【シンポジウム報告】小児医療におけるアートを活用した心のヘルスケア<前編>
芸術家と子どもたちでは発足以来、学校や児童養護施設などの教育・児童福祉の現場で、数多くのアーティストによるワークショップ(ASIAS:エイジアス)を実施してきました。
2021年度からは、初めての小児病院との取り組みが、埼玉県立小児医療センターで始まりました。コロナ禍と重なったため、対面およびライブを基本としたワークショップ内容自体を見直しました。そして、YouTube動画を活用した、対面&ライブでなくても子どもたちと交流できる、シリーズもののワークショップ動画『ちゃっちゃ☆チャンネル』(You Tubeの限定公開)を、アーティストの新井英夫さん(体奏家・ダンスアーティスト)、板坂記代子さん(ダンサー・美術家)、はしむかいゆうきさん(音楽家)、そして小児医療センターの方々と共に考案し、病院の子どもたちにアートを届ける方法を模索してきました。
2023年度には、動画作成と並行して、病室とアーティストをオンラインでつないだワークショップや、外来ロビーでコンサート・ワークショップを実施するなど、感染症対策の緩和に伴い、子どもたちと直接的な関わりもできるようになりました。
今回のオンライン・シンポジウムでは、小児病院での子どもたちの実態や、心のヘルスケアについて、埼玉小児医療センターで今回のワークショップに関わってくださった方やアーティストと一緒に活動を振り返りながら、今後の課題や可能性を考えていきました。その内容を前編・後編の2回に分けてコラムでご紹介します。
オンライン・シンポジウム『小児医療におけるアートを活用した心のヘルスケア』概要
登壇者 | 天野香菜絵/埼玉県立小児医療センター チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS) 冨澤真麻/埼玉県立小児医療センター ボランティア・コーディネーター 新井英夫/体奏家・ダンスアーティスト 板坂記代子/ダンサー・美術家 |
開催日時 | 2024年3月22日(金)14:00〜15:30 |
会場 | オンラインのみ(zoomウェビナー) |
プログラム |
①芸術家と子どもたちの活動紹介 |
参加者 | 31名 |
助成 | 公益財団法人 小林製薬青い鳥財団 |
天野香菜絵さん(チャイルド・ライフ・スペシャリスト)による講話
■チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)ってどこにいるの?
「CLS」は、現在は全国に49名ほど活動している者がいまして、大体は大学病院か当センターみたいなこども病院で活動しています。49人と聞くとかなり少ないと思われるかもしれませんが、世界的に見ると、北米、カナダに次いで日本が3番目に多い国ではあります。私は日本で30番前後のCLSです。
■CLSはどんなことをしている人?
CLSは、少し硬い言葉で言いますと、通院や入院などで病院に来ることを非日常であると考えて、非日常である病院という環境に置かれたお子さん自身やそのご家族が、病院での体験、経験、その環境をどう乗り越えるかお手伝いをすることを心理社会的サポートと言い、そのようなサポートを行う専門職になります。
私はベースとして発達学を主に学んでいます。あとは死生学、人が亡くなるとき、大切なものを失うとき、どんなことが気になるのかなということなどを学問として学んでいます。ここは病院ですし、私は医師でも看護師でもないので、医学についての基礎知識がありますなんていうのは口が裂けても言いたくないんですが、学生の頃の授業である程度の医療用語は習います。例えば日本語で「白血病」だと、白い血の病だな「血」っていうのはつまりは血球に結びつくんですが、大体どこら辺が病気なのか、どんな病気なのか読み取れるじゃないですか。英語もそうなんです。ざっくりカルテが読めるぐらいの医療用語の基礎知識、平たく言うとすっごく初歩的な医学分野の基礎知識なんかを学生時代に学びました。
