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コラムColumn

【勉強会報告】少年院にいる子どもたちの現状と課題を学ぶ vol.1(前編)

少年院×芸術家と子どもたち
【勉強会報告】
少年院にいる子どもたちの現状と課題を学ぶ vol.1(前編)

1999年に発足以来、学校や児童養護施設などの教育・児童福祉の現場で、数多くのアーティストによるワークショップ(ASIAS:エイジアス)を実施してきた、芸術家と子どもたち。その中で、発達障害のある子や虐待を受けた経験のある子など、今の社会に生きづらさを感じている子どもたちへのワークショップの意義というのを強く感じてきました。

アーティスト・ワークショップは、少年院で生きる子どもたちにとっても、何かその後の人生を生きていく上での力になるような体験をつくることができるかもしれない。そんな思いから、一昨年度、矯正教育の場での活動に向けて動き出しました。

今回の公開オンライン勉強会では、「少年院」という場について、現場が求めている支援は何か、当団体にできることはあるのか、実際に現場で少年たちと日々向き合い、矯正教育に携わるお二人にその現状と課題を伺い、今後の活動の可能性について探る場となりました。

これから2回にわたって、その内容をコラムの形でご紹介します。

今回のvol.1(前編)は、勉強会前半部分の、中島学さん(法務省札幌矯正管区長)、山本宏一さん(法務省矯正局少年矯正課企画官)の講話の内容をお届けします。

【助成】公益財団法人ベネッセこども基金


公開オンライン勉強会「少年院にいる子どもたちの現状と課題を学ぶ」概要

登壇者 中島学/法務省札幌矯正管区長
山本宏一/法務省矯正局少年矯正課企画官
新井英夫/体奏家・ダンスアーティスト
実施日時 2021年12月21日(火)19:30〜21:00
実施場所 オンライン会議室Zoom
プログラム ①芸術家と子どもたちより―『アーティストによるワークショップ(ASIAS)とは?』
②中島学さんによる講話―『立ち直りを支援する少年院の現状と課題』
③山本宏一さんによる講話―『「生きづらさを抱える子どもたち(被虐待経験のある子や発達障害のある子)」への対応の現状と課題』
④フリーディスカッション<中島学×山本宏一×新井英夫>
―『社会に出ていく「生きづらさを抱える子どもたち」に、アーティストによるワークショップ(ASIAS)ができること』

※太字の②③が、今回のvol.1のコラムでお届けする内容です。

参加者 教員、アーティスト、少年院関係者など41名

『立ち直りを支援する少年院の現状と課題』 

【講師プロフィール】 中島学/法務省札幌矯正管区長

法務省札幌矯正管区長 博士(法学)
九州大学大学院法学府博士後期課程単位取得退学
1988(昭和63)年法務省入省。赤城少年院長、高松矯正管区第三部長、広島矯正管区第三部長、矯正研修所副所長、美祢社会復帰促センター長、福岡少年院長などを経て現職。刑事政策・犯罪学・司法福祉領域において、刑務所や少年院といった矯正施設に関する歴史研究や処遇論、犯罪や非行に陥った人たちの立ち直り支援のあり方等を主な研究領域としている。
また、NPO法人「食べて語ろう会」顧問、日本自立準備ホーム協議会(仮称)設立準備会メンバーとして少年院出院者や刑務所出所者への食事支援や居場所作り等の活動にも参画するなど、社会における具体的な支援実践、とりわけ矯正施設から家族等への帰住が困難な方々への支援体制の構築等にも積極的に取組んでいる。

// 矯正施設の機能について

「刑務所」と「少年院」の活動の違いについて、最近私はよく、□、〇、△のイメージで説明しています。刑務所は、適切な管理運営という意味で、□が一番大きくて強固です。さらに、数百名の方々が生活する集団処遇のため、規律秩序を意味する〇の機能も非常に厳しくなる。その上で、個々の方への関与・介入は少なくなるため、小さい△で表しています。
一方、少年院は個々の成長発達を支援する様々な関与・介入を実施するため、△の機能が一番大きく、その中に□、〇が入ってくるイメージです。施設運営をする上で、このバランスは非常に重要で、このバランスが崩れると、色々な支障が生じます。

 

// 医療モデル(個人モデル)と社会モデル(生活モデル)

