からだを奏でることからvol.2 ~アーティストのこえ~
からだを奏でることから
~アーティストのこえ~
友愛学園児童部(障害児入所施設)
×新井英夫(体奏家・ダンスアーティスト)
18歳以下の障害のある子どもたちが暮らす、障害児入所施設でのアーティストワークショップ。前回のコラムでは、一緒に参加して下さった友愛学園児童部職員の方々に伺った、ワークショップへの期待や実施後の効果などをご紹介しました。Vol.2では、アーティストの新井英夫さんに伺ったインタビューをご紹介します。
>>ワークショップ概要、施設職員の方へのインタビューを記載したvol.1の記事はこちらから
「言葉を用いない些細な表現」を受け止めて返せる場
~アーティストからみたワークショップ~
「言葉を用いない些細な表現」
を受け止めて返せる場
~アーティストからみたワークショップ~
新井英夫さん(以下、新井):基本的には、曲をかけてみんなで振付を練習するなんてことはやらずに、即興でその場で簡単なルールに基づいて、動きによるコミュニケーションを楽しむことを中心にやっていました。例えば、「フッと相手の息に吹かれたら、自分の身体が軽い羽になったつもりでフワッと動いてください」、「息の強さ、方向によって羽が舞うようにして動いてください」といった簡単なルールを決めて、言葉じゃないやり取りで対話をするというような、動きのコミュニケーションみたいなことを重ねました。動きだけじゃなく、時には音と動きとか、その両方を子どもたち自身につくってもらったり。
―障害児入所施設にアーティストが赴くことに、どのような意義があると感じましたか?
新井:この施設にいる子どもたちの特徴は、「家族と離れて生活している」ということ。そして、それぞれの子どもたちが、いわゆる「障害」であると社会的に言われるようなものを抱えているということ。ただ、ワークショップの中で僕がやっている、「言葉を使わない動き」や「音によるコミュニケーション」では、「障害があるからできない」とか「障害があるから面白い表現が表れてこない」みたいなことは、実はそんなに感じなくて。むしろ、言葉巧みに自分を表現できる子どもたちとワークショップをするよりも、僕が思ってもみない想定外のことを、ポンッとやすやすとやってくれたりすることも多いです。
彼らが普段、言葉じゃなくて、動きやちょっとした声のトーンとかで気持ちを表していたとしても、それはコミュニケーションのために彼らが出している信号として受け取られることが少ないのかなという気がするんですよね。こういうアートのワークショップの場だからこそ、彼らの心の内が動きや音の表現として受け止められて、それをまた返して…みたいなコミュニケーションが成立していく。特に、親御さんと離れて暮らしている、障害がある、という子どもたちが集まるこの施設では、彼らの「言葉を用いない些細な表現」を受け止めて返せる、というところにワークショップをやる意義があるんじゃないかなと思います。
あともう一つ、ワークショップを通して、「承認される」ことや、「自分がやったことを相手が受け止めて返してくれる」ことが、子どもたちにとって、すごい喜びなんだなということを、毎回強く強く感じます。その喜びが土台にあると、「じゃあもっと、こういうことを出しても良いのかな?」と、自分が感じていることや思っていることを、表現して良いんだという前提がつくられていって。このことは、きっと人生において、自分を表現することへの「自信」や、信頼する相手との関係の中で生きていけるんだという「自信」に繋がっていくんじゃないかなという気が強くします。
―ワークショップ中、印象的だった場面などがあれば教えてください。
新井:障害が重度の子どもたちの中には、いわゆる人と関わることがあまり得意ではない子もいます。その子たちに、「みんなで輪になって座ろう」と声をかけても、自分が関心のあるモノや音に気持ちがいっちゃって、みんなで座ることが難しかったり。でも、回を重ねていくと、たま〜に我々がやっているワークの中に丁度良い絶妙のタイミングでフッと入ってきて、ちょっとだけ動きや音で参加したりする。実は耳を澄ましたり、目を凝らしてこちらを見ていたりする瞬間があるにはあるんですよね。ついつい「コミュニケーション」というと、直接目と目を合わせて言葉を交わすことだと思っちゃうんだけれども、そうじゃない、こちらへのささやかだけれど多様な関わり方に気づかされました。こちらの「コミュニケーション」の概念が揺さぶられ広がった気がします。
それと、3年間通う中で、出会った当初中学生だった子が高校生になり、今年はほぼアシスタントとして参加してくれたということがありました。W君という彼は、元々ちょっとシャイで、あまり表に出るタイプじゃなかったけれど、今回気づいてみれば一番年長みたいな感じになっていて。毎回音のアシスタントをしてくれたり、小さな子の面倒を見てくれたりしました。実は彼もそのことがまんざらでもなくて、「頼られる自分」ということが、すごく彼自身のモチベーションを高めてくれたのかなという気がします。
あと今回、グループで話し合いながら、子どもたち自身に作品の構成をしてもらうことにもチャレンジしました。人との言葉でのコミュニケーションがあまり得意じゃない子たちもいますが、あえてその彼らに話し合って音や動きを考えてもらう『宇宙人の手紙』というワーク(アーティストが描いた絵手紙=『宇宙人の手紙』を渡し、その絵を紙コップを使った音や動きで表すワーク)をやってみました。
それが結構面白かったんですよね。話し合いや言葉のコミュニケーションが上手くいっていたかどうかは別として、でもなんとなく上手くいく、結果は各作品とてもユニーク!という。その「なんとなく上手くいく感」というのが、すごい僕はショックだったかな(笑)。例えば同じことを小学校の高学年くらいでやったことがあるんですけれど、お互いに遠慮し合って考えすぎてこじんまりしてしまったり、言葉のコミュニケーションが巧みな子の方が、案外なんか上手くいかないことが多いんですよね。そういった意味で、彼らが持っている非言語のコミュニケーション能力や即興の「底力」を見せつけられた感じがしました。アーティストとして芸術の原初の風景みたいなものを見せてもらった、教えてもらったというのが、今回のワークショップ全体を通じた感想です。
vol.2では、アーティストからみたワークショップの実際をご紹介しました。
ワークショップには新井さんだけではなく、板坂記代子さん、古川東さんもアシスタントとして全ての回に参加してくださり、後半から発表にかけては、音の風景担当としてササマユウコさんにも加わっていただきました。そして、とても魅力的な14人の子どもたちと出会えたこと、関わった全ての方々、支援してくださった皆様に心より感謝申し上げます。その多様な人と人との関わりの中で、身体、音、美術など多様な表現が生まれて混在する時間があったこと、コラムを通して少しでも感じていただければ幸いです。