発達学では、例えば、人間の一生を学ぶ授業がありました。その授業で使う教科書の第1章は、受精卵の写真でした。人が生まれるところから、最後はお墓の写真でした。本当にこの授業では「一生」を学ぶんだな、と思ったのがすごく印象に残っています。赤ちゃんの頃の身体や認知ってどんなふうに育っていくのかとか、大人になっても発達が止まるわけではないので、大人の人がどんなふうに、その年代に合わせた、例えば身体的な変化だったり、認知の部分の変化だったりどんなことがあるのか、ということを体系的、全体的に学んでCLSになりました。
そんなバックグラウンドを持っている私が、具体的に病院で何をやってるかと言いますと、5本の柱に支えられています。一つ目が、入院中の子どもたちへの遊びの提供。二つ目が、治療や入院、処置など、一体何が起こるかわからなくて「やだやだ」となっているときの心の準備のお手伝い。三つ目が、その心の準備をお手伝いして、患者さんがこれから頑張ることをどう頑張るか作戦を立てたときに、それを実践に移すお手伝い。四つ目はごきょうだいへの支援と、最後はグリーフケア。残念ながら当センターの子どもたちは全員が全員元気になって退院していくわけではなくて、中にはお別れをしなきゃいけないケースもあるんですが、その大切な方とのお別れをご経験されるときの支援です。
■アートを通じた子どもとの関わり
今日は『アートを活用した〜』というタイトルなので、学生の頃に学んだことに立ち返りまして、お話ししたいなと思います。学生の頃に、絵を描いている子がいて、その子に最初から「わあ!すごいね!」と言うのはNGだと学びました。なぜかというと、この「すごい」という評価は、何に対してのものなのかということをまず考えなさい、と習いました。
CLS的な声かけは「すごく集中して描いてたね」「わあ!七色もある、すごくない!?こんな色があるんだ?」とか、描いた絵ではなく、アートに取り組んでいた子どもの姿勢や、集中していたことなど、その子を褒めなさい、ということでした。ほめる声かけに対して、そのお子さんが「これ、良いでしょ~!」と言って初めて、絵に対してその子自身が「良い」と判断していることがわかるんです。そしたら初めて「そうね、素敵だね」って返しなさいと習いました。あくまでお子さんの意見に同調するのであって、私たちCLSは絵の評価はしていないんですね。伝える側が中心ではなく、伝えたい側の子どもたちのアイディアや思っていること、意見だったり感想だったり、それを引き出して、且つそれをサポートしていきなさい、と習いました。アートに対するCLSの姿勢としてもそうだなと思っていますし、他のことに対してもそうありたいなと思いながら活動しています。
また、絵を見て明らかに「これ虹だな」とか「多分お母さんを描いているんだろうな」と思ったとしても、「何描いたの?」ってよく聞きます。「虹だよ」って教えてくれたり、「お母さん」と教えてくれたりすると「なんでなんで?なんで虹なの?」「そうなんだ、お母さん描いたんだ。どうして?」と聞きます。そうすると「○○に行ったとき見た虹なんだ」とか「ママと○○しているときを描いたんだ」とか、少しずつその子を取り巻く環境が見えてくるので、しっかりお子さんと話すきっかけにもなります。話すことは、人との信頼関係を築くことにつながるので、それにもアートをとても活用しています。
■アートを通じたA君とご家族との関わり
次に、症例を少しお話しします。どんなお話をしようかなとちょっと悩んだんですが、先ほどグリーフケアというのがあるんですよってお話させていただいた、お別れをしたときのお話です。
中学生のA君と、16歳のお兄さん、お父さんとお母さんというご家族でした。A君はたまたま痙攣が重なって起こったことがきっかけになって、数週間経過を辿ったんですが残念ながら脳死判定になり、判定にご家族が戸惑うような発言をされたのをきっかけにCLSのご依頼をいただいて、関わり始めました。
