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コラムColumn

【ASIAS20周年企画】当時小学生だった参加者と、あの日のワークショップを振り返る

★ASIAS20周年企画★
当時小学生だった参加者と、
あの日のワークショップを振り返る

学校現場など、子どもたちの日常の場にアーティストをつれていくASIAS(エイジアス:Artist’s Studio In A School)の活動がスタートして20年。当時ワークショップに参加してくれた子どもたちも、今や大人となり、社会人として様々な場所で活躍していることと思います。今回のコラムでは、「ASIAS20周年企画」と題しまして、11年前、当時小学6年生だった時にASIASのワークショップに参加した小川花さんに、当時の気持ちや、大人になった今、振り返って感じることなどなど、ASIASにまつわる色々な話を、事務局スタッフ久保田が伺いました!

小学6年生当時の花さん

花さんは、小学6年生の学芸会で、舞台音楽家の棚川寛子さん率いる「セミンコオーケストラ」の皆さんと一緒に、『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間(※)』の舞台を全10日間のASIASワークショップを通して創作。当時、棚川さんのアシスタントとして参加していた、当NPOスタッフであり、演出家・俳優でもある渡辺麻依もインタビューに加わり、思い出話に花を咲かせました。

(※)『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』は、斎藤惇夫の児童文学作品。ドブネズミのガンバ率いる15ひきのネズミの仲間たちが、イタチと戦う島ネズミを助けるために、夢見が島に渡る冒険のお話。花さんは、15ひきの仲間の一匹である「ボーボ」という物語の重要な役割を担う役を演じました。

「ASIAS(エイジアス)」とは…? こちら


【同級生の前で、初めて自分の殻を破った瞬間】

11年ぶりの再会となった渡辺麻依(左)と小川花さん(右)

―「アーティスト」と呼ばれる方々が学校に来るのは初めての体験だったそうですが、初めて棚川さんたちと会った時の印象って覚えてますか?

小川花さん(以下、花さん):なんだかとても、自由で活き活きしている大人が来たな…という感じでした(笑)。「先生」という存在とは全く違いましたね。あぁ今年の学芸会は、いつもと違うんだな…と予感したのを覚えています。

渡辺麻依(以下、渡辺):私自身は、小学校にワークショップに行くのが初めての経験で、全部手探りの状態だったんですが…初回にいきなりタナさん(棚川さん)が、「家庭科室にある調理器具で即興演奏やろう!」って言い始めて。アシスタント5人全員で「えーーーー!?」って言いながら大急ぎでバタバタ準備したんです。その姿を見て、先生とか子どもたちは、「何この人たち!?」ってびっくりしたんじゃないかなって…。

花さん:先生は確かにびっくりしてましたね(笑)。でも、その自由な雰囲気にすごくシンパシーを感じました。「あぁ~わかるわかる」みたいな。見ててすごく面白かったです(笑)。

―花さんが演じた「ボーボ」役は、物語の中でも主要キャストの一つですが、学芸会は、当時の花さんにとって楽しみな行事でしたか?

花さん:もともとお芝居が大好きだったので、楽しみでした。ボーボ役は、先生がクラスで「ボーボやりたい人~?」ってきいたら、みんなが私の方を見て、自然と決まった感じで。役のキャラクターが普段の自分と近かったのかもしれないですね。

アシスタントの一人が今も大事に保管していた花さんの役づくりメモ。「時間を制限されるとおこる」などは、花さん曰く、当時のご自身が投影されてるとのこと。

 

―ワークショップの中で、特に印象に残っていることは何ですか?

花さん:音楽が楽器の生演奏だったことですね。タナさん(棚川さん)がカホンを叩いて、広い場所でみんなで自由に動き回ったり…というのがすごく新鮮でした。それまでは大抵、テープ音源を流すのが普通だったので、「生演奏」というのは強く印象に残っています。

渡辺:お芝居中の音楽もほとんど全部、楽器や小道具で生音を出していたもんね。

花さん:あと、暗転中の動きとか、お芝居とお芝居の繋ぎの部分とか、やっぱりその道のプロの方が入ると違うなと、小学生ながらに感じましたね。どうしても先生方は劇に関しては素人なので、「子どもの学芸会」という感じで終わることが多いんですけど、アーティストさんたちが入ることによって、作品の色んなところが飾られて、本当に良いものが出来ている感じがしていました。

