地域のセーフティネットとしてのアーティスト・ワークショップ ~3年間を振り返って~(後編)
前回のコラムでは、3年間を振り返り子どもたちにどんな影響があったかなどの感想を伺いました。後編では引き続き、子どもたちの変化や、アーティストの気づきを伺いながら、これからについて考えました。
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■アーティストから見た子どもたちの変化(前編からの続き)
酒井:あと、去年から続けていた子たちを見ると、すごい成長があるなと感じています。ある女の子は、初めて会った時とかはあまり反応が無い感じだったけど、今年は「OK!やるよ!」みたいな感じになっていました。
渡辺:今日、ダンスシーンをやり終わって袖に帰って来た時の彼女の顔が良かったですね。「やり切った」という感じの表情でした。
中西:遅れて来てリハーサルではやっていないことなのに、度胸がありますよね。それに、他の女の子2人も立派でしたね。いつも他の子の陰に隠れていた感じだったけど、いつの間にか彼女たちが踊るシーンができていてびっくりしました。
酒井:リハーサルではないシーンでした。
渡辺:リハーサルが終わった後に、酒井さんがちょっと冷や汗かいてるみたいな感じだったから「どうしたの?」と聞いたら、「3曲目が追加になったけど、曲順は分からないです」と言ってました。
酒井:「とりあえずこれで行きます!」と。でも、みんな良かったです。ネパールやフィリンピンの子たちがいるダンスチームの子たちは、もっと時間が必要なんだろうなと思います。3年でようやくベースづくりができた感じがしました。
石平:普段は、学校とか親とかから、怒られないようにすることが多いと思うけれど、ここで、子どもたちの力を信じてくれているってことはすごい伝わっていると思う。信じてくれている人には、自分も裏切っちゃいけないみたいな、そういう動機で動いているんじゃないかな。何だかんだ来て、何だかんだやっているのは、自分を大事にしてもらっている感じをすごく受けているんだと思います。ここで自分を「表現しなきゃ」というのはまたちょっと違うんだけど、「信頼に応えたい」というのが、本番で自分を出している大きな元じゃないかな。
中西:そんなダンスチームに羨ましがられていた音楽チームはどうでしたか。いきなりこの空気で、中村さん自身もびっくりしたんじゃないかなと思いますが、率直に聞かせてください。
中村大史さん/音楽家・作曲家(以下、中村):今日のアクションとしては、発表の場で披露するという形なのは間違いないんですけれど、それに至るワークショップを重ねる中ではあまりそれに向かわずワークショップを行っていました。音楽のワークショップである、という前提がある中で、どうしても音楽で何かをする時は、音楽的な能力や技術など鍛錬に近い作業が必要になってくる場面があって、もちろんお芝居やダンスにもそういう側面はあると思うんですけど、あまりそれをこの機会にやってもなあ、というのが僕の中にありました。これまでのワークショップの中では、伏線は張りつつですけど、初回は楽器を車に積めるだけ持ってきて、いろんな音を直接聞いてみたり、楽器に触らずに一分間目を閉じて今聞こえる音を聞いてみることを毎回欠かさずやったり、脈絡なくピアノをちょっと分解して調律を体験してみたり、あの手この手でワークショップを重ねてみました。それを経て、3人で信頼関係をゆっくりゆっくり築くことができました。前もって2人には伝えてあったんですけど、「3人で目の前で起こることをよく観察して、それに自分たちも参加することが一番必要なことだから、そこを当日はやろう」と。結果、台本にしろ段取りにしろ、覚えにかかると覚えることで終わっちゃうなと思って、あえて台本は覚えなくてもいいことにして、「目の前で起こっていることをよく観察しながら何かしよう」と言いながらやってみました。ワークショップを重ねていろんなことをやってきたから、中村さんがやるならまあやってみようとなったのと、僕も2人を信頼できてたし、良い集中力で本番できていました。終わった時、「頑張った。疲れた」と言っていたが、それだけ集中して消耗するだけの何かを内側から出せたんだなあと思うと良い取り組みができたなと思います。