まずはお兄ちゃんの話を伺いました。お兄ちゃんが「正直もう今の状況に全く現実味なんてなくて、全然現実のことと思えません」と教えてくれました。ただ、今日病院で脳死って言われたんだ、A君がこういうふうになっちゃったってお父さんとお母さんから聞いた日に、A君は元気な頃は必ずお家に帰ってきたら、自分で鍵は開けずにガチャガチャッて「帰ったから鍵を開けて」ってやる子だったそうなんです。そのガチャガチャの玄関の音が聞こえたから「きっともうA君は帰ってきてる、病院にはいないと思うよって話したんです」と教えてくれました。「ああ、そうなんだね、そんな子なんだね」って言いながら、私も話を聞いていました。「でも現実味なんてないよね、そんなんあるわけないよね」と、そのときも同調しながら話をしました。
そして次にお母さんと話をしました。お兄ちゃんがガチャガチャってドアの音を聞いたんだっていう話をしてくれたことを聞いて「脳死ってことはそういうことなのかもしれないけれど、じゃあ私が今付き添っているこの温かい身体のAは一体何なんだろう。そもそもこの時間って一体何なんだろう、って思うんです。でも、それと同時に、この時間は先生たちが言うように、永遠には続かないんだろうなというのも頭のどこかでは思っていて。Aが本当の意味でお別れを迎えたときに、私はこの先どうなるんだろうという漠然とした不安を覚えます。主人は仕事に行きますよね。お兄ちゃんは今は学校をちょっとお休みしてもらったり、今日は行くって言ってちょっとだけ行ったりとかしているけれども、学校にずっと通うようになって、私は主婦なんで一日家にいて、そういうときにどうやって過ごしていくんでしょうね、今からそれが気になります」と話されていました。そのときも「そうなんですね、そういうお気持ちもあって然るべきかなって思いますよ」って伺いながら話をしました。
そしてお父さんにもお話を伺うと「怒涛の日々過ぎて、とにかく自分の気持ちがどこにあるのかわからないんです」とおっしゃっていました。実感もないし、自分の気持ちもよくわからない。病室にいる間はまだ大丈夫で、看護師さんもよく来てくれるし、こうやってCLSと話す機会もあるし、人と話してる間、自分の息子のそばにいる間は、何とか現実味はなくとも何となくこれが現実なことなんだっていう実感はあるんです。でも、ちょっと病室から離れると、ふとした折に、「俺何やってるんだろう」って思ってしまう、もう涙が止まらないこともあって、そもそもどういう気持ちで泣いてるかもわからないんです、と。当時コロナの時期だったこともあって、比較的容易にテレワークにしてもらえたんですが、テレワークに変えたものの本人も集中もできないけれど仕事はやっぱりあって、とお話ししてくださいました。ご家族みんなそれぞれに、戸惑いがあるんだなと思ったんです。
せっかくA君が頑張ってくれているんだから、この今の時間をA君のご家族なりに何か過ごすことはできないかなと思いました。そしてやってみたのが手形のアートでした。A君を含めて家族全員分の手形を取ったんです。「好きな色は何色ですか?」「紫」「よし、つくりましょう!」と。赤と青の配合どうしましょうかと言いながら色をつくって手に塗って、筆で手に塗るとくすぐったいし、ちょっと冷たいし「なんてこった」って言いながら塗って「なんで紫が好きなんですか」とか、「お父さんは何色にしますか?」「お母さんは何色にしましょうね」なんて話をしながらやりました。そしたら、A君とお母さんの共通の趣味がピアノで、お母さんはご自宅で小さなピアノ教室をしているお話や、A君とお兄ちゃんは2人とも同じアーティストが好き、なんて話もたくさん聞きました。紫は、その推しカラーでした。そこでもう一歩、私はお母さんと一緒にピアノの演奏の収録に行くことを提案しました。
というのも、当センターは小児病院で、患者さんが全員お子さんなんです。となると入院すると学校に行けないということがとても大きな問題になってくるんですが、当センターの7階にけやき特別支援学校という学校が入っていて、小学部と中学部があり、高校生も支援していて単位も取れます。本当にちゃんとした学校なんです。体育館や家庭科室、美術室もあるし、もちろん音楽室もあります。なので、その音楽室とグランドピアノの使用許可を取って、お母さんのピアノの演奏を録音して、病室で流してみましょうと提案しました。
