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コラムColumn

正解がないから認め合える、いろどり豊かな表現のかたち vol.2~学校編~

パフォーマンスキッズ・トーキョー(PKT)
正解がないから認め合える、いろどり豊かな表現の形
vol.2 ~学校編~

いろどり豊かなパラソルと、表現する子どもたち

2008年度より、当NPOが東京都・公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京と実施しているパフォーマンスキッズ・トーキョー(PKT。 ダンスや演劇、音楽などの分野で活躍するプロの現代アーティストを、都内の学校・ホール・児童養護施設などに派遣。10日間程度のワークショップを行い、子どもたちが主役のオリジナルの舞台作品をつくり上げます。最終日に発表公演を行い、多くの方々にワークショップの成果を発信しています。

今回は、そのホールと学校でのワークショップの様子をmazecoze研究所」の福留千晴さんに取材していただきました。

vol.2では、墨田区立業平小学校6年生86名と、青木尚哉さん(振付家・ダンサー)のワークショップ現場レポートをご紹介します。

>>vol.1の記事はこちらから

※ワークショップは、マスクの着用や手指・道具等の消毒、3密回避など、新型コロナウイルス感染予防対策を講じたうえで実施しました。
※一部の写真は、撮影時のみマスクを外しています。


今回は、10月30日に発表が行われた墨田区立業平小学校のワークショップの現場を訪ねました。参加しているのは小学校6年生の子どもたち86名。振付家・ダンサーとしてみんなに影響を与えてくれている青木尚哉さんのコメントとともに、ワークショップと公演の様子をご紹介します。

 

表現を通じて「問い」続ける

今回『虹色の風を起こせ』というテーマのもと、86人もの子どもたちをまとめてくださったのは、アーティストの青木尚哉さん。タイトルに込めた思いを語ってくれました。

青木尚哉(振付家・ダンサー)

1973年、東京都あきる野市生まれ。自然豊かな秋川渓谷を駆け抜けて育つ。少年野球と地元の祭囃子保存会子供連(神田流)を嗜んだ後、16才でダンスを始める。ジャズダンス、クラシックバレエ、モダンダンスの基礎を学ぶ。加えてボディーワークを学び、身体の構造に対する知を深め、自身のメソッド「コンタクト×バランス」「ポイントワーク」を開発。必然と偶然の間に狭間にある因果関係に注目し、「ダンスが人間に与えてくれるもの」を探し求め広範囲に活動中。2004年、新潟市レジデンシャルダンスカンパニー「Noism」発足に参加。立ち上げや海外ツアーなど、深く貢献をした。2013年、仲間とJAPON dance projectを発足、2014年に新国立劇場にて「CLOUD/CROWD」(新国立劇場主催公演)を発表。2015年、日本バレエ協会に招聘。「互イニ素」を発表。平成28年度公共ホール現代ダンス活性化事業に選出。仙台公演にて「マッピング」を発表。伝統を重んじる舞の「絶」、現代を切り取るコンテンポラリー作品の「妙」との間の浮遊人として、調査を進めている。

「今回のタイトルは、依頼をしてくださった学校の先生が子どもたちの発案を元に考えられたものです。コロナ禍で閉塞しがちな社会や生活の中で、子どもたちには思いきり風を起こしてほしいという思いからのようでした。それを聞いた上で、だったらその中にも個々が逆方向に向かう追い風やみんなと違う風を起こしてもいいと考えました。もうひとつ裏テーマとして、いまみんなの中にあるそれぞれのリアルな思いとは「か?」それを出し合わせたいということを考えました」

常に社会や時代の流れの中で表現を通して「問い」を続ける青木さんの原体験とは。

「中学生の時に、野球の部活動で自分だけがみんなと違う意見で、コーチともめた経験があって。その時に”みんなって具体的には誰だろう?”誰がなんと言おうと自分はそれをやりたいのか?”ということをすごく考えました。
その後ダンスに出会い、身体表現と向き合ってきたのですが、自分の中ではダンスは表現というよりは、「衝動や現象」だと思っていて。ひとつひとつの身体やそこからくる感覚や感じ方は人によって全く違うんですよね」

