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コラムColumn

正解がないから認め合える、いろどり豊かな表現の形 vol.1~ホール編~

パフォーマンスキッズ・トーキョー(PKT)
正解がないから認め合える、いろどり豊かな表現の形
vol.1 ~ホール編~

今回のアーティストと参加者の子どもたち

2008年度より、当NPOが東京都・公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京と実施しているパフォーマンスキッズ・トーキョー(PKT。 ダンスや演劇、音楽などの分野で活躍するプロの現代アーティストを、都内の学校・ホール・児童養護施設などに派遣。10日間程度のワークショップを行い、子どもたちが主役のオリジナルの舞台作品をつくり上げます。最終日に発表公演を行い、多くの方々にワークショップの成果を発信しています。

今回は、そのホールと学校でのワークショップの様子をmazecoze研究所」の福留千晴さんに取材していただきました!

vol.1では、ホール企画67作品目となった、「あっちとこっちとその間」の現場レポートをご紹介します。

※マスクの着用や手指・道具等の消毒、3密回避など、新型コロナウイルス感染予防対策を講じたうえで実施しました。
※一部の写真は、撮影時のみマスクを外しています。


子どもたちが主役の舞台作品を共に創作し、発表公演を行う「パフォーマンスキッズ・トーキョー(PKT)」が今年もはじまりました!

コロナ禍の生活で、他者との関わりや身体性を伴う学びの場が失われてしまいがちな子どもたち。彼ら自身の身体性や創造性を、第一線で活躍するアーティストの方々とともに楽しみながら育むことを目指し、今年も、芸術家と子どもたちでは、「パフォーマンスキッズ・トーキョー(PKT)」を実施しています。

今回は、和光大学ポプリホール鶴川で8月22日に公演が行われた『あっちとこっちとその間』(アーティスト:鈴木春香)のダンスワークショップの現場を訪ねました。参加しているのは小学校3〜6年生の子どもたち12名。
振付家・ダンサーとしてみんなに影響を与えてくれている鈴木春香さんのコメントとともに、ワークショップと公演の様子をご紹介します。

 

「正解」がないから、認め合える

『あっちとこっちとその間』のアーティスト・鈴木春香さん

<プロフィール/鈴木春香>

左利き水瓶座 、1番初めの記憶は生後8ヶ月。海の街で生まれ、幼少期よりクラシックバレエとジャズダンスを始める。日本女子体育大学舞踊学専攻に進学するも、在学中に受けたオーデションをきっかけにカナダにあるバレエ団に所属。翌年には憧れのあったイスラエルへと渡りコンテンポラリーダンスの道に進む。カンパニーダンサーとしてドイツで就労したのち、リトアニアのカンパニーに移籍。ツアー公演では約30か国以上を訪れ上演を行う。また、ドイツ、インド等でWSも開催する他、リトアニアとノルウェーの共同ダンス教育のメンバーに選出され、約1年をかけて2か国の多数都市をまわり、カンパニーの作品と各都市の子供たちと作った短い作品を上演するプロジェクトにも参加。近年は日本をベースにおき、康本雅子、井田亜彩実、柿崎麻莉子、ハラサオリ、白井晃等の作品に参加する傍ら、身軽で居ることをモットーに、モデルや多数MV、CM、映画ヒロイン等、映像出演などを含め表現の幅を広げ、はらりと楽しんでいる。

『あっちとこっちとその間』という、とてもユニークなタイトルをつけてくださったのは、アーティストの鈴木春香さん。タイトルに込めた思いを語ってくれました。

「私はひとりっ子だったんですけど、小さい時から自分と相手のいる場所との空間って、何もないけど何かがあるなとずっと思っていて。その間の空気感によってコミュニケーションが変わっていくということに興味がありました。特にこのコロナ禍で、直接触れ合うことが少なくなってしまった時代に、その想像力の重要性は高まっているように思っていて、今回はそのあたりを子どもたちと模索できれば良いなと思ってこのタイトルにしました」

”間”に対する意識は鈴木さんのダンスや振付にも大きく影響を与えているのだそう。

「ダンスというのは”その空間にどう存在するか”ということ。”間”の意識というのは生きていると思います。それから、『あっちとこっちとその間』というタイトルを思いついた時に、子どもたちには、普段はしないことやおかしいと言われてしまいそうなことでも、”全部正解だよ”というのは伝えたいなと思ったんです。
だからワークショップの中では全て肯定。子どもたちの中から出てくる反応やアイディアを認めたいなと思っていますし、”何をやってもいいんだよ”というのを意識していますね」

