターでワークショップをするにあたり、体育の一環として取り入れてくださいましたが、普段の体育との違いや、実際活動に参加してみて、いかがでしたか?

北村靖子さん(以下、北村):身体を動かす時間として確保しやすい、ということと、女子だけで体育をすることも行いやすかったので、体育の枠組みの中で行いましたが、実際やってみて、本当はどの枠組みにも属するものではないんだろうなと思いました。ワークショップには、職員も参加しましたが、職員自身がすごく楽しんでいました。特に、音楽がとっても心地よかったという感想が複数ありました。音楽に合わせて、身体接触がないけれども、お互いに通じ合う、動いていくっていうことが、職員自身が、自分を解放できて気持ちよかったし、それを子どもにもわかってもらえたと思います。自然に身体機能向上にもなっていたと思う、という感想も多かったです。

向井信子さん(以下、向井):少年院は、社会との繋がりが限定的な場所です。誰でも入ってこれるわけではないし、限られた人との接触しかない。特に、ワークショップをした年はコロナ禍で、外部講師の方もお呼びできない状況で、いろんな人が支えてくれているという実感が持てないまま、少年院の中で生活をしていたんじゃないかと思います。
かたや、大体の少年は、少年院で1年位過ごした後に、外に出て行きますので、少年院にいる間から、外の世界の人たちと接する機会は非常に大事です。虐待されたり、いじめの被害に遭ったりして、「大人なんて信じられない」というような思いを持っている人もたくさんいます。このワークショップが終わった後に、隅地さんが「愛おしいと思える自分ともう一度出会い直してほしい」ということを考えながらワークショップに臨んでくださっていたというお話を聞いて、きっと子どもたちにもそういう思いが伝わったんだろうなと思いました。温かく見守ってくれる外の人がちゃんといることを実感できる。一緒に身体を動かす中で、実感できた。そういう場所だったんじゃないのかな、と思っています。
それから、いつもは職員が教える側で、教えられる側の少年がいて、っていう立場ですが、アーティストさんが来たおかげで、私たちも教えてもらう側になって、少年と横に並んで何かができるっていう経験が、あんまり今までになかったことで、すごく楽しかったという思いがあります。

 

// アーティスト・ワークショップとは ~身体と心のつながり~

久保田:セレノグラフィカさんは、今回初めて少年院でワークショップをするにあたって、考えたことや、実際子どもたちと向き合って感じた思いなどいかがですか?

隅地茉歩さん(以下、隅地):身体と心は、予想以上に繋がっているものなんだろうなって、私は思っているんです。どちらかを取り出してほぐしたり、逆にどちらかだけを強ばらせたりすることって、多分できないと思います。でも、密接に繋がっているということを、実感しづらい状況に簡単になると思うんですね。だから、身体がこんなふうにほぐれたら、心もちょっと楽になるんだよっていうことに少しずつ気づいて欲しいというのが、ワークショップをするにあたって私たち2人の思っていたことです。そういうふうなことが進むと、ここは居心地がいいなって、思えるようになって、そう思えるところは、その人にとっての居場所になると思うので、施設の中にいる間に、心地よい時間を持つということが、大事かなと思います。

阿比留修一さん(以下、阿比留):少年院に限らず、いろいろなところでワークショップをしていますけれど、基本的にメニューを変えたりはしていません。今回も、きっと彼女たちにも通じるだろうという思いがありました。一方で、声のかけ方や、進めるペースについては、法務教官の先生たちにアドバイスをいただきながら一緒にあの場所をつくっていきました。子どもたちは本当に1人1人違います。その子が抱えているものを、私たちがどうにかするのではなくて、その子自身が自分のタイミングで気づき、そこから解放されていくきっかけが何かつくれたらという思いでやっていました。

久保田:山本さんは、今日初めてセレノグラフィカさんのワークショップに参加されて、いかがでしたか?

