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コラムColumn

にじいろマルシェ 2022 ~児童養護施設とファミリーホームの交流ワークショップ~

2019年度から、文化庁「障害者等による文化芸術活動推進事業」の採択を受けて実施している企画について、2022年度は、児童養護施設とファミリーホームとの交流ワークショップを行いました。

児童養護施設 二葉むさしが丘学園(小平市)と、ファミリーホームしろやま(小平市)で暮らす子どもたちに加えて、地域で暮らす児童養護施設退所者、グループホームで暮らす障害のある方が、ダンスや音楽、美術など様々な表現活動を通して交流してきました。途中、オンラインでの実施となった回もありましたが、12月には『にじいろマルシェ2022』と題して、施設内で発表会を開催しました。ワークショップで取り組んできた、身体を使って即興的な要素も交えて音やリズムを感じながら踊るシーンや、子どもたちに「欲しいもの・この世からなくなって欲しいもの」をインタビューして出て来たそれぞれの言葉を紡いで作成したオリジナル楽曲やダンスの披露、舞台美術にもなる衣装を使ったファッションショーのシーン、そしてお客さんを巻き込んで一緒に踊るシーンなど盛りだくさんの発表会となり、たくさんの拍手をもらった子どもたちは堂々として、とても嬉しそうでした。

このたび、二葉むさしが丘学園の自立支援コーディネーターである鈴木章浩さんが、これまで継続して体験してきたワークショップの効果や成果についてエッセイを寄せてくださったので、2022年度のワークショップの記録と共にご紹介します。


■2022年度ワークショップ概要

●実施施設:児童養護施設 二葉むさしが丘学園(小平市)年長~高校3年生 8人
      ファミリーホームしろやま 中学1年生~高校3年生3人
      地域で暮らす児童養護施設退所者 2人、障害者グループホーム利用者 1人
●アーティスト:セレノグラフィカ(隅地茉歩・阿比留修一/ダンスカンパニー)、
        新井英夫(体奏家・ダンスアーティスト)、板坂記代子(身体表現家)、はしむかいゆうき(音楽家)、水内貴英(美術家)
●実施期間:2022年6月~2022年12月 計9回実施(オンライン実施回含む)

文化庁委託事業「令和4年度障害者等による文化芸術活動推進事業」
主催:文化庁、特定非営利活動法人 芸術家と子どもたち

 


『ワークショップが子どもたちにもたらすもの』

鈴木章浩(二葉むさしが丘学園・自立支援コーディネーター)

まず、この場をお借りし、ご報告させていただきたいことがございます。初めて貴団体「芸術家と子どもたち」とつながりを持たせて頂いた時から、子どもたちと一緒にワークショップに参加し、私と一緒に施設内のコーディネートをしてくださった当施設職員の阿比留美知江さんがご病気でご逝去され、約1年半が経ちました。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

 私は、約10年前、ある全国規模の研修に発題者として登壇しました。「自立支援コーディネーターの実践」というテーマです。報告内容の中心は「芸術家と子どもたち」との活動内容でした。しかし、残念ながら受講者の方の感想の中には、「このような話を聞くために参加費を払った訳ではない」旨のご指摘がありました。同じような感想を持った方は他にもいらっしゃったことと思います。私の拙い報告では、心に傷を負った子どもたちにとって〝芸術と福祉のコラボはとても効果がある″ということを伝えられなかったという事実を突き付けられる結果となりました。私は、その後も当施設の臨床心理士などの言葉を借りながら、報告内容を修正し続けています。
 それから10年後、私の拙稿が、ある「賞」を頂きました。伝わったこと、応答があったことにとても喜びを感じました。ここまで10年の歳月が経過しました。
 受賞の選考理由は次のような内容でした。この選考理由そのものが、貴団体との活動の「成果及び効果」と言えるのではないでしょうか。
 「音楽、ダンス、美術、造形等芸術の専門家とともに、子どもたちが自由に自己表現できるワークショップを継続的に行っており、子どもの主体性や自己肯定感を育む貴重な体験活動であること。他施設と合同での活動もあり、他施設の子どもがお互いに関わりあうことで視野を広げ、また子ども同士で表現を模索して話し合う機会にもなっており、子どもたちのそだちあいや仲間づくりといったことも期待される実践であること。芸術の表現活動と自立支援との繋がりという視点で、子どもたちがこのワークショップを通して対人関係などのスキルを身につけていること、自立の基礎となる「支え、支えられることで他者への共感を知る」ことがふんだんに盛り込まれている活動であるとし、自立支援の幅広い見方の必要性も述べられている。このように、社会的養護の自立支援を柔軟に捉え、広げる可能性も含む意義深い実践であること。」
 昨今、教育・福祉の現場において費用対効果や消費主義的な風潮の影響が年々増している点が気になっています。研修受講者、プログラムやワークショップの参加者なども受動的姿勢ではなく、体験を共有すること、共同・協働という姿勢や視点を持つことが何よりも不可欠なのではないかと考えています。

美術の回では、発表会で舞台美術にもなる衣装を思い思いに制作

 子どもたちが自由に自分を表現できること、特に虐待等を受けて身体が固まっている子どもたちが、自分の身体の自由を感じることができるところから始まる活動は、様々な表現を獲得していく第一歩だと考えています。赤ちゃんが顔を真っ赤にして泣きながら、空腹や不快を訴えるのも自己表現、それがやがて言葉などによる表現に繋がっていくことを考えれば、施設の子どもたちが芸術家との関わりを持ちながら、表現できるようになることは、自立のベースであると言えます。

音が止まったら好きなポーズでストップ!