鈴木さんは、子どもたちとアートが掛け合わさった未来をこう語ります。

「触ることや触れ合うことが少なくなってしまっている時ではありますが、みんながやっているから右にならえ、ではなく、自分で考えるようになってくれたら嬉しいです。アートの力というのは、まさにそのように正解がない中で、すべてを受容し表現する力を育てるもの。今回の企画は、子どもたち自身が考えないと進まない場面が多いという意味でも、子どもたちが道を切り拓く力になるんじゃないかなと思います」

 

大人も子どもも、垣根を越えて認め合う場所

本番に向けて衣装の相談をするアーティストと子どもたち

さて、今回取材したのは、全10日間のワークショップの中の7日目。本番前の衣装合わせや音響、照明等も含めた確認とダンスの質を高めていく回でした。ここまでワークショップを重ねてきたこともあり、アーティストと子どもたちはすでに信頼関係が出来上がっている様子。
「衣装はどうする?」「ここの振付は?」など、大人たちと対等に議論を重ねている子どもたちがとても頼もしく見えます。

なんといっても豪華なのは、そのスタッフ陣!
鈴木春香さんに2名のアシスタントのダンサー、そして演奏家、音楽家、照明、音響、舞台監督などなど、プロの方々が本気で子どもたちのアイディアを一緒に実現してくださるさまは圧巻です。

鈴木春香さんとアシスタントダンサー、演奏家、音楽家

照明家、音響家、舞台監督などプロの技術スタッフ

本番の公演まで残り3日ということで、ウォーミングアップからすぐに振付の確認に進みます。音楽が始まった瞬間、それまで思い思いに過ごしていた子どもたちの姿に変化が。真剣で、場に集中しているのがわかります。

様々なテーマに合わせて身体を動かすウォーミングアップから始まる

今回は音楽に生演奏が加わり、楽器も、打楽器から水や雑貨など身近にあるものが活用されていて、子どもたちの多彩なアイディアを生き生きといろどる臨場感あふれる場となっていました。

音楽には、いろどり豊かな生演奏も

この日は本番間近ということもあり、作品の全体的な動きや流れを、鈴木春香さんと子どもたち、そしてプロのスタッフの方々が相談しながら確認していく場でした。とても印象的だったのは「ひとつのものをつくる」という目的に対して、大人も子どもも、いろいろな立場を超えて意見を伝え合い、認め合いながらひとつの表現をつくり上げているということでした。子どもたちはまだ言葉ではうまく表現しきれない部分があったり、自分の意見を言うことが苦手な一面も。その部分は鈴木さんが補足しながら意見を聞いてみたり、選択肢を提示しながら進んでいきます。

「私自身、ダンスを踊っているとその形が正解になっちゃうのが嫌だと思っているんですけど、そうではなく、子どもたちにはテーマについてはできるだけ言葉で伝えながら、出てくる動きを全て認めてみんなでひとつのものをつくっていくようなプロセスを意識しています」

様々なタスクやテーマを与える過程で、子どもたちがより自由にそれぞれが感じたものを身体で表現していけるようにワークショップは構成されていました。

「子どもたちには初日からわりと突飛なテーマ、”髪の毛が長かったらどういう風に動く?””空から蜂蜜が落ちてきたら?”など色々投げているんですけど、抵抗なく何でも受け止めてくれる素直さと、子どもたち同士でコミュニケーションを取れるのがすごいと思っていて」

それは大人同士でつくり上げる過程とはまた全く違うものであるとか。

「普段、私は大人にも教えているんですけど、子どもたちは色々な先入観がないぶん、アイディアに爆発力というか突飛な良さがあって。”音の中に泡の音があったから、泡になってみる””じゃあ私はエイになる”なんて話し合っていたり。先日は、”台風で岩から剥がれたワカメになってみる”という子もいたんですよ」

か、かわいい〜!
子どもたちにとって、家庭や学校以外の場所で、新しく出会う仲間たちとともにひとつの作品づくりに挑むことは簡単ではない反面、普段得られないコミュニケーションや仲間との繋がりになっているのを感じました。そしてその過程に寄り添う鈴木さんご自身も、刺激をもらっているのだそう。

ダンスの表現から衣装、演出までをみんなで話し合いながら決めていく

 