山本:心の温まる時間って言ったらいいんですかね。言葉はなくても、指の動きでも、その先にある表情や、相手のいろんなものを感じながら動けるっていうところが、いいなと思いました。翻って、少年院に来る子たちは、確かに非行をしているんですけれども、サバイバーでもあるんです。非行で生き延びてきたというような、本当に壮絶な社会、家庭環境の中をくぐり抜けてきている子たちなので、その子たちが、こういう「安らぎ」や「温かさ」を心の中に育める時間は必要だなと、改めて強く感じました。

向井:少年院には規則があって、そういう中で、“自由”っていうイメージが強いアートの良さを活かせるのかという心配もありました。でも、最終的に私が思ったのは、そういう枠組みの中であっても、アートはすごく力強くて、そういう限界を超えていくものなんだなと思いました。子どもたちは、普段、1時間目から職業指導をやって、午後は体育があって、夜は部屋に帰って自分の課題をやって休む、という淡々とした毎日を送っている中で、こういう行事とか、少しいつもと違う経験から何か気づいて、変わったり、前を向くきっかけになったりすることは、とても大事です。まさにこのワークショップがそういう場所の一つになりました。

山本:学校と同じように、少年院もカリキュラムが非常に詰まっています。いろんなやるべきこと、学ぶべきことを、次から次へと打ち出していますので、実は施設もすごく大変です。少年院にいる子たちにとって、一番大事なことは何なのかということを、全国の少年院の先生たちとも、もう一度見つめ直して、大事なものにきちんと取り組めるような仕組みに変えて行きたいと思っています。

 

// 矯正教育における言語活動と、言葉によらない表現活動の可能性

堤(芸術家と子どもたち):「芸術家と子どもたち」では、ダンスや音楽のアーティストを起用することが多いです。それは、小学校とか中学校で活動をしていく中で、学校教育の中では言語活動が指導内容として多いけれども、子どもの中には、言語化するのが難しくても内に持っているものとか、表現欲求がきっとあるのではないかという思いがあるからです。学校の先生からの要望としても、身体を使った表現や、音楽の要望は多いですが、少年院ではどうなのでしょうか。作文とか、言葉にする活動は、多いのでしょうか?

山本:割合としては、文章を書かせる活動は圧倒的に多いです。日記も毎日、書かせています。日記を通じて先生と交流するという意味もあります。日記は、入った頃は2行ぐらいしか書かない子が、先生との様々な関わりを通じて、徐々に書くようになって、半年ぐらいすると、1ページに収まらないほど書くようになります。子どもたちは自分のことを表現したいんだなと、字の世界の中でも変化を感じます。運動面では、筋トレや、結構きびしい運動を一生懸命やることはありますが、ダンスとか音楽とか、表現的な部分は継続的に取り組むところまではいっていないと思います。

向井:例えば、非行について振り返って考えようとか、親子の関係を考えようという課題に取り組む中で、最終的には、少年院にいる間に100枚くらい作文を書く子もいます。書く中で、初めて考えることができる子になっていくという側面もありますので、作文を書くことの意義はとてもあると思います。一方で、作文、思考能力、感情統制だけではないところも必要だなと感じます。感情表現の仕方として、言語であっても、身体表現でも、音楽でもいい、何かしら自分を表現する術を身につけていくことで、適切なやり方で自分のことを表現することができるようになることが大事なのかなと思います。そういう点では、文章も大事だし、目に見えない、言葉にならないところも大事なんだろうと思います。

山本:作文は、心がぐちゃぐちゃのまま書かせても全く意味がないです。「先生に言われたから、先生が気に入るように書きました」という作文にしかならない。大事なのは、心を開いた上で書くということです。そこに少年院の先生たちは一番気をつけて、書かせるときには注意しています。

隅地:何回もいろいろなテーマに取り組んで書かれるということですが、内省を重ねていくことによって出てくる言葉が純度を増していくということは絶対にあるだろうなと思います。子どもたちが書いた感想を見せていただくと、そういう言葉だからこそ強い。美しいなって思ったんです。上手に整えられているということと、書かれたものが美しくて、読んだ人間が打たれるということは、質の違うことだと思いますが、そういうものを書けるということは、その人が強くなるということで、ダンスをしたときにも、もちろんそれが出てくるなと思います。