渡辺:私が個人的にすごく印象的だったのが、ワークショップ中、花がお芝居の中で本当に涙を流したこと。あの時は「うわ~すごい役者だな」って思ったよ。そこまで感情を入れて演じてくれたことにすごく嬉しい気持ちもありつつ、同じ役者として悔しい気持ちもあったのを覚えてます。卓越した技術をもった役者さんの演技ももちろん素晴らしいけど、あの瞬間の花の演技に私はとても心を動かされて、これが演劇の面白いところだな~って。

涙を流す熱演だった花さんのシーンはカメラマンの目にもとまり、卒業アルバムに掲載された

花さん:私、あの台本がとにかく好きで。楽しい時もあるけど、それがずっと続く訳ではなくて、「ねずみでも生きていればいろんなことがあるよね」っていうドラマチックなストーリーがすごく好きだったんです。それもあって、あの時は何かのりうつったんじゃないかな…それくらい、あの時のことは覚えています。

渡辺:小学校高学年くらいの子が、みんなの前で感情を出して殻を破るって、なかなか難しいことじゃない?どうしても周りの目を気にして恥ずかしくなってしまったり、照れ隠しの笑いが出ちゃったり。すごく難しいことを要求してしまっているのかなって、私も時々悩むことがあるんだけど、だからこそ、あの時の花の姿は強烈に印象に残ってるよ。

花さん:今でも、もう一度あの役やりたいな~って思います。あの時の学芸会の経験があったからこそ、中学で演劇部に入ったり、高校の演劇コースに行ったりもしたので、時々思い出すんですよね。今はまた違う道に進んでいて、なかなか舞台にあがるっていう機会はないんですけど、人の目とか現実世界を気にせず、自分を表現できる場っていうのを初めて体験したのが、あの学芸会での「ボーボ」っていう役でした。大人になった今、また違う解釈で「ボーボ」ができたら楽しいだろうなとかは思いますね。

渡辺:やる?大人版~(笑)。子どもには子どものその時にしかできない等身大の良さがあるし、きっとまた今やったら違う味が出てくるだろうね。

―私自身、小学生の時の学芸会の記憶って、ほとんどないに近いのですが、花さんは本当によく当時のことを覚えていて驚いてます。

当時の学級便りには、この学芸会に対する子どもたちの熱い気持ちがぎっしり詰まっていました

花さん:それくらい強烈だったんです(笑)。普段見慣れた体育館が、こんなにも変わるのか!って。タナさん(棚川さん)たちとは、やっぱり一つのものを一緒に創り上げた達成感で、絆のようなものもうまれてましたし、学芸会が終わってしまったらもう会えないってこともわかってるので、別れる時はみんな泣いてましたね。男の子たちも、感極まってアーティストさんの服を破っちゃうくらい懐いてましたから…。

渡辺:卒業してから、実際に舞台を見に来てくれた男の子とかもいて、それはすごく嬉しいことだなって思ってます。

―最後に、大人になった今、改めてASIASのワークショップを振り返って、花さんにとってそれはどんな時間でしたか?

花さん:子どもにとって、同級生の前で何か感情表現をしたり、自分の殻を破ることって結構ハードルが高かったりするんですけど、タナさん(棚川さん)たちと創ったあの学芸会で、「殻を破る」という経験ができたことで、「私ってこういう人間なんだな」っていう自覚が持てたような気がしています。普段の学校生活ってどうしても決まったルーティーンがあるじゃないですか。ワークショップ中は、そういった時間を感じないで、日常とは少し離れたところで、自由に自分のありのままを出せて…そんな経験は初めてだったんです。さらに、そうやって自己表現したことを同級生とか周りの人に評価してもらえた、認めてもらえたというのは、私にとってとても大きなことでした。

渡辺:アーティスト側も、その子が「殻を破ろうとしてるな」って気づいたら、もっとやって、もっとやって!って、その子がやろうとしている表現を引き出そうとするからね。

花さん:私は、お芝居が好きだったので、「ボーボ」という役に居場所を見つけてましたけど、人前に出るのが得意じゃない子でも、楽器演奏をしたりとか、大旗を持つ係がいたりとか、一人ひとりにそれぞれの居場所があったなって、今振り返って思います。


ASIASがスタートして20年。今では毎年約4,000人の子どもたちと、ダンスや音楽、演劇、美術といったワークショップの時間を共にしています。そこで起きる様々な化学反応や新鮮な発見から、私たちも日々多くのことを学び、それが活動の原動力にもなっています。これからも、子どもたちの日常にアーティストとの出会いの場を届けるASIASの活動は、学校現場から福祉の現場、そしてさらなる可能性を探りながら、継続していきたいと思います。インタビューにご協力くださった小川花さん、この度は本当にありがとうございました!

写真・編集:NPO法人芸術家と子どもたち
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