近くの人と身体の一部をくっつけてつながっていく

お客さんに自分でつくった衣装を好きなポーズで披露

 現在、児童福祉法の改正もあり、子どもの意見表明、アドボカシーが叫ばれています。以前は、こうした表現活動が意見表明にもつながることが理解されなかった、また私が自立へのベースであることを上手く発信できなかったということを痛感しています。

 私の大学時代の恩師は「(鈴木が)この活動を通して、自立支援の理論化を進めていることも含めて、心強く思っています」と仰ってくれています。

 体奏家の新井さん、板坂さん、ダンスカンパニーのセレノグラフィカさん、音楽家のはしむかいさん、美術家の水内さん、「芸術家と子どもたち」のスタッフの方々と私たち職員(子どもの伴走者=伴奏者)と子どもたちでつくり上げた空間は、現代のコスパ優先主義、費用対効果優先主義、消費優先主義では、決して出来上がることのない作品であると言えます。
 体奏家の新井さんから、心に傷を負った子どもたちは、知らず知らずのうちに、自分の身体を大切にすることを学び、他者を大切にすることを学びます。その空間に居る者は、大人でも子どもでも、皆、いつの間にか、自分自身を奏で始めます。子どもの本気に対して、大人が本気で応答し、大人の本気に対して子どもが本気で応答します。意思表示や表現方法は、人それぞれ得手不得手もあり、多岐に渡ります。しかし、他者(相手、受け手など)がそれぞれの表現者の思いの根源にアプローチ(応答)することが、不可欠なのではないかと思います。

集合より早く来て、おしゃべりしながら内容の確認

吊るした衣装を着る方法を試してみる

いろんな音に合わせてみんなで自由に踊る

 私は仕事柄、施設退所者への支援(アフターケア)が後を絶ちません。しかし、出来ることと言えば、目の前にあるトラブルを回避、緩和する程度のことであり、あくまで「対症療法的」な支援しかできていないのが実情です。施設退所者の多くは、「生きる力」を失くしてしまっています。本来の課題は、もっと根本的な部分にあり、その改善に向けての支援は、入所中の支援(インケア)に落とし込む必要があります。
 ある退所者が「久しぶりに良書に出逢えた」と一冊の本を読むよう勧められました。そこには、(昨今、この言葉が使われすぎと指摘されていることもありますが)「愛着関係」についての研究及び調査、理論が載っていました。「愛着」と「オキシトシン」という物質との関連性について、そこには「応答性」「共感性」というキーワードが出てきます。
 また約10年前、ある音楽家とお酒を酌み交わしていた際、私が唐突に「自立支援」について訊ねるとその音楽家は一冊の本を紹介してくださいました。その本の中には、「公共性」としての「他者からの応答」がキーワードとして、載っていました。
 一冊の本は精神医学関連の書籍、もう一冊は哲学関連の書籍ですが、共通するワードは、偶然なのか、必然なのか、「表現」「他者」「応答」「共感」です。これは人が人として生きるためになくてはならないものであると言うことができます。
 今回のワークショップで、体奏家の新井さんは、ご自身の体験から、どんな方法で「表現」したとしても、そこに「応答」があることが大切であると教えてくださいました。体を奏でる専門家からの貴重なメッセージです。
 新井さんは、「私にとっても、ここ(当施設)に来ることは『里帰り』だと思っています」と仰ってくださいました。子どもたちだけでなく、関係者の皆様にとっても、当施設が「故郷」になるよう、子どもと伴に奏でる専門家=児童養護施設職員として、今後も精進していかなければならないと思っています。

リーダーの動きを真似して踊る

お気に入りの曲を選んで歌う

輪になって、お客さんも一緒に身体を動かす

 今回の私の報告が、理解を得られるには、この先、最短でも10年を必要とするかもしれません。その頃には、私は引退していることと思います。それでも、今、発信することで、何処かの、誰かが、一つの「ヒント」として、引き継いでくだされば、どなたかに繋がればそれだけで意義があると思っています。
 自立支援に「魔法の杖」はありません。今も、これからも、試行錯誤を繰り返しながらの支援の連続であることでしょう。是非、芸術家の皆様や関係者の皆様のお力、お知恵をお借りし、共に、自立支援という永遠の課題に向かっていくことができればと思っています。

オリジナル曲『むさしろ山の探検隊』

衣装のオリジナルTシャツ

鈴木さんもギターで一緒に参加


ワークショップは、今年度も新型コロナウイルスの影響を受け、一部オンラインを活用するなど、子どもたちとアーティストの関係性を深めていくには難しい状況の時もありました。しかし、ダンスや音楽、美術など多様な表現活動を経験しながら、少しずつ人と人とのつながりが深まり、子どもたちが段々とのびのび表現するようになっていきました。ワークショップが始まる前や休憩中の、子どもたちとアーティストのふとしたおしゃべりから、最後の発表でたくさんのお客さんに拍手と感想をもらうまで、音楽やダンスをつくることに直接的に関係ないように見えることも含めて、9回の中にはいろんな形の「応答」が詰まっていたのだなと思います。そうした「応答」は、私たちスタッフにとっても励みになり、「楽しい」「嬉しい」などのあたたかな気持ちを、あの場にいたみんなで共有できたように感じます。鈴木さんが仰るように、こうした「応答」の積み重ねを経て得た経験が、子どもたちがこれから自分の未来をつくっていくための、ささやかでも糧となることを願って止みません。最後になりましたが、活動を支えてくださった施設職員や関係者の皆様、アーティストの方々のご尽力に、改めまして心より感謝申し上げます。

写真:金子愛帆
編集:NPO法人芸術家と子どもたち
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