その日は、病室に寝てるA君に「ちょっと行ってくるね、なんだったら一緒においでよ」とお母さんが声をかけて、「A君も一緒だね、3人のお出かけだね」なんて言いながらいそいそ7階の学校に行って、音楽室にはいっぱい譜面があるので、お母さんが何にしようかなと選ばれたのが、いきものがかりの『ありがとう』でした。いい曲ですよね。思わずしんみりしながら録音しました。そのあと、手形を取ったときに、お兄ちゃんたちが好きなアーティストの話もしておりまして、そのアーティストの代表曲の譜面があったんですよ。お母さんは、先ほど言いましたように、ピアノの先生なので、譜面を見ただけで弾けるんです。なので「この曲は、私もあの子たちが音楽番組で見ているのを聞いたことがある気がするなあ」と言って、サッと弾かれたんです。そしたら、さっきからシャンシャン鳴ってる気がするなぁ、でも気のせいだよね…?と思っていたピアノの対角線上に置いてあったドラムが「ジャン」って鳴ったんです。それを聞いて、その『ありがとう』からのしんみりと、感動を混ぜたような空気がパタっと止まりまして、お母さんも大笑いされました。
お母さんが泣き笑いされながら、あの子が好きな曲を聞いた途端にドラムがなるなんて、玄関のドアを「開けて〜!」とガチャガチャするようないたずらっ子のAらしくって、とってもとっても笑っちゃいました。お兄ちゃんが「Aはもう病室にいないよ」と言っていたのは、そういうことなんですよねって、なんだかとっても腹落ちしました。納得できた、なるほど、と仰られて。あとはもう「パパのところにも行ってくれるといいなあ」といっそ晴れやかに仰って、その日は病棟に戻りました。病棟でもお母さんがA君に「本当ついてきてたね」と言って、こんなことがあったんだよって看護師さんに話をしながら過ごして、最後はご退院されました。
■まとめ
私が思うアートが病院でできることについて、大事なのはお子さんやご家族の居場所づくりだと思っています。先ほどの手形のお話もそうですし、他のケースもいろいろありますが、私は普段から患者さんと遊ぶこともお仕事なので、お別れの現場だけではなくて、工作などをして過ごすこともあるんです。その時の子どもたちを見ていると、馴染みのあることや好きなことをすると、やっぱり安心感を得られるんだなと思います。病院に来てても「こんなことができるんだ」という馴染みのあることができることは、やっぱりすごいなと思っています。
あとはその子の作品だったり、アートって先ほど私がお話ししたように、手形を取る工作的なものもあれば、ママの弾いたピアノだってアートだったと思うんですよね。形があるものも、ないものも、全部がコミュニケーションのきっかけになるなと思っています。そして、感情のシェアもサポートできますよね。お母さんの息子を失う気持ちにそっと寄り添うこともできますし、もちろんつくっていて「楽しい」っていう気持ちもあって、そうした思いを表現しやすく、またこちらとしても寄り添いやすく、そんなきっかけになるなと思っています。
【講師プロフィール】 2010年米国ルイジアナ州ルイジアナ工科大学チャイルド・ライフ学部卒。卒業後、ミズーリ州Children’s Mercy Hospitalにてインターンを経て、2012年より地方独立行政法人埼玉県立病院機構埼玉県立小児医療センターにてチャイルドライフプログラムの立ち上げ・運営を行い、現在に至る。 |
冨澤真麻さん(ボランティア・コーディネーター)による講話
■ボランティア・コーディネーターとは
ボランティア・コーディネーターは「市民のボランタリーな活動を支援し、その実際の活動においてボランティアならではの力が発揮できるよう、市民と市民または組織をつないだり、組織内で調整を行うスタッフ(認定NPO法人日本ボランティアコーディネーター協会公式サイトより)」です。ざっくり言うと、院内で活動する、外部もしくは院内の中で登録されているボランティアの方々の活動を調整サポートしています。資料に載せたのは、研究集会があったときの写真で、みんなボランティアコーディネーターなんです。1人は社会福祉協議会のコーディネーター、1人は大学のコーディネーター、2人は病院のコーディネーターです。こういった形で実は結構いろんなところにボランティアコーディネーターって潜んでいます。もし今後見つけたら、「あ、ここにいた」と思っていただければと思います。私は、小児医療センター内でのボランティア活動のコーディネートをしていて、ここは小児専門病院なので、大人の病院にはないような活動も結構あります。
