音楽劇♪ つくって、演じて、動いて、歌って 2019 vol.1 ~アーティストのこえ~
PKT(パフォーマンスキッズ・トーキョー)
音楽劇♪ つくって、演じて、動いて、歌って 2019
~アーティストのこえ~
あうるすぽっと×前嶋のの(脚本家・演出家)
2008年度より、当NPOが東京都・公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京 と実施しているPKT(パフォーマンスキッズ・トーキョー)。 ダンスや演劇、音楽などの分野で活躍するプロの現代アーティストを、都内のホール・文化施設などに派遣し、10日間程度のワークショップを実施。これまでホールでは、子どもたちが主役のオリジナルの舞台作品を56作品つくりあげてきました。 57作品目となった、今回の「音楽劇♪ つくって、演じて、動いて、歌って 2019」は、東京都豊島区のあうるすぽっとに、脚本家・演出家の前嶋ののさんをお連れし実現した音楽劇。今回のコラムでは、発表公演を終えたばかりの前嶋ののさん、あうるすぽっとのスタッフの方々、そして参加してくださった子どもやその保護者の方々にインタビューを行い、その内容を3回にわたってご紹介します。
【音楽劇♪ つくって、演じて、動いて、歌って 2019】
~2019年度ワークショップ概要~
●実施場所:あうるすぽっと(東京都豊島区)
●アーティスト: 前嶋のの(脚本家・演出家)
●アシスタント・出演:関根好香、大石丈太郎、久井麻世
●音楽:大竹創作 ●照明:千田実 ●音響:余田崇徳(SOUND MAP) ●舞台監督:森山香緒梨
●発表公演:2019年8月11日(日・祝)
●実施期間:2019年7月~8月 全10回実施
●参加者:小学4年~中学2年生 28人
「水・風・お祭り」というテーマで、一人ひとりが詩を書いてくることから始まった作品づくり。ワークショップ序盤では、子どもたちにつくってもらった詩をもとに、人物や場面をピックアップして、連想される世界観を探っていきました。子どもたちの想像力が刺激されたところで、今度は15分間で、一人ずつオリジナルの物語を書くことにチャレンジ。子供たちは黙々とお話づくりに熱中していました。
お話の内容や雰囲気をもとに、3つのグループに分かれ、互いのお話を読み合い、それぞれの面白いところを取り入れながら、『天気の国のお祭り』『美術館にて』『風と一緒に』という3つのお話がつくられていきました。
『天気の国のお祭り』
夏休みの終わり、みなみ と ひかるは、ソランジュという執事に連れられ、天気の国を訪れる。そこで出会ったのは、天気の国の王女さまをはじめ、雨、雪、オーロラ、雲たち。2人は、水の少女、光の少女として盛大に出迎えられる。しかし、楽しいお祭りの最中、天気の国は大きな台風に襲われてしまう。台風を鎮められるのは、2人が持つ水と光の力で虹をつくらなければならないと知り、少女たちは、力を合わせて台風に立ち向かう。
『美術館にて』
ともき と ひなこは、ある日お母さんと一緒に美術館に出かける。しかし、2人は、美術館の中でも喧嘩ばかり。すると、怒ったお母さんがなんと龍に変身してしまう…!逃げる2人は、絵に衝突し、いつのまにか絵の世界に入り込んでしまう。絵の住人たちから歓迎を受けるともきとひなこ。「絵の中にいる龍に聞けば、お母さんを人間に戻す方法がわかる」と聞いた2人は、色々な絵の中に入り込み、龍を探す冒険を始める。
『風と一緒に』
海斗のクラスに、転校生のさくらが来た。放課後、この町を紹介して欲しいとさくらからお願いされる海斗。2人は町の市場を訪れる。するとそこへ、天気売りのおじさんがやってきて、2人は10日間だけ「風」をレンタルすることに。風と一緒に世界中を飛び回る海斗とさくら。いつも誰かのために風を吹かせ、笑顔を届ける風の姿に背中を押され、海斗は心に抱えていた思いをさくらに打ち明ける。
身体や声に関するワークでは、海のなかをイメージしてリーダーの動きを真似てみたり、機械をテーマに「掃除機」「ロケット」など好きなものをグループで決めて表現してみたりしました。また、2人組で有名な昔話などを、ワンフレーズ言うたびに後に下がっていくワークも実施。互いの距離がだんだん離れていくので、しっかり大きな声で相手に届くように言葉を繋いでいきました。
台本など全くない状態からスタートした、今回のワークショップ。お話をつくること、歌をつくること、歌うこと、表現すること。子供たちはいろんなチャンネルを探し、混ざり合う楽しさも味わいながら、作品づくりを進めてきました。
