にじいろのなかまたち 2019-2020 ~児童養護施設の交流ワークショップ~ vol.1 座談会「2020年度を振り返って」(前編)
2019年度から、文化庁「障害者による文化芸術活動推進事業」の採択を受けて、児童養護施設カルテット(さいたま市)と二葉むさしが丘学園(小平市)の二つの施設の子どもたちが、ダンスや音楽などの活動を通して交流し、多くの時間を一緒に過ごしています。子どもたちはアーティストと一緒に、ダンスや音楽をつくり、昨年度は締めくくりとして2月にお互いの施設で発表会をしました。
そして、2020年度。引き続き文化庁の採択を受け、再びみんなで会える日を楽しみにしていましたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、対面でのワークショップができなくなりました。それでも、事業を続けたいと思い、10月からオンライン(zoom)でのワークショップを始めました。アーティストやスタッフは、技術的、距離的なこと、なかなかうまく伝えられないもどかしさを感じていましたが、子どもたちは画面越しに、歌ったり、踊ったりしながら思いのほか楽しく交流をしていました。そんな姿に私たちはたくさん助けられました。そして、2月28日。今年度の最終回では、それぞれの場所で、歌って、楽器を演奏して、踊りながら、2020年度のまとめの回を迎えました。そして、取り組んできた音楽やダンスを録画した後には、一年間を振り返ってみんなに感想を聞いてみました。
参加した子どもたちの感想 「一年間、ダンスや曲を歌えて楽しかったです」(Mさん・小4) 「楽しかったし、また来年もやりたいです」(Hさん・小3) 「今年はコロナで直接じゃなくてzoomだったけど、心の距離が近くなったような気がします」(Aさん・高3) 「最初は緊張したけど、みんなと音楽を楽しくやれてよかったです」(Sさん・小6) 「今日、初めてやったけど、ダンスも結構踊れたし、とても楽しかったです」(Sさん・小6) 「コロナでワークショップが始まるのが遅くなって、形が変わった(zoomになった)けどみんなの顔が見れて楽しくやれたのでよかったです。来年は卒業だけど、時間があれば参加したいです」(Nさん・高2) 「(退所するので)これで本当の本当に最後になっちゃうけど、最後に思い出がつくれて良かったです。ありがとうございました」(Yさん・19歳) |
アーティストからひとこと 隅地茉歩(振付家・ダンサー) 最初は直接会えないのが淋しかったけれど、オンラインでやるうちに、画面を通してでもみんなに会えるのが嬉しくなりました。港さんがつくってくれた曲『わかれみちにて』(詞:谷藻りすん/曲:港大尋)と『Don’t wanna be your slave』(詞:谷藻りすん/曲:港大尋)をみんなで歌ったり踊ったり合奏できて本当に幸せ。来年はもっとたくさん会いましょうね。 港大尋(音楽家) みんな、ありがとう。ここはさ、好き勝手にやっていい時間だから、歌いたい時は、ワーって大きな声を出していい。学校でも、社会に出た時でも、「嫌なものは嫌!」「好きなことはたくさんやりたい!」っていう感じで生きていってください。 |
ワークショップの時間が終わっても、多くの子どもたちがその場に残っていて、楽しい時間が終わってしまうのが名残惜しそうでした。そして、今年度で退所する高校3年生の子どもたちが、再度zoom越しにお礼と「また遊びにくるね」と言って、部屋を出ていきました。
今回のコラムでは、ワークショップ終了後に施設職員の方々とアーティストのみなさんと行った座談会をvol.1&2で、さらにvol.3では、アーティストによるエッセイをご紹介します。
■座談会概要(vol.1・vol.2)
●実施日時:2021年2月28日(日)16:00~17:30
●実施場所:オンライン開催(zoom使用)
●登壇者
アーティスト:セレノグラフィカ(隅地茉歩・阿比留修一/ダンスカンパニー)、
港大尋(音楽家)、伊藤寛武(音楽家)
二葉むさしが丘学園:鈴木章浩(自立支援コーディネーター)、緒方佑香(児童指導員)、村上由利子(事務職員)、宮崎さやか(個別対応職員)
児童養護施設カルテット:吉田貴樹(保育士/認定心理士)
事務局:堤康彦(芸術家と子どもたち 代表)