では実際、少年院の中で何が行われているかということですが、最近は、医療モデルに基づく認知行動療法のベースとした様々な改善更生プログラムが提供されています。一方、これに対して私は批判的であり、経験上、そこに重点を置くことよりも、少年たち一人ひとりの声を聞き、その声に応答する方が、贖罪や反省、回復に繋がるのではないかと考えています。
医療モデルは、個人に焦点をあて、個の中に治療すべきターゲットを置きます。それに対して、バリアフリーなど、個々の課題について、社会の方が対応していくことを社会モデルと言います。私は、少年院の処遇は、個々の生活を支援するという意味において、生活モデルに非常に近いものがあるのではと考えています。少年たちとの生活の中で、関係性を構築する。関係性を構築するためには、言葉による呼びかけと、それに対する応答理解が必要になる。言葉と関係性というものが、少年教育の中核にあるべきではないかと思います。

 

// 「相談することの意味が、少年院の中でやっとわかった。」

そういった意味で、私はやはり芸術の持つ可能性の一つとして、非言語のノンバーバルコミュニケーションという側面が非常にあると思います。言葉にならないものを、芸術を通して、少年たちとの関係性や、非言語的なやりとりの中から、逆に言葉を紡ぎ出すということができるのではないでしょうか。そして、そうした体験が少年たちにとっても非常に重要じゃないかと考えています。少年たちは、一人ひとり異なる環境、また異なる個性を持っています。また、社会に出たからといって、均一な社会に戻って、均一な環境に置かれるわけではないんです。それぞれの立場や個性に応じて、どうしたら社会の中で社会の一員として再犯再非行せずに、生活していけるか。そういった力を施設の中で習得させることが、少年院の役割ではないかなと思っています。

少年院で出会った子の中に、「相談することの意味がやっと少年院の中でわかりました」と言ってくれた子がいました。彼は今まで恐らく、たくさんの相談を周りの人達にしてきたんだけれども、その相談を彼の視点で聞いてくれた方がいなかった。彼の言葉に応答してもらってなかった。そうなると、相談しても意味がないんですよね。それなら自分勝手にやりますよという形で、結果的に彼は犯罪非行を起こしてしまったんです。
以前、ラッパーの方を少年院に招いて、ラップづくりの活動をしました。その時、ラッパーの方が仰っていたのですが、ラップでは、コール&レスポンスが非常に大事なのだそうです。レスポンスビリティーというのは、レスポンスがあるから責任が発生するんだと。誰一人そのコールに応答してもらえなかった人に対して、レスポンスビリティーを要求するのは非常に厳しいですよね。
自分の言葉を奪われ、何をどうやって相談したらいいかわからない…そういった子たちが少年院では生活しています。彼らのコールに、私たちスタッフが一生懸命応答(レスポンス)しているのが少年院の職員たちの活動です。


『「生きづらさを抱える子どもたち(被虐待経験のある子や発達障害のある子)」への対応の現状と課題』 

【講師プロフィール】 山本宏一/法務省矯正局少年矯正課企画官

秋田県横手市生まれ。秋田大学教育学部卒。
平成2年,盛岡少年院で法務教官として勤務開始。その後,法務省大臣官房,矯正研修所東京支所教官,矯正局総務課補佐官等を経て,平成28年に新潟少年学院長,平成29年矯正局更生支援室長として政府の再犯防止推進計画の策定等に矯正局の立場から関与,令和元年から現職として勤務,今般の少年法等の改正を踏まえた少年院の新たな運営に向けて鋭意取り組んでいるところ。

// 少年院にいるのはどんな子どもたちか?

図1

図1は、少年院にいる子たちの非行名です。男子について、平成元年と令和元年で全く異なるのが「詐欺」でして、こちらは、いわゆる特殊詐欺の受け子、出し子(※)をして少年院に入ってきたケースになります。女子が男子と大きく違うのは、「覚せい剤」の実刑で入ってくる子たちが非常に多いことです。これは、交際してる男性や暴力団関係者に覚せい剤を打たれたことをきっかけに、少年院に入ってくる子たちが非常に多いということです。最近はさらに男子も女子も、大麻で少年院に入ってくる子たちがどんどん増えてきてます。こうしてみてみると、特殊詐欺や大麻など、その時代にある非行を犯してしまって、少年院に入ってくるという子たちが多いのかなというように思います。

※振り込め詐欺などの犯罪で、直接現金を受け取る役を「受け子」、預金口座から現金を引き出す役を「出し子」といいます。

図2

図2は、少年院にいる子たちの帰る先の変化です。平成元年は両親がいるご家庭の子が一番多かったのですが、令和元年では、いわゆるシングルマザー、シングルファザーのご家庭に帰る子たちが非常に多いような状況が特徴として見られます。