青木さんは今回ワークショップの集大成として、業平小学校の運動会で発表される20分の作品についてこう語ります。

「表現っていうのは何も特別なことじゃなくて、普段みんながしていること、例えば服を選んで着たり、気持ちよい動き方を選んだりすることと同じだと思っています。大人になると意味”に重きを置きがちで、やる前に考え過ぎてしまいますが、子どもの頃はもっとシンプルに自分が見たり感じたりしたことを素直に伝えようとしてくる。もっと自分を知ってほしい!という衝動が子どもたちの中にはあると思っていて。今回の自分の役割としては、全体の動きや構成、テーマを与えた上で、それが受け手にどう伝わるだろうかという調整をし続けています。演出というのは、結局思いやりだし、相手に何を届けるかなんですよね。この活動を通して、自分たちそれぞれにとっての表現やそれが伝わることの心地良さを少しでも感じてもらえると嬉しいですね」

作品の流れやポイントを伝える青木さん

 

自分の中の「衝動や現象」を探す旅

さて、今回取材させていただいたのは、全9回のワークショップの中の6回目。青木さんが構成した全体の動きの中で、個々がもう少しどのように動いていくとより伝わるのか、全体的に調整をしているような場でした。

今回の活動に関わるアーティストは、青木尚哉さんのほか、2名のアシスタント・ダンサーである芝田和(しばた・いづみ)さん、木原丹(きはら・あきら)さん。また学年の先生方3名が一丸となって、子どもたちの表現に寄り添います。ワークショップ後のアーティストと先生方の振り返りは2時間以上になる時もあるとか。

青木さんとアシスタントの皆さん(PKTを表現!)

プロジェクトを支える学年の先生方

話しの尽きないワークショップ後の振り返り

この日は本番まで残り10日程度ということで、86人が3組に分かれて楽しいウォーミングアップから身体を動かしていきます。「歩く」という動きひとつとっても、「まんべんなく歩き」「尾行歩き」など様々な歩き方を織り交ぜて、普段とは違う自分の身体の動きや可動範囲を確認していきます。

とっても楽しそうだったのは、こちらの「マネキン」というワーク!

相手に動かされることでいろいろな動きや形が生まれていく

大音量の音楽にのせて数字のカウント「1、2、3…」が流れる中、そのカウントに合わせて、静止している相手の身体を動かしていきます。動かされた人はじっとしたままその形をキープ。そして最後には、意図せず出来上がった奇妙な形をもう一人が完全にコピーするという、楽しそうだけれどもとっても難しそうなワークです。小学生のみんなの、動きがとっても柔軟で素早いことに驚きます。

この日は前半のワークショップを体育館で行い、後半は校庭に出て全体の動きの確認をします。

校庭に出て、冒頭の「歩く」シーンから全体の動きを確認していく

校庭に出ると、また体育館とは違って子どもたちは伸び伸びと動くように見えました。天気はあいにく曇りだけれど、本番は晴れて、たくさんの友だちや保護者たちでいっぱいの校庭をイメージしながら練習していきます。

実は、業平小学校は創立104年という長い歴史と伝統のある学校で「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」において、聖火ランナーが学校の目の前を通ることもあり、長年オリパラ応援や関連教育に力を注いできた学校でした。コロナ禍でなければ、子どもたちも思いきり外に出て選手たちを応援するなど、二度とない機会を体験できたのですが、それがなかなか叶わずにいました。今回、本プログラムに応募された先生方の思いとしては、子どもたちにできる限り普段経験できない機会や体験をさせてあげたいという背景がありました。

104年の歴史を持つ業平小学校、東京スカイツリーを背後に

校庭での練習も半ばに差し掛かった頃、あいにく雨が降り始めてしまい、再度体育館に戻って振り返りをすることに。今日のワークショップが折り返し地点ということもあり、最も叱咤しなければならない回になったかもしれないと話す青木さん。

「子どもたちには常に、選択肢を設けるようにしています。もし自分の意志で、このワークをやらないということであればそれでも良いと思っているんです。ただやるからには、一緒にやっている他者への敬意を持ってやろうということも伝えています」

今日はみんなとても楽しそうに、前向きに取り組んでいるように見えました。

「何回かこういうことも伝えていて、今のところ彼らは”やらない”権利を発動していないので、納得してくれていると思うんですけどね。結局、そこにも思いやり”があるのだと思うんですよ。青木が今日も来てるし、気分は乗らないが、じゃあ一つやってみようかな。とか、どうやって観客の方々に伝えようかな。っていう想像力を働かすことは」