北村:文章で書かせることのメリットは、職員が把握をしやすいということです。今回も感想文を書いてもらうと、みんなの気持ちが全部こちらに届いてくるし、職員がしっかり把握できるというメリットがあって、それはそれでとてもいいものだと思います。
今回、ワークショップをやったことは、職員にとっても、子どもにとっても新しいことで、やれたこと自体がすごく濃密な時間でした。実は、少年院って自由に何かをやらせるのは苦手なんです。限られた空間の中で、限られた職員で指導していくためには、指示をして区切っていかないと、大人数を動かすことはすごく難しい。セレノグラフィカのお二人が、そうではない形で人数を動かしていくのを見たことも、職員にとってすごく新鮮で、「なるほど、こういうやり方があるんだな」って気づいた職員もたくさんいたと思います。

阿比留:子どもたちからもらった感想は、体験したことをお手紙の形で返してくれるようなイメージでした。毎回、コメントがちょっと増えていたり、僕たちに対して何かを伝えたい言葉が出てきたりしているのが印象的でした。身体を動かすことでリラックスするなとか、楽しいなとか、一緒にやっている人が楽しそうで自分も楽しいっていう言葉も出てきていました。文章からわかることを、次の言葉がけや、ワークショップのプログラムに活かしていったり、あとは先生方の「この子がこんなことを言っている」という印象も聞かせていただきながら一緒に進めていったので、より繋がってできている感覚がありました。

向井:少年院は、結構、無表情な子も多いんですよね。表情を上手くつくれないというか、笑顔を見たことないな、という子も多くて。このワークショップの間も、笑っている雰囲気が全然ない子もいたので、どういう思いで参加しているのか不安になることもありました。その分、最後に「キラキラした時間を過ごせた」とか「ハピネス」とか感想を聞いて、私もすごく感動しました。セレノさんもそうだったんじゃないでしょうか?

隅地:昨年度のワークショップの一番最後に、輪になって1人1人に感想を聞くかどうか、ということそのものを、すごく迷いました。でも、聞いてみたら、そういった言葉が出てきて。一つとして同じものがなく、淡々と感想を言って。そのことがすごく心に残っています。
皆さんがさっきやってくださった「人差し指を追いかけて」のワークは、私も子どもたちとペアになってやったんですが、私が到底いけないような高いところ、低いところへ、指をもっていくんですよね。そういうことを思いついて「やってみよう」「やってもいいんだ」と、自分がすることを自分が受け入れる、許せるようになって初めて、いたずらっぽいこと、冒険が始まる。そんな身体をみて「この子きっと1人で歩いていくだろう」っていうようなことを思う瞬間がありました。

北村:女子少年院は全国にもたくさんありますが、東日本少年矯正医療・教育センターにいる女子少年は、特に対人不安が強かったり、緊張が強かったり、ASD(自閉症スペクトラム)が強かったりして、表情に乏しかったり、音にとても敏感な子もいます。例えば、運動や体育のときは、ウインドブレーカーをかぶって、そこから出てこられない子もいて。今回のワークショップも多分できないだろうなと思っていたのですが、その子がニコニコしながらやっているんですよね。びっくりしました。表情には出ていないけれど、でも一生懸命やっているんです。本当にみんな生き生き楽しそうにやっていて驚きました。

 

// 子どもたちが社会で生きていくために

堤:少年が出院した後、社会に出ていくのが難しいということについて、少年院と社会との間にある壁みたいなものをどうしていくか。私は社会の側も変わっていかなくてはいけないのではないかと思っているのですがいかがでしょうか。

山本:社会の多数の人たちは、おそらく、少年院が必要だとか、少年院が悪い場所だとかすら、考えていないのかもしれません。自分には関係のない場所だと、思っている方もいらっしゃると思います。ですから、一つは、良くも悪くも、関心をもって欲しいと思います。今、日本にいる子どもたちが抱える課題の一番集約された世界が、少年院にありますので、多かれ少なかれ、社会の子どもたちも同じような問題を実は抱えていて、その中からたまたま少年院に来ているというふうに捉えてほしいです。その意味でも、まず、関心を持ってほしい。それがまず一歩かなと思います。
また、我々の方でも意識を改める必要があると思います。長らく子どもたちと少年院、この2者の関係性だけできた世界です。でも、子どもたちは社会に帰りますから、社会のいろんな人と少年院にいる時から関わることが大事です。我々自身も、いろんな社会の方を受け入れてこそ、少年たちのためになる。我々も変化をしていかなければならないなと、強く感じています。
このアーティスト・ワークショップの取り組みは、とても大事だと思いますし、今日ご参加された方も、これはきっと少年たちにいい効果が生まれると実感されたかと思います。しかし、今後、本当にいろんな少年院で取り組んでいくためには、これがいいものだということを客観的に評価していただくことが必要です。この取り組みが、少年院の子どもたちの発達や、その成長にどのようにプラスに作用するのかということを、学術的に見て、効果があるということを、しっかりと評価いただければ、一気に広がっていくことができるのかなと思います。