難しかったのは、仕方ないことだけどワークショップの中で歌を使えないこと。音楽的な能力や技術を抜きにして一番響き合える歌を使わずに、というのがチャレンジングだった。じゃあやっぱり楽器を使うしかないとなる。自分でも意外な面白い方向に行ったなと思うのが、2人とも音楽経験があってヴァイオリンやっていたり、今、吹奏楽部で楽器をやったりしている方たちだったので鍛錬しなくて良いというのがあって、僕のヴァイオリンを貸して何かやろうと最初言ってたら、ヴァイオリンはやりたくなくて、とにかく新しい楽器を触ってみたいと。じゃ何が良いかを相談したら、最初のワークショップの時に出会ったハープとバンジョーをやりたいと言ってくれた。そういう気持ちが彼女たちから出て、それをやれたということで、難しかったところがクリアできてほっとしたというか、そこの気持ちをアクションできて良かったなあと。楽器というのは、無いとできないということもあります。
中西:今日来た時から「練習してたのかな」と思うくらい演奏できていたけれど、ハープもバンジョーも施設には無いから、本当に10月ぶりに演奏してくれたんですよね。
小川:今日練習しているところを見て、ハープをあんなにすぐ思い出せるんだと驚いた。
中村:今日演奏してたのはアイルランドの伝統的なダンスの音楽。元々口承の音楽、楽譜が無くて口伝えで演奏していく、忘れることが推奨されている音楽。覚えて忘れて、また次その曲に出会った時に、忘れているけどゼロじゃない、ということを繰り返して覚えを確かにしていく音楽。それもこのワークショップの頻度にはピッタリだったなと思います。次会うのは一か月後だけど「忘れて良いよ」と毎回言ってて、「忘れました」と言ってまた演奏して、でもやるとやっぱり10分くらいで思い出していたり、今日もそれが5分くらいで思い出したりしてた。そういうのに適した音楽を題材にできたのは良かったんだと思います。
中西:音楽は演劇チームも取り入れていて、全然雰囲気の違う音楽だったけど、見てる方には良い感じに見えました。演劇チームの音楽を担当していた金子さんは大変だったかもしれないけど、どうでしたか。
金子由菜さん/俳優(以下、金子):今日初めて音楽チームを見て「繊細な楽器を扱っているな」と、龍のシーンとかどう来るかなと思ったけど、私も向こう側からの音の力をもらいました。音楽って一人でやっているとなかなか上がって来ないというか、そこを相互の力で上がっていくので力をもらいながら、なんとか龍が退場するまで手がもちました。力をもらって良いセッションができたなと思いつつも、今日は本番で初めて合わせたけど、これがもうちょっと前もって一緒できていると、同じシーンでもきっともっといろんなことができたんだろうなあと、ちょっと惜しかったな、と思います。
渡辺:前回のワークショップは大変だったんですよ。楽器を並べてるじゃないですか。するとみんな触りたくて、楽器を鳴らしたいが、でも鳴らしてはいけない場面で、楽器コーナーが戦いの場になっていました。
金子:そこが悩ましい。やりたいという子どもの気持ちも尊重したいんだけど、作品的には音には抜き差しがあって、「ここは鳴らさないで欲しい」というのもあり、でも「子どもたちは鳴らしたいんだよね~」というのもあって、どこまで子どものやりたい気持ちを活かすかは、いろんな場面で悩みどころ。子どものやりたい気持ちを私たちがどこまで尊重するのか、せめぎ合いみたいなのがあります
渡辺:もっと最初の段階で、楽器にふれる時間があったら、満たされていたのかもしれない。次回はぜひ、そんなことができたら一緒にやりましょう。
金子:音楽は、ダンスもそうだが言葉を使わないので、人種は関係ない。龍のシーンで、ネパールの子たちも演奏してくれてましたが、ちゃんと空気を読んでるんですよね。雰囲気で音を出す場面で、場の雰囲気のイメージを自分でちゃんと持って、「ここは鳴らさなきゃ」「ここは控えて」と音の上げ下げをちゃんと感じているんです。それはやっぱり、こういう演劇とか、言語を使わない部分に関しては本当に良いな、と。人種も歳も関係なく、一堂に会せる良い機会だったなと思います。