子どもたちの意見を聞きながら進める青木さん

また、本発表とは別に、運動会の最後に、図画工作・音楽・ダンスが融合した閉会セレモニーをすることになり、ダンスチームは、青木さんたちと一緒に取り組むことになりました。

普段なかなか選択肢が少ない子どもたちの生活に、プロの方々に伴走いただいて、自分のアイディアを形にして他者へ届ける。そんな取り組みが今後、子どもたちの進む道にどのような影響を与えるのか、これからとても楽しみです。

 

いろどり豊かに伝播していく表現の形

いよいよ迎えた、晴天の本番当日

そしてついに晴天で迎えた、発表本番当日。
各学年のさまざまな競技・発表が進んでいき、あっという間に6年生のみんなの順番になりました。

学年Tシャツを衣装にして登場

子どもたちは最初、少し緊張した面持ちでしたが、身体を動かし始めた途端に青木さんやアシスタントの芝田さん・木原さん、そして学年の先生方と何度も練習し、確認してきた動きを思い出したかのように、自由に表現していきます。

コロナ禍を迎え、変化の多い時代を生きる86人の6年生の子どもたち。
来年にはまたそれぞれの場所で、違う生活が始まる中、どんなことを思い、感じながら小学校生活最後の運動会と発表の場を過ごしているのでしょうか。そんな思いは、それを見ている他学年の子どもたちやご家族にも伝播しながら、あっという間に20分の発表時間が過ぎていきます。

生き生きと自分たちのいまを表現する

<参加した子どもたちの声>

「心に残っているのは、それぞれのチームを初めて通した(シーンをつなげた)時です。全部のチームがすごかったのを覚えています」

「全てを固定せずに一人ひとりの個性を出していくという所が全てを揃えようとする今までとは違うなと思いました。一時は『これでいいの?』と思っていたけど、一生に一度にふさわしい運動会になりました」

「僕は決まった振付があまりないという点に『今までにない』を感じました。今回は決まった振付があまり無いので集中して全力で取り組むことができたと思います」

「全部楽しかったけれど、特にダッシュマネキンが面白かったので、たまに妹と遊んでます」

いつもやっていることも、少し変えたりするとまた面白いことが見つかったりして楽しかったです。一人ひとり違っていい違うところがあるからこそ面白いこともあると思えました」

まさに冒頭で青木さんがおっしゃっていた子どもたちへのメッセージが、いろどり豊かに子どもたちに伝播していったことが伝わってきます。

それぞれの思いを乗せて、一人ひとりが考えた「手のダンス」

「正解がないから認めあえる」、そんな経験はみんなのこれからの学校生活だけではなく、今後生きていく上でも大きな原体験になっていくのだろうと思います。


取材・執筆:福留千晴

「地域と食のしごと」NORTHERN LIGHTS代表/mazecoze研究所 企画・編集・執筆
鹿児島県出身、実家は大隅半島で芋焼酎の芋を育てる農家。カナダ・モントリオールでの映画学専攻や10カ国以上へのバックパッカー経験、広告会社勤務を経て、現在は中小企業や自治体においてソーシャル&ローカルデザインのプランニングからプロデュース、クリエイティブ、PRまで一貫して行う。2017年、経産省「BrandLand Japan」にて全国12商材の海外展開プロデューサーに就任。焼酎唎酒師、日本デザイナー学院ソーシャルデザイン科講師。

取材・執筆:福留千晴

「地域と食のしごと」NORTHERN LIGHTS代表/mazecoze研究所広報・新規事業開発
鹿児島県出身、実家は大隅半島で芋焼酎の芋を育てる農家。カナダ・モントリオールでの映画学専攻や10カ国以上へのバックパッカー経験、広告会社勤務を経て、現在は中小企業や自治体においてソーシャル&ローカルデザインのプランニングからプロデュース、クリエイティブ、PRまで一貫して行う。2017年、経産省「BrandLand Japan」にて全国12商材の海外展開プロデューサーに就任。焼酎唎酒師、日本デザイナー学院ソーシャルデザイン科講師。


福留さん、素敵な現場レポート、ありがとうございました。
次回は、「対談編」として、PKTに申込んで下さった業平小学校6年生担任の岩田純一先生と、芸術家と子どもたち事務局長・中西麻友の対談の様子をお届けする予定です。お楽しみに!

記録写真:NPO法人芸術家と子どもたち
取材日:2021年10月19日
※無断転載・複製を禁ず。