●進行: 中西麻友(芸術家と子どもたち 事務局長)
■アーティスト・エッセイ概要(vol.3)
●『画面越しの交流ワークショップ』 伊藤寛武(音楽家)
●『きっと残る』 阿比留修一(セレノグラフィカ)
※2019年度の実施内容や、その他のアーティスト、施設職員によるエッセイが掲載されたドキュメント・ブックについてはこちら(『にじいろのなかまたち』PDF版)。
■2020年度ワークショップ概要
●実施施設:児童養護施設カルテット(さいたま市)年長~19歳 11人
二葉むさしが丘学園(小平市)小学3~高校3年生 5人
●アーティスト:セレノグラフィカ(隅地茉歩・阿比留修一/ダンスカンパニー)、
港大尋(音楽家)、伊藤寛武(音楽家)
●実施期間:2020年10月~2021年2月 計7回実施(オンライン実施)
文化庁委託事業「令和2年度障害者による文化芸術活動推進事業(文化芸術による共生社会の推進を含む)」
主催:文化庁、特定非営利活動法人 芸術家と子どもたち
◆ワークショップの感想や子どもたちの変化
芸術家と子どもたち 中西(以下、中西):みなさん、今年度もありがとうございました。今年は新型コロナウイルス感染症拡大のために、全てオンラインで7回のワークショップをしてきました。去年のことも含めて、子どもたちの変化やワークショップを通して感じられたことをお伺いできたらと思います。
二葉むさしが丘学園 緒方さん:最初は、オンラインでやることに子どもたちも戸惑いがあったんですけど、徐々に自分を出していけて、今日もすごい楽しそうに参加していたなって思います。あと、意外な一面が見れたのがすごく面白かったです。とても穏やかな子が厳しい一面を持っていたり、すごいタイコが上手だったり、みんなをまとめてくれたりするのが見れて、あぁ参加して良かったなぁって思いました。
カルテットの子たちも、去年参加した子たちとも、新しいメンバーとも触れ合うことができて良かったです。
二葉むさしが丘学園 宮崎さん:私は普段、個別対応職員で学習支援や余暇支援をしています。その中でも、わりと普段は大人しくて、あんまり自分の感情を出さない子が、この約一年で、怒りとかそういった感情を出せるようになってきているなぁって感じています。私と一対一の時には見られない雰囲気を、いつもとは違うこのワークショップの場面で見ることができました。
普段、ちょっと手先が不器用な子が、タイコをすごい上手に叩けていたり、苦手なダンスも頑張っていたので、こういったことが別の時間にも波及していけると良いなぁと思いました。
むさしが丘は参加人数が少なくて、途中で集中力が切れると、なかなか戻ってこれない子も多かったので、カルテットの子たちと直接会って一緒にやれば、他の子の様子を見て学べることもあると思うので、コロナが落ち着いたら是非一緒にやりたいなと思います。
中西:ありがとうございます。宮崎さんと村上さんは、今年度初めてワークショップに参加してくださったんですが、その辺のことも含めて村上さん、いかがでしたでしょうか。
二葉むさしが丘学園 村上さん:子どもたちも私自身も、回を重ねるごとにだんだん慣れてきて、リラックスして楽しくなってきたという感じでした。
さっき宮崎さんの話に出た子の変化がやっぱり一番大きくて。『Don’t wanna be your slave』を、いかにも嫌そうに、すごくかっこよく歌うようになったので、嬉しくなりました。だんだんと反抗的なことも言うようになったり。これまで、内に秘めたものがあっても表に出せないんだろうなって思うことがよくあったので、こんなふうに身体を使ったり、音楽を使ったりして、こんな短期間で人って変われるんだなっていうのが発見できて楽しかったです。
中西:ありがとうございます。今年度はカルテットには行けなかったので、吉田さんと直接会うことが叶わなかったのですが、子どもたちの様子や変化などを聞けたらと思います。
児童養護施設カルテット 吉田さん:カルテットはどんどん参加人数が増えていったっていうのが、本当に良いことだと思っています。参加した子たちが、こういう楽しいことがあるよって話しているのを聞きつけて、次々に入ってきているんだろうなって思います。