久保田:ありがとうございます。「芸術家と子どもたち」では、これからも、少年院で暮らす子どもたちとの活動を続けていきたいと考えています。そのためには、関係者の方1人1人と、こうして顔を合わせてお話させていただくことが大事だと思っております。会場にいらっしゃる皆さんも、この活動に何か関心を持ってくださった方がいましたら、是非この後もお声掛けください。

今日こうして皆さんと場を持てたことで、少しでも子どもたちが「鎧」をつくらずに生きていける社会づくりのきっかけになっていったら嬉しいなと思っております。本日は本当にありがとうございました。


シンポジウム終了後、会場の皆さんからいただいた感想の一部をご紹介します。

●質疑応答にて

参加者1本当に今日の試みはすごく良かったなと思います。先ほど山本さんも仰っていましたが、少年院を、関心を持ってもらえる場所に変えていくということが、やっぱりすごく大事だと思うんです。今、少年院はどんどん数が減らされて、もうなくなってきつつあるんですよね。元々私は、少年院というのは必要悪ぐらいにしか思っていなかったんです。ですが、10数年関わっていく中で、子どもたちが成長していく過程にあっては、絶対必要な場所だと思うようになりました。24時間きちっと見てくださる場所であって、その中では安心して失敗を繰り返せる場所なんですよね。そういう意味では、もっと知ってほしいし、必要だと思ってほしい。そのためには、外部の専門家もたくさん関わって、ここに来ると子どもたちが本当に変わっていく場所なんだっていうことを伝えてほしい。これは法務省を挙げてやってほしいし、またそのために、素晴らしい外部専門家とかを含めて、どんどん招聘して、一番良い教育をやっている場所にしてほしいと思います。
ただ残念ながら、まだ緒に就いたばっかりで。ここまで、山本さんたち法務省関係者が本当に頑張ってくださって、すごく変わったと思うんですが、まだ緒に就いたばっかりだと思うんです。なので今回「少年院とアーティスト」という、なかなか意識の外にあった問題を取り上げてくださったことは非常に大きなきっかけであると思います。さらに、もっと違う分野、例えば最先端の科学技術の学問と少年院がつながっていくとかね、あっと驚くような取り組みを是非、法務省にもやっていただきたい。そして少年院は、絶対必要だっていうかね、子どもたちがそこで少人数の素晴らしい教育を受ける場所になっていくという意味で、今日のこの取り組みは、非常に面白かったなということを発言させていただきました。