いろどり豊かに伝播していく表現の形

いよいよ始まる本番

そしてついに迎えた本番当日!
緊張した面持ちながら、楽しみそうな本気の眼差しで、子どもたちが会場に集まってきました。鈴木春香さんやスタッフの方々の激励とともに子どもたちはステージに上がっていきます。

 

子どもたちが自ら動きを創作したグループでのダンス

子どもたちはステージに上がると、それぞれの思いがその眼差しににじみ出ているようでした。これまでアーティストや仲間たちとともに想いや意見を重ねて、つくり上げてきた作品を力いっぱい、観客の方々へお届けします。

子どもたちも短期間で色々な感情と向き合いながら、自分たち自身を表現できたようで、発表後にこんな声を聞かせてくれました。

<参加した子どもたちの声>

「みんなの前で発表する時はすごく緊張して、失敗するかもって思いました。でもみんなで練習するのが楽しかったです」

「発表では、色々な人に協力してもらいました。ありがとうございました!」

「今回ダンスをやって、ぼくはとても素晴らしいものだと感じ取れました。ダンスや動きで、いろいろな言葉を身体で表現できるからです」

それぞれが10日間の活動の中で、新しい可能性や楽しさにしっかりと出会い、向き合っていることが伝わってきます。

華やかなひまわりのダンスで作品もフィナーレへ

子どもたちが色々と模索しながらつくり上げた表現は、当日観てくださった観客の方々に、さらに形を変えて伝播していきます。

<観客の方々のご感想>

「子どもたちの手による芸術は、大人がやる芸術と少し違い、「生のままの芸術」だなぁということを実感しました。演者の自我と表現との距離が近い、あるいは距離が0であると思うのです」

「自由な発想と肯定感が、これからの社会において生きていく力になるのではないかと思いました」

「表現の仕方は一つではない、十人十色。個性を尊重し、自発的に行動することは、心の成長にとても大切な要素だと思います」

当初、鈴木さんが思い描いた「あっちとこっちとその間」、表現者と受け手の間に存在するあたたかなコミュニケーションの形がすでに生まれているようです。

みんなで胸を張ってカーテンコール!

おおよそ45分の公演を見事やり切り、ついにフィナーレ!
子どもたちはとっても満足そうな様子でステージを後にしました。観客の方々からの鳴り止まない拍手は、子どもたちの心にきちんと届いたことと思います。

公演後、控え室にて記念写真

これにて、チーム「あっちとこっちとその間」は解散!
短期間で一期一会のチームでしたが、子どもたちにとっては忘れられない夏の思い出になったのではないでしょうか。これから先の長い人生、「正解がないから認め合える」この日々の体験を少しでも思い出し、新しい創造の花を咲かせていってくれたらいいなと思います。


取材・執筆:福留千晴

「地域と食のしごと」NORTHERN LIGHTS代表/mazecoze研究所 企画・編集・執筆
鹿児島県出身、実家は大隅半島で芋焼酎の芋を育てる農家。カナダ・モントリオールでの映画学専攻や10カ国以上へのバックパッカー経験、広告会社勤務を経て、現在は中小企業や自治体においてソーシャル&ローカルデザインのプランニングからプロデュース、クリエイティブ、PRまで一貫して行う。2017年、経産省「BrandLand Japan」にて全国12商材の海外展開プロデューサーに就任。焼酎唎酒師、日本デザイナー学院ソーシャルデザイン科講師。

取材・執筆:福留千晴

「地域と食のしごと」NORTHERN LIGHTS代表/mazecoze研究所広報・新規事業開発
鹿児島県出身、実家は大隅半島で芋焼酎の芋を育てる農家。カナダ・モントリオールでの映画学専攻や10カ国以上へのバックパッカー経験、広告会社勤務を経て、現在は中小企業や自治体においてソーシャル&ローカルデザインのプランニングからプロデュース、クリエイティブ、PRまで一貫して行う。2017年、経産省「BrandLand Japan」にて全国12商材の海外展開プロデューサーに就任。焼酎唎酒師、日本デザイナー学院ソーシャルデザイン科講師。


福留さん、素敵な現場レポート、ありがとうございました。
次回は、「学校編」として、都内の小学校で現在進行中のパフォーマンスキッズ・トーキョー(PKT)の様子を取材していただく予定です。お楽しみに!

※無断転載・複製を禁ず。