子どもたちの変化については、このワークショップに誘っても「やだ、やだ、私できない」って言って消極的だった子が、最終的には参加して、ダンスもピアニカも積極的にやれるようになったり。一人ではなかなかしゃべれなかった子が 、このワークショップだと全然嫌がることなく「やってみる」と言って、今日もみんなの前で感想を言うことができたので、二人の積極性と自信につながったなって思います。
あと、高校生の子たちが結構仕切ってくれて、それは良い意味でまとまっていたんじゃないかなって感じました。
中西:カルテットのお姉さんたちには、すごく助けられました。むさしが丘の鈴木さん、いかがでしょうか。
二葉むさしが丘学園 鈴木さん:子どもたちのことに関してだと、今年は、退所者へのアフターケアに追われていたんです、いや、追われているんです、今も。特に生活困窮の退所者の支援に。施設内のインケアより、アフターケアに追われている一年でしたね。
その時に、その退所者と自分との関係が、こういったワークショップのような同じ空間に一緒にいたとか、同じ時間を過ごした経験があるとコミュニケーションが取りやすいのですが、進路に関しての話をしただけの関係だと、なかなか伝わらないなと感じることがあります。やっぱり、距離がありますよね、それだけの関わりの子とは。
生活困窮の度合いも本当にいろいろで、自殺未遂をした子もいます。そういう対応に追われてるんだけど、追われるだけで、結局何もできていない一年でした。でも、このようなワークショップの空間に少しでもいるっていうことが、この先、自分にとっても退所していった子たちにとっても、大事な時間だし、大事な空間なんだなって思いました。
中西:そうですね。この場所が、子どもたちにとってどういう役割を持ち、力になれているのだろうかと考えることがあります。先週、自分のお部屋でケンカしていた子たちが、「ワークショップに来たら楽しくて、それ忘れちゃった」って言っていたと聞きました。そういう、ちょっとした気分転換になる場所であるのもいいなと思っています。
アーティスト側のセレノさんから、感想や子どもたちの変化など、いかがでしょうか?
セレノグラフィカ 隅地さん:やっぱり、直に、子どもたちの様子を感じたいというのが、今でもあります。実際に会っていれば、目を向けていなくても身体から発せられるものを察知することができるんですけど、それができない事がしんどくて。
zoomでワークショップがスタートした時は、「へぇ~っ、こういうものなのかぁ」って思ったんです。でも、2回、3回とやっていくと、ダンスをやるには、これは厳しい条件だなと正直思いました。それでも、去年の蓄積があったから、みんなで乗り越えられたかなって。もし今年スタートした事業で初めて会う子たちとやっていたら、もっと大変なことになっていたと思います。
子どもたちも、ちょっとずつ慣れてきて、大人よりも子どもたちのほうが、直に会えないことをそんなに気にしていなくって、ワークショップをあっけらかんと楽しみにしてくれていて。そんな子どもたちの様子に励まされました。
阿比留さんと、「大人が頑張るっていうよりも、子どもたちが交流することが本来の主旨やったやん」といろいろ話し合っていた時に、ちょうど良いタイミングで、港さんが『はないちもんめ』をやってくださって。あれは、本当にすごく良かったなって心に響いています。ああいうことが、流れを変えてくれるんですね。実際、むさしが丘とカルテットの子たちが、それぞれの画面で押したり引いたりして、「あの子がほしい」って言って、ジャンケンで負ける、勝つ、なんて、すっごい単純なことじゃないですか。でも、こんなシンプルなことで、あんなに喜んだりして、こっちもすごく興奮しました。
最後には、港さんが今年つくってくださったナンバーにダンスをつけて、子どもたちみんなで歌ったり、踊ったり、楽器の演奏ができるようになるなんて、途中では想像できなかったので、本当にありがとうございます。すごく幸せです。でも、来年は会いたいなって思います。
退所していく子たちにはね、直接会って、頑張ってねって、握手してハグして送り出してあげたかったなって思います。
セレノグラフィカ 阿比留さん:この一年、触れること、触れられるっていうことをすごく考えました。触れるということから、たくさんのことを自分ももらっているし、多分、他者にも伝えているんだろうなって改めて思いました。