参加者2私も少年院の活動には関わらせていただいていますが、今日の「芸術家と子どもたち」の皆さんの活動も拝見して、大変有意義な場を目の当たりにさせていただいたような感覚です。いろいろと皆さんのお話も伺いながら考えていて、確かに少年院の活動はすごく言語化させるっていうことが必要で、求められているし、そのことによって職員にもわかりやすいとか、いろんなことがあると思うんですけど…。やはり学校も少年院も、少年院の場合は24時間をかけて、ずっと成績と評価にさらされている。学校の場合はおうちに帰る時間があって、その時間は成績にも評価にもさらされませんが、少年たちは24時間ずっと評価にさらされているという時間があって、学校でも5~6時間×5日間の30コマはずっと評価にさらされていて、その評価にさらされるからこそ、言語化させる必要が出てきちゃうんですよね。身体活動をどう評価するのかということは、成績としてつけるには、教師や法務教官という立場からはすごく難しいので、“評価が関係ない時間としてある”ということの、活動の必要性はすごく大きいなと思ったんです。
というのは、この「芸術家と子どもたち」の活動の履歴を見させていただいても、今日話を伺うまでは、なんで少年院で4回しかやらないんだろうって、なんで1つの学校で1回や2回で終わっちゃうんだろうと、どこか物足りない感があって。もっといいはずなのに、もっといっぱいやればいいのに、って思っていたんですが、多分、今の学校とか少年院にこれを長いスパンで入れようとすると、評価の対象になるんですよね。評価にさらされないからこそ、子どもたちの心が動いたり、身体が感じ取っていたりするっていうことが、とても大事なんだろうな、というふうに私は感じて。かつ、だとしたら、やっぱりもっと活動量を増やしてほしいと思ったんです。
例えば、学校教育でいうと30コマの中の何コマかは成績をつけない「フリー」という時間割を文部科学省がつくる必要があるんじゃないかなとか、法務省も何の評価にもさらさない「フリー」っていう枠組みを持たなきゃいけないんじゃないかなとか。そういうところに、いろんな科学者たちや芸術家たちが入ってきてくださって、いろんな子どもたちが“本物の”ものと、ことと、人に出会うということをやっていくような、そういう「浮いている時間」みたいなものをつくっていく必要性というのを考えました。そうすればきっと少年院に来る前の段階で、こういった方々と出会って、自分の表現の仕方とか、自分ってものを知って、そうならなかった子どもたちも、いっぱいいるのかなということを考えさせていただきました。

 

●アンケートにて

  • 参加させていただいて心から良かったと思います。日本の学校現場では、まだまだアーティストと出会う場、機会がありません。自分を発見して、自己を肯定していけるような環境づくり、ガラリと日本の社会が意識を変えていく必要があると感じました。
  • 少年院にいる子どもたちも一般社会にいる人たちも心のあり様は変わらない感じがした。ただ非行で生きのびたということや少年院について理解すること、知ることも大事だと。ワークショップは、動き始めはやはりめんどくさい(笑)が、歩いて誰かと対面した時の空気のゆるみがスゴイなと改めて思った。シンプルな動きだけど、声のかけ方、ゆっくり丁寧にナビすることで良い空間や時間が生み出されるのだなぁ。
  • ホンモノ(モノ、コト、ヒト)に出会うことが、子どもたちの発達にとっていかに重要なことかということを改めて考えました。常に評価にさらされ、考え続ける子どもたちが、本当に考えていくためには、このような取組とそのゆとり(時間)が不可欠と思います。
  • 実際にワークショップをしてみて楽しく体験しなければ分からない世界だと思いました。子どもたちの可能性を引き出す方法は豊かにあると感じられた時間でした。ありがとうございました。
  • まずは、大人がきっかけを作っていく(工夫していく)ことが大切だと思いました。芸術家と子どもたちの活動を通して心が変わる子が多くいます。子どもたちにとって一番大切なことは何かを、自分自身に問いかけるきっかけになりました。
  • 少年院について知れて良かったです。(少年院にいる子どもたちは)加害者である前に、社会の被害者なのだなということがよく分かりました。出院した子たちが出会う大人たちのうち、失望させてしまうような大人にならないように、自分自身知らないうちに抱えているであろう偏見に気づいていけるよう努めたいと思いました。
  • ワークショップで指を追ったやつは、鏡の中の自分を見ているような感覚になり、相手も自分も同じ、境界線が「ない」ようで、鏡だから「ある」、よい距離感に感動した。普段は全然違う仕事をしているので全く知識はなかったが、少年院も、学校も、子どもも大人も、どんな環境、遺伝子の人も、自分と同じ人間、動物なんだ、と改めて感じられた。
  • 生きづらさを抱えている少年院の少年にとって、アートや身体表現は別の視点で自分を理解し、開放していくとても大切な活動であると再認識できました。すべての少年院で導入できるような支援を法務省で取り組んで欲しいですね。
  • 保護すべきこともたくさんあるでしょうし、良からぬ方向に利用しようと考える人も出てくるかもしれないですが…でもやはり、どんどん社会に向けてメッセ―ジを発信して欲しいし、いろんな世界から協力してくれるパートナーを増やして欲しいと思います。知らない・閉じられた世界はどうしても、勝手に悪いイメージをもたれやすい感じがするので。
  • 自分の心の傷つきに向き合うことは、大人にも難しいことですが、それをできるための応援というか、あたたかく、見捨てない存在として、芸術はものすごく頼りになるし、信頼できると思います。私も「ザル」の一つとして、これからも学び、行動しつづけようと思います。