まず紹介する活動は、月に1〜2回程度、通年で定期的に活動されている方々です。マクドナルドハウスからくるハートフルカートの中にいっぱい寄贈品が載っていて、病棟に入ってみんなにプレゼントを配ってくる方々がいます。また、院内にある植栽の手入れをしてくれる方々や、クリスマスのプレゼントをつくってくれる方々など、毎月延べ120人ぐらい前後の方々が、何かしらの活動に参加されています。次に紹介するのは、単発的な活動です。コロナ禍が非常に大きく影響して、イベントを全くやらなかった時期もあったんですけど、ここにきて少しずつ再開してきています。
そうした活動の中で『ちゃっちゃ☆チャンネル』は何なのかというと、オンライン・ワークショップとかコンサートは単発的なイベントですが、動画の配信は定期的に行われているので、単発なのか定期的なのかどっちの活動かちょっとよくわからないけど、病院の中ではどっちもどっちだよねっていうふうな結構ゆるい感じで見られている感じです。
いずれにせよ、どんなボランティア活動も、病気を抱えて入通院されているお子さんや、また見守るご家族のために何かできないかという、皆さんの本当に温かいお気持ちがあって、エネルギッシュに活動されています。その力は絶大で、病院にとっても非常に頼りになる心強いチームメイトとして、感謝してもしきれない存在となっています。
■芸術家と子どもたちとのこれまで
3年前の今頃、芸術家と子どもたちからたまに資料が届いていたんですけれども、そういったものを見ながらちょっとお話をさせていただいたり「何かできることありませんかね」というような話をしていました。ただ、当時はコロナもあったし、企画を立てた2021年は、まず希少疾患外来で何かやりましょうという話をしたんですけど、それもできなくなりました。病棟向けのオンライン・ワークショップという話も出ましたが、それもちょっと難しいな、みたいなことで、実はコロナの影響で何度も何度も断念しました。
そんな中、2022年の1月に、新井さんと堤さんと中西さんが、いよいよ病院に来られまして、4人でお話をしました。そこですごく盛り上がって「動画つくりましょうよ」というかなり熱い話になり、そこから『ちゃっちゃ☆チャンネル』がスタートしています。
■動画をつくってみたら
「動画をつくりましょう」と決まったんですけど、正直そのときの病院は「YouTubeとはなんぞや」「動画とはなんぞや」みたいな状態で、私がいくら説明してもみんな何のことかわからない状態でした。さらに、私がなぜか出演することになってしまって、私だってYouTubeなんかよく見たこともないし、素人でただただもう足を引っ張るばっかりでした。収録方法は、病院の中とあらぴー(新井)さんといた(板坂)さん、はっしー(橋向)さんを3元中継でつなぐスタイルで行っています。第1回目の収録は、院内に誰もいない日曜日の午前中でした。ひっそりとこっそりと、誰かから隠れるかのように収録していたのがいい思い出です。
●病院内の反応
少しずつ動画にいろんな人が出てくれるようになりました。出演者というか院内の視聴者もいるんですけども、実は病院の中で私のような素人のしかも一介の非常勤職員がスタッフに頼むのは、結構ハードルが高いんです。でも頼んで「どうですかね」っていうと、意外と皆さんやってくれるんですよ。しかもノリノリでやってくれる。それはやっぱり、小児医療センターで「子どものために何とか楽しいことをみんなでやろう」という雰囲気があって、うちの病院ならではだなと毎回思いました。さらに出来上がった動画をまず幹部職員にチェックで見てもらうんですけど、意外に「楽しい動画だったよ」「いつもありがとうね」とか、病院長副病院長、上のスタッフがどんどんいろんなコメントを出してくれるようになりました。しかも最近は「編集かなりうまいね」という声までかかってくるようなって本当にありがたいです。
●お子さんたちの反応