どうしても画面越しでは、そちらの人に触れられない、空気を伝えられないというもどかしさがあって、やはり生で二つの施設の子どもたちと会って、喜びを分かち合いたいって思えるので、こうして続けていけるんだなと思っています。
人が人と会うとか、触れ合うとか、しゃべったり、すれ違ったりっていうことは、人間が本来持っている能力だと思うので、そこに帰っていくような時間になっていけばいいなと思います。なので、毎回、zoomで会っては別れてというのが続いてもどかしいですが、来年はみなさんと必ず生で会える日をと思いながら、できることを続けていけたらなぁと思います。
音楽家 伊藤さん:前半はすごく、やり方に難しさを感じました。zoomだと、歌っている声、演奏している音がやっぱり聞こえないので、実際にどういうふうに伝わって、どういうふうに子どもたちのやっていることが変化しているのかが実感できなかったので。でも、セレノさんがいろいろなプログラムを組んで準備してくださったので、最後のところで実を結んだんじゃないかなって思って、すごく感謝しています。
子どもたちの様子で特に印象に残っているのは、前回むさしが丘のみなさんが、『Don’t wanna be your slave』を自分たちだけで演奏できたっていうことです。タイコを叩いてくれた子と鈴木さんのギター伴奏で。簡単な曲じゃないと思うんですけど、自分たちだけでもできるようになったっていうのが、すごく印象的でした。
カルテットのみなさんは、高校生がすごく積極的に教えてくれたので、みんなで合奏する時は、とてもタイミングが合うんですね。みんなで同じテンポに合わせて演奏したり歌うのって、難しいことなんですけど、それを高校生の子たちが引っ張ってくれて、子どもたち同士で教え合うことで向上していったのが印象に残っています。
もちろんこれが、カルテットとむさしが丘のみんなで合わせられたら、もっと素敵な体験だったんじゃないかなと感じるんですけど、離れたところでも、それぞれの音楽ができて、それが伝わってきたっていうのがすごく嬉しかったです。
あと、今年からいろんな楽器を使ったということ。楽器にこんなに関心を持ってくれるんだなって、ちょっと意外だったんですけど、何か技術を身につけられるっていうところが子どもたちにとっては大事な体験だったのかなぁって、改めて楽器の面白さを感じることができて、すごく刺激的でした。
音楽家 港さん:「zoomで交流なんかできるわけない。今年はもうあきらめだぁ!」って、やけくそみたいな気分でスタートしたんです。でも、よーく見ていると、子どもたちはちゃんと交流していて、本当にびっくりしました。大人はバタバタバタバタ、パソコンや通信の仕組みとかに振り回されてて、ワタワタワタワタしてたけど、子どもたちは意外とね、すごく楽しんでくれていたので、非常にびっくりしました。意外と、ほっといても勝手にやってくれるんだな、勝手に交流してくれるんだなっていう、そんな感触を覚えました。
それはもちろんね、知らない者同士が初めてやったら、なかなか交流は難しいから、やっぱり、積み重ねてやってきていることが当然大きいわけで。そして全体の雰囲気も大切だったと思うけど。それにしてもね、最初から「交流なんかできるわけないやっ」って思ったのをとっても反省しているんです。もっと子どもの持っている力を信じる、子どもの可能性っていうのは、驚くべき潜在的な力があるんだなぁって思ったこの半年でした。みなさんありがとうございます。
(vol.2へ続く)
オンラインでの実施になり、会えないことや、機械に振り回されること、そして伝えたいことが全部伝えられず、受け止めることもできないことに、前向きでいることが時に難しいこともありました。しかし、子どもたちの様子や、職員の方々のお話を聞きながら、こんな状況でもダンスや音楽がもたらしてくれたことがあったと、一年を振り返ると様々な気づきがあります。Vol.2では、今回の経験を通してそれぞれが考えたこと、感じたことをお話ししていただきました。
記録・編集:広沢純子
写真:芸術家と子どもたち(クレジットの無い物)
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