図3

図3は、知的障害や発達障害など、発達上の課題がある子たちの割合の変化です。令和元年では4人に1人ぐらいは何らかの障害を抱えて少年に入ってくるということが分かります。こちら、「障害がある」と医師からの診断が出ている子の割合となるため、診断は出ていないけれども、発達上の課題があるという子も多くいるというのが現状です。

図4

図4は、被虐待経験がある子の割合です。こちらの図は男女合わせてのデータですが、男女を分けると、女子は被虐待経験のある子の割合が50%を超えます。2人に1人以上は何らかの虐待を受けた経験があります。さらに、この調査は本人への聞き取りによるものですので、本人が認識していない場合や、性虐待については口に出したくない子、あるいは忘れるようにしている子などのことを考えると、実数はもっと多いのかなと感じています。

※スライドのデータは、法務総合研究所『犯罪白書』より。『令和3年版犯罪白書』はこちら

 

// 生きづらさを抱える子たちへの対応について

障害のある子たちについて、少年院では平成27年に新しい「少年院法」ができたことを契機に支援教育課程を設けました。知的障害や発達障害、あるいはその疑いのある子たちのカリキュラムをしっかりとつくり、その子たちにどのように接したらよいかのガイドラインを策定しています。ガイドラインの内容については、障害に関する基本的なことを、まずは我々少年院の職員がしっかりと認識して取り組んでいくことが書かれています。身体の感覚に関するチェックを一人ひとり行い、その子その子の長所や弱点をしっかり把握した上で、個別に指導していこうと取り組んでいるところです。

もう一つ、虐待の問題への対応というのが少年院の最近の課題です。本当に壮絶な被虐待経験を経て少年院に入ってくる子たちが非常に多いので、少年院にいるわずか1年間のプログラムを受けて、そのトラウマから抜け出せるというようなことは、まずあり得ないということはご想像いただけると思います。今我々が取り組んでいるのは、障害と同じく、まずそもそも虐待のトラウマに関する知識を、我々職員がしっかり持つこと。さらには、虐待を受けながらもそれを認識せずに生きてきたサバイバーである子どもたちに、それがどういうことなのかをしっかり知ってもらうことをスタートにしています。以前実施した職員向けの研修では、1施設を除いて全施設から、虐待を受けた子への対応についての事例が寄せられまして、やはりもう少年院全体で考えていかなければならない問題であることを改めて実感させられました。自傷など、少年院の中で「問題行動」として捉えられてしまうことが、実は、子どもたちが虐待から生き延びるためのスキルとして身につけてきた結果であるかもしれないということを、我々職員がきちんと理解しておくこと。そして、安全な大人とはどういう大人なのかということを、子どもたちに伝えていく必要性を感じています。

 

// アートとの関わりについて

実は、少年院の中でも、様々なアート的な取り組みを行っています。私が関わった活動について3つご紹介します。

(1)障害のあるダンサーによる多国籍ダンスユニット「ILL-Abilities(イルアビリティーズ)」をお招きして、ダンスワークショップを実施しました。はじめは閉ざしていた子どもたちが、徐々に踊り出す姿に、メンバーの一人が涙する場面もありました。
《参考》https://truecolorsfestival.com/jp/topics/2885/

(2)盛岡少年院では毎年子どもたちが多色刷り版画を制作しています。その作品の展示会が、東京都杉並区の座・高円寺にて開催されました。
《参考》https://za-koenji.jp/detail/index.php?id=2602

(3)旧神奈川医療少年院の仮囲いに、近隣中学校の生徒と共に「つながり」をテーマに絵画を制作しました。「つながり」というテーマも、「少年院にいる子たちも同じ同級生だよね」「同じ空を見ているよね」といった生徒たちの言葉から生まれたものです。
《参考》https://www.townnews.co.jp/0303/2021/12/16/604356.html

(1)

(2)

(3)

少年院にいる子どもたちは、社会からは「非行少年」として見られてしまいますが、実際に少年院で働く我々が見る限り、やはり一人の「子ども」です。彼らにも可能性の扉はとてもたくさんあると感じます。その扉を開くのは、決して我々だけである必要はなく、様々な方に関わってもらってこそ、開く扉もあるのではと感じています。


中島さん、山本さん、貴重なお話と資料の数々、本当にありがとうございました。
vol.2 【後編】では、アーティストの新井英夫さんとお二人とのフリーディスカッションの内容をお届け致します。

編集:NPO法人芸術家と子どもたち
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