(視聴する子どもたちとコミュニケーションを図るために)お便りカードをつくったのですが、これまでにいただいたお便りカードは全部で29通あります。その中には毎回必ず出してくれるお子さんがいて、お名前が一緒なので「またくれた!」と私たちの中ではすごく楽しみになっていました。ただ、その方をこちらから探すことができなかったのですが、たまたま私が外来を歩いていたときに「冨澤さん」って声をかけてくれた方がいました。「どうしたんですか、なんで私の名前を知ってるんですか」って聞いたら、実はチャンネルを見てるんですということで、「『ちゃっちゃ☆チャンネル』を見てる○○さんに会えましたよ!」って中西さんにご連絡したら、新井さんと涙を流して喜んでくださいました。そしてつい先日、その方とオンライン・ワークショップができました。これも非常に嬉しいお話でしたね。
●『おかし屋マーブル』
院内に『おかし屋マーブル』というお店があり、そこに(お便りカードの)ポストを置かせてもらっています。いつもカードを交換してくれたり「お便り入ったよ」とメールをくれたりするんですけど、私たちはその子たちになかなか会えないので、店長さんのチェックが非常に楽しみです。
■オンライン・ワークショップについて
オンライン・ワークショップは、病棟に私と中西さんで一緒にパソコンを持って入っていって、個室のベッド上、大部屋でお友だちと一緒に、もしくはプレイルームで三〜四組一緒に、といった形で皆さんにご参加いただいています。
オンラインイベントは、コロナが始まってから非常に増えました。それまでは対面で病棟でのイベントが行われていたので「オンラインってどうなの?」と、スタッフからは不安があるという話も聞いていました。でも、やっぱりアイディア次第でオンラインだからこそ楽しいとか、オンラインだからこそできたよねっていうこともあって、私としてはやって良かったなと思っています。
どんなことしたかというと、工作とかお絵描き、あとはオンラインで(画面の)向こう側の新井さんと板坂さんが遊びに来たりとか。私が一番印象に残っているのが、お子さんから「かくれんぼやりたい」とお話があって、どうやるんだろうと思っていたら、おもむろにそのお子さんが布団の中に潜り込んで、「そうか、こっちが隠れるのか!」と思って、(画面越しに)新井さんと板坂さんに探してもらったんですけど、二人が鬼になって「あそこにいる!」って言いながら遊びました。その子は、個室のお子さんだったのでとても楽しそうでした。なかなか外のお友だちと遊べない状況だったので、隣に寄り添っていたお母さんも「どこにいるかね」って言いながら、お母さんと一緒にオンラインでかくれんぼっていうなかなか斬新な遊びができて、すごく楽しかったです。
■子どもたちの様子
オンライン・ワークショップを見ていた私が何となく感じたことなんですけども、オンラインだと「一対不特定多数」みたいなことが多いですよね。ただ今回の場合は、一対一だったり一対二、一対四だったので、お友だち感、身近さ、親近感をすごく感じました。スピード感もすごくよくて、反応がいいというか、すぐに対応できるというところが面白くて、お子さんもぐいぐい引き込まれるなと思いました。
あと「何かを一緒につくる」ということですね。最初は恥ずかしくて、こちらの方を見てくれなかったお子さんが、(新井さんたちが)折り紙つくり始めたぞとか、何かを描き始めたぞとかってなると、ついつい気になってきて、最後は結局一緒につくり始めるということがあって、やっぱり「一緒につくる」ってすごいなと思いました。
それから、先ほど天野さんのお話にあった「感情のシェア」というところですね。自分の今の感情を表現して、それをモニターの奥の新井さんや板坂さん、隣にいるパパとかママと一緒に共有できます。病棟の中では面会できる時間はすごく制限されているので「楽しい、嬉しい」という気持ちをパパとママと共有できて、そのときのお子さんの表情が非常にキラキラしていたなと感じています。何よりも、新井さんと板坂さんの順応性と柔軟性がすごくて、オンラインでも対面と同じようにスッスッと入っていくのは本当に素晴らしいなと毎回思っています。
■外来コンサートでは