登壇者プロフィール

山本宏一/法務省矯正局少年矯正課 課長

秋田県横手市生まれ。秋田大学教育学部卒。
平成2年、盛岡少年院で法務教官として勤務開始。その後,法務省大臣官房、矯正研修所東京支所教官、矯正局総務課補佐官等を経て、平成28年に新潟少年学院長、平成29年矯正局更生支援室長として政府の再犯防止推進計画の策定等に矯正局の立場から関与、令和元年矯正局少年矯正課企画官として少年法等の改正を踏まえた少年院の新たな運営方針策定等に関与、令和4年東北少年院長、令和5年現職。

向井信子/元・東日本少年矯正医療・教育センター教育調査官、現・法務省大臣官房会計課

千葉県柏市出身、早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻修了(臨床心理士、公認心理師)。大学在学中に、少年院を見学して法務教官になることを決意。平成12年に東京都の愛光女子学園で法務教官人生をスタート。その後、法務省矯正局、大臣官房、矯正研修所、榛名女子学園、東京矯正管区での勤務を経て、令和3、4年度は東日本少年矯正医療・教育センターにて、学生や一般の方々に対する少年院の広報などを担当。芸術家と子どもたちによるアーティスト・ワークショップをセンターで導入するための各種調整に携わる。「より多くの方々に少年院のことを知ってもらい、少年たちの応援団になってほしい!」がモットー。

北村靖子/東日本少年矯正医療・教育センター統括専門官 法務教官

岡山県岡山市出身。岡山大学大学院文学研究科卒。
平成16年に、香川県の丸亀少女の家(「家」ですが少年院です。)に採用。その後、榛名女子学園、前橋刑務所、前橋少年鑑別所(群馬県に10年間住みました。)を経て、東日本少年矯正医療・教育センターに企画統括で着任。少年院で、外部協力者の方々の活動を、いかに被収容者の教育につなげていくか、にチャレンジする日々です。

セレノグラフィカ/ダンスカンパニー

©Ai Hirano

1997年、隅地茉歩と阿比留修一によって設立。カンパニー名のセレノグラフィカとは、Selenography(月面地理学)+icaで「月究学派」(時間や場所によって変化する月のように、一見とらえどころの無いダンスやアートを追求する者たち)の意の造語。関西を拠点に国内外、屋内外を問わず幅広く活動を展開するダンスカンパニー。多様な解釈を誘発す る 不 思 議 で 愉 快 な 作 風 と 、 緻 密 な 身 体 操 作 が 持 ち 味 。 隅 地 茉 歩 ( T O Y O T A CHOREOGRAPHY AWARD2005「次代を担う振付家賞」[グランプリ]受賞)は「踊るぬいぐるみ」、阿比留修一(平成8年度大阪府芸術劇場奨励新人認定)は「かかとの無い男」とあだ名され、ヨーロッパ、韓国、オーストラリアなど国外でも作品を発表。近年は公演、ワークショップ、教育機関へのアウトリーチを含め、あらゆる世代の心と身体にダンスを届けるべく全国各地へ遠征を重ねている。
(一財)地域創造「公共ホール現代ダンス活性化支援事業」登録アーティスト。


登壇者の皆様、会場にお越しくださった参加者の皆様、本当にありがとうございました。

まだスタートしたばかりの「少年院×アーティスト」の取り組み。今回こうして多くの方と共有できたことで、今後の活動に向けて、また新たな視点をいただけたようにも思います。改めて強く思うのは、すべての子どもたちに、アーティストとの幸せな出会いを届けたいなということ。学校も、児童福祉施設も、少年院も、アーティストと共に通うその場所にいる子どもたちは、どの子もみんな、最高に素敵な子どもたちです。そのことを、私たちはこれからも発信し続けていきたいと思います。心の塀は、私たち1人1人が無意識のうちにつくり上げてしまうもの。その先にいる子どもたちのことに、ふと思いを馳せるきっかけがあることで、社会はもっと豊かになっていくのではないかと信じています。

編集:NPO法人芸術家と子どもたち
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