【子どもたちの「できごとをつかむ力」に驚かされる日々】
~アーティストからみたワークショップ~
―今回、「水・風・お祭り」をテーマに、子どもたちに詩を書いてきてもらうことから、ワークショップがスタートしたと伺いましたが、そこから、どのように子どもたちと創作活動を進めていったのでしょうか。
前嶋ののさん(以下、前嶋):子どもたちに書いてきてもらった詩をもとに、さらに今度は「歌をつくってきて」という宿題を新たに出しまして。みんながつくってきてくれた詩や歌の世界を共有しながら、じゃあ、ここにどんな登場人物が出るとか、生き物が出るとか、どんな場面があるか…湖!虹!空!とかですね、とにかく思いつく限りのことをホワイトボードでシェアしていきました。どんな登場人物が出たら面白いだろう?どの場面でどんなことが起こるだろう?と、それぞれ想像したことをみんなで共有して、その後一人ひとりで小説を書く時間っていうのを設けたんです、即興で。それをまた発表してもらって。そうしたら、なんとなく「美術館」ってワードを書いている子がいたり、それを受けて「美術館」って面白いよねっていう子も何人もいたりとかして。そこで、なんとなく面白いと思っていることが同じ子たちが一緒になって、最終的に3つのグループで3つの作品をつくることになりました。
―子どもたちの表現を引き出す際に、前嶋さんはどんなことを心がけていますか。
前嶋:まずは、子どもたちに楽になってもらうことですかね。リラックスできて、失敗も成功もなく、自由に思いついたことをみんなが「はい!はい!はい!」って言える場づくり。じゃあ思いついたことをやっちゃおう!そしたら、何かできちゃった!っていうムードをつくりたいなと思っています。そして、子どもたちから出てきたものを、とにかくシェアしていく。出てきたものの素敵なところをみんなで見つけていくと、じゃあこんなのもある、こんなのもある、ってどんどんアイディアが出てくるんじゃないかなと思います。
―ワークショップ中、印象的だったことがあれば教えてください。
前嶋:子どもたちの創作物の中に、最近の不安要素、今回であれば台風などの気象状況のことが反映されていたことですかね。前回(2017年度せんがわ劇場)の時は、北朝鮮のミサイルのことがすごく問題になっていた時期で、その時もそのことが子どもたちの作品に出てきたんですよ。今回は最近の「異常気象」というのが、子どもたちの作品に反映されていたように思います。
あと不思議だったのは、お話のキーになる部分に、だいたい「家族」が出てくるんですよね、お母さんが龍になったり、おうちに帰りたいって時に家族が見えたり、実は転校生が双子の兄弟だったり…物語の展開も、お母さんに怒られたことがキーになったりとか。やっぱりどんな場面でも、「家族」という存在がなんかちょっと出てくるっていうのは印象的でしたね。
―今回のこの10日間、子どもたちにとってどんな10日間になったと思いますか。
前嶋:まずは、楽しんでくれてたらいいなっていう単純な希望があります。それから、もともとあるものじゃなくて、自分達で1からつくることって面白いぞっていうのを味わってもらえていたら。あとは、人とシェアしてつくることの経験は大きかったんじゃないかなと思います。
私は発表本番、一番前の席で一応プロンプ(舞台の出演者が台詞等を失念した場合に合図を送る人)の役をやっていたんですけど、ほんと1回だけじゃないかな、私がプロンプしたの。誰かの台詞が止まっちゃった時、意外とみんなで助け合ってて。驚きですよね。ゲネの時はあんなにぐちゃぐちゃだったのに、子どもマジックといいますか、子どもたちの「できごとをつかむ力」というのに驚かされました。よくあんなに短い舞台稽古の中で、さっとつかんで、出したな~って。本当にかっこよかったです。
前嶋さんは、10日間という濃密な時間のなかで、子どもたち一人ひとりが自由な発想や表現力を発揮できる場づくりを丁寧に行いながら、作品づくりをすすめくださいました。また今回は、関根好香さん、大石丈太郎さん、久井麻世さん、大竹創作さんがアシスタントとして参加し、子どもたちをサポートしてくださいました。子どもたちとゼロから作り上げた素敵な作品を無事上演することができたことを大変嬉しく思います。コラムを通して、子どもたちが経験してきた、みんなでつくる経験や楽しさが少しでも伝われば幸いです。
コラムvol.2では、ワークショップの実施場所となった、劇場スタッフの視点から、今回のワークショップを見つめたいと思います。
編集:NPO法人芸術家と子どもたち