外来でのコンサートは、去年の5月と今年1月に2回実施しました。リハーサルのときから、橋向さんがいろんな楽器を出してくれて、そこから皆さんがいろんな楽器に触れて、少しずつ人が集まって来て最終的には本当に人がこんもりして、スタッフが「今日はすごい盛り上がってたね」って、あの日は一日「コンサート楽しかったよね」と言われました。車椅子やストレッチャーで来ているお子さんたちも音楽にふれやすく、いい機会をもらったなという気がしています。
■まとめ
この3年間を振り返ってみると、見事にコロナ禍に重なっていて、病棟のイベントがほぼなくなってた時期だったんです。その時期に、病棟で楽しめるオリジナル動画をつくれたことは非常に大きいです。ボランティア活動がゼロだったときに、こんなことができたというのは大きな実績だったなと思います。
次は「まさかのシリーズ化」。最初は動画だけと言っていたのに、オンライン・ワークショップをやって、次はコンサートもやるんだ、となってすごいいろいろやるんだなって思ったんです。しかもそれを全部私がやるんだっていうのもありましたが、動画、ワークショップ、コンサート、全部形態が変わってるんですけど、新井さん、板坂さん、橋向さん、ちゃっちゃが絶対出てるんです。そして患者さんとのやり取り、ご家族とのやり取りが、基本に、柱にあるっていうところが面白くて、こんなにいろんな形を変えてできるんだなって感じています。『ちゃっちゃ☆チャンネル』のイメージというのはすごく固定化されて、受け入れられやすくなったなというふうに思いました。
もう一つ、院内の変化です。最初は先ほどお話ししたように、すごく小さい企画だったんです。しかもコロナ禍で、細々と実は誰も知らないような中で私1人でやっていました。ただ、少しずつスタッフが信頼してくれて、「ちゃっちゃ見たよ」って言ってくれるようになって、そうすると関わる人たちが増えてきて、今では「ちゃっちゃね、また新しいの出たんだね」って言われることが普通になってきて、いろいろ長くやってるといいことあるなと、今思ってます。
この繋がりって非常に大きくて、他の仕事や業務に非常に良い影響をもたらしてくれたんです。私自身も何かできたなっていう自信にもなりましたし、個人的なことですが、ちゃっちゃが私の考えや業務にもたらしてくれた効果というのはすごく大きかったです。
■これからも
これからのことを個人的な願いとして考えてみました。「より身近でよりみんなに寄り添えるチャンネルになってくれたらいいな」という非常に漠然としたものですけれども、オンラインワークショップは、病棟のお子さんの表現活動をサポートできるなと思っています。なので、楽しいことがあったら、ちょっと寂しいなって思ったら、何か話したいなとか、ちょっと素敵な絵が描けたら、誰かに聞いてもらいたい誰かに見てもらいたいっていうときに、「ちゃっちゃに話してみたら」と、軽く誘える環境ができたらいいなと思っています。
あとはコンサートですね。コンサートは非常に多くの外来の患者さんにご参加いただいています。先ほどお話ししたようにベッドや車椅子で参加のお子さん、コミュニケーションが苦手なお子さんも「音楽は楽しめるんです」「楽器の音は好きなんです」という子が来てくれるんですよね。安定的にコンサートができたら、もっとみんなに知ってもらえて楽しんでもらえるかなと思います。外来の受付に来た時に「今日はちゃっちゃの日だ、ラッキー!」という声が聞ける日が、いつか来るといいなと思っています。
【講師プロフィール】 青森県八戸市出身。日本社会事業大学社会福祉学部児童福祉学科卒。 |
今回、天野さんや冨澤さんのお話を改めて聞くことで、病院の中には、子どもたちやご家族と一緒に病気に向き合いその日々を支えている、本当にたくさんの方々がいることを改めて知る機会にもなりました。私たちの活動もその一部であり続けたいなと思います。コラムの後編では、アーティストも交えて今後の可能性についてなどディスカッションした内容をお届けします。
編集・記録写真:NPO法人芸術家と子どもたち
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