からだを奏でることからvol.1 ~職員のこえ~
からだを奏でることから
~職員のこえ~
友愛学園児童部(障害児入所施設)
×新井英夫(体奏家・ダンスアーティスト)
当NPOでは、障害児入所施設でのアーティストワークショップも実施しています。2016年3月に通い始めた友愛学園児童部は、18歳以下の障害のある子どもたちに対し、自立した社会生活が営めるよう生活全般にわたり支援を行うことを目的にした障害児入所施設です。 今回のコラムでは、一緒に参加して下さった友愛学園児童部施設長渡部さん、同副施設長石川さん、そして、アーティストの新井英夫さんに、ワークショップの最終回に行ったインタビューの内容を2回にわたってご紹介します。
【ワークショップの場には何が生まれるのか?】
~2018年度ワークショップ概要~
●実施施設:友愛学園児童部(青梅市)
●アーティスト:新井英夫(体奏家・ダンスアーティスト)
●アシスタント:板坂記代子(ダンサー・てきとう手しごと工房 )・古川東 ( アクティングトレーナー )
●音の風景:ササマユウコ(CONNECT/コネクト)
●実施期間:2018年7月~2019年2月 月1回程度、8回実施
●参加者:小学3年~高校2年生 14人
2018年度のワークショップは、8カ月間で8回かけて積み重ね、最終回には職員や保護者の方々、施設内の子どもたちを招いて発表会も行いました。『からだを奏でることから』は新井英夫さんが考えた発表会の作品タイトルです。新井さんとのワークショップは、ダンスの振付を覚えたり、楽器の技術を習得したりするようなものではありません。でも、「からだ」と「おと」はとても大切なキーワードです。
2018年度のワークショップも、子どもたちと一緒に身体や音楽を使って、いろいろな表現を体験しました。例えば、みんなで大きな輪になったゴムの中に入って伸び縮みする面白さを味わうような身体ほぐしや、羽をイメージしてフワフワ動くワークなど。紙コップを使ったワークでは、紙コップでどんな音が出せるか、動きもつけながらグループ毎に相談して考えました。ビニール袋に吹き口をつけた「ハグパイプ」は、抱きしめることで出る音を、感触をふくめて全身で楽しみました。その他にも、身体の一部をくっつけてトンネルをつくり誰かにくぐってもらうなど、人と関わることも大切にしてきました。子どもたち一人ひとりに寄り添いながら、その場にいるみんなで「からだを奏でる」ように、豊かな表現が生まれる場をつくってきたのです。
「この子、こんなことができるんだ!」という発見をくれる場
~施設からみたワークショップ~
「この子、こんなことができるんだ!」
という発見をくれる場
~施設からみたワークショップ~
―どのような期待をもって、ワークショップの実施を受け入れましたか?
渡部施設長(以下、渡部):普段の日常では、見られない表情だとか動きだとか、そういったところを見られたら良いなと。我々にはできないアプローチ、芸術家だからできるアプローチで子どもがどういう反応をするのかと思って、受け入れました。
石川副施設長(以下、石川):重度障害の子どもたちは、余暇の時間に、自分で楽しむことをなかなか見つけられなかったりするんです。そういう中で、前年度、ワークショップ後に部屋に戻った後にも、普段静かに過ごしている子たちが、身体を動かしたり、ポーズをやってみたり、時折歌ってみたり、ワークショップでやったことを自分たちでやってみる姿を見られたので、今回もそれはすごく期待しました。
また、障害が軽度の子どもたちについては、普段の日常生活の中ではあまり関わりを持たない子同士が、ワークショプの場ではペアを組んだりすることで、不特定多数のいろんな子たちと関係性が持てる。このことがとても良いことだと感じて、実施を受け入れました。
―実際に実施してみて、どのような効果を感じましたか?
渡部:職員は、子どもたちの今まで見たことのない表情が見られたり、「この子はこんな動きもできるんだ」というような発見があったりしたと思います。子どもたちは、ワークショップ全体を通して、成功した時の達成感というのか、そういうのを感じながらも、逆に「今日は上手くいかなかったな」とか、失敗した時のリカバリーの経験にもなったのかなという思いはあります。
石川:今回ワークショップに付き添った職員は、あえて毎回違う職員を配置していました。それは、前年度までにワークショップに参加した職員が、みんな一様に「この子、こんなことができるんだね」とか、障害特性とは別のところで、「この子、こういうところに配慮してあげると自分でできることが増えるんだ」とか、ワークショップでの様子を実際に見たことで、その後の支援に活かせる発見がたくさん出てきたからです。そこはすごく、職員にとっての効果があったと思います。
―ワークショップ中、印象的だった場面などがあれば教えてください。
石川:K君につきますかね、今回は。感動しましたね。彼は、障害でいうとすごく重度のお子さんになるので、日常の中の動作でも、できないと思っていたことがすごく多かった。だから職員が、手を介添えしてしまうことが多かったんです。でも実は本人は分かっていて、ただそれを自分の中で行動に移すのに時間がかかっていただけなんですよね。それを新井さんとアシスタントの方々がK君との関わりの中で、ある意味、発見をして下さって…これは本当に感動しましたね。
渡部:僕が印象的だった子の1人は、N君ですね。丁度、ワークショップが始まった夏休み前辺りが荒れていた時期だったので、1回目のワークショップは、もう場に居ること自体が難しかった。施設職員からすると、2回目からは、メンバーから外しちゃおうかなという思いもありましたが、新井さん含めスタッフの方々が根気よく、彼の荒れている状態も含めて受け入れてくれて。回を重ねるごとに落ち着いてきて、最終的には発表会で主役的なこともできたのは、本当に良かったなと。
もしかしたら、このワークショップが一つの彼の成長や安定につながっていたのかなという気がします。我々職員では引き出せないものを引き出してもらえた、そしてそれを我々が感じられたというのが、印象的だった場面です。
友愛学園児童部では、渡部施設長や石川副施設長が私たちNPOとの連携窓口となり対応してくださるとともに、毎回異なる職員の方が子どもたちと一緒に参加してくださいました。終わった後の振返りでは、子どもたちについての変化や気づきを共有し、関わり方へのアドバイスなどもいただきました。職員の方とも連携して一緒に場をつくっていくことができたこと、この場を借りて改めてお礼申し上げます。
コラムvol.2では、アーティストの新井さんの視点から、どのように場をつくり、アーティストが何を感じていたかをご紹介します。