中西:楽器のコーナーは気分が乗らない人の逃げ場所というか居場所にもなっていて、でもそこにいると何もやっていないように見えないのも良かった(笑)。この中だけでも、いろんな居かたができる場所の一つとして、楽器コーナーのような場所があると良いのかなと思いました。そして、照明もやりながら、龍もやりながらだった、佐藤さんはどうでしたか。
佐藤円さん/俳優(以下、佐藤):やっぱり3年目というのは、子どもたちが積み重ねてきたものがすごく顕著に表れることを感じています。単純に3年経ったから3年分大きくなっているのももちろんですけれど、2年生から始めて4年生になった子は、下ができてくるんですよね。すると、自分も遊びたいんだけど、下の子がいるからちょっと我慢する。いつもなら率先して遊び始めるけど、下の子には良いところ見せたいというのが、初年度から参加している子は3年分重なっていっている。みんなが段々そういうふうになっていきました。こっちが求めていることに、普通に返してくれることがすごく増えたなと思いました。
初年度は、みんなが初めてで、こっちも初めてなので、「やってみよう」「でもどうやって?」、やったみたことは正解なのか不正解なのか分からない、というところからスタートしました。なので、今年は進みがとても速いなと感じました。渡辺さんが言っていたように、最初はガチガチだった台本から捌いて捌いて、子どもたちから出てくるものを活かして尊重してということが、今回はすごく表れていたなと感じました。ドラムが得意だからドラムのシーンに出ようとか、私はみんなの前でしゃべりたい、だったら一人で堂々と名前を名乗りなさい、とか。でも、台詞は言いたくない、言葉よりも身体の方が良い子は動くこととか、楽器だったら参加したいという子もいて、自分の存在を音で表現してくれるんだな、というのもあった。演劇もあり、ダンスもあり、音楽もありというところで、自分というものを出せる場なんだなというのが今年は感じられました。
お客さんが入って褒めてもらえるから「もっとこうしよう」というのが本番になって出てくるというのは、きっと3年やってきたからなのかな。練習の中で「こうしてみよう」「こうしたら面白いんじゃないかな」ということを、僕らは制約をしないで、子どもたちは好きなだけやってみました。台詞を思いついたら言ったら良いし、音を出したかったら出したら良いし、そのまま本番の舞台に乗ったなという感じがします。その方が、緊張しながら台詞を言うことや動くよりも、「もっとこうしたい」という気持ちがあったから、自分がやりたいことをパフォーマンスとしてやることにつながったんじゃないかな、というのは発見でした。「本当にこれは大丈夫なんだろうか」「いつまでやるんだろう」と、とても冷や汗ものではあったんですけれど、楽しかったなと思います。子どもも生き生きしていたな、という感じがしました。作品としては、ごちゃまぜだったし、物語としてはどうなんだろうというのはいつも抱えていましたが、お客さんがみんな身内の方ですごく味方だったし、子どもたちは嬉しく笑顔で帰って行ってたし、しかも褒めてもらえるし楽しかったみたいで、それがあっていいものだと思った。演劇もダンスも音楽も、そうやって楽しいと思ってもらえれば良いんじゃないかな。
中西:豊田さんは、今年から参加で1年目でしたけど、どうでしたか。
豊田ゆり佳さん/ダンサー(以下、豊田):最初にワークショップに来た時に、遅刻というか、人数も把握しきれない感じでしたが、徐々に慣れてきて、ワークショップ中も子どもたちは自分が出たい時に出る感じで、それはそれで良いなと思っていました。でも、演劇チームと一緒にやるとなった時に台本があったので、「これは大丈夫かな」と思いながら見ていました。やっていくうちに徐々に慣れていって、楽器コーナーの楽器を触りたいというのもあったりして、ちょっと止めたりもしていたが、今日のリハーサルの時に、「大丈夫かな、本番の時に急に楽器を鳴らしたらどうしよう」と思ったが、意外と言うことを聞いてくれるな、と。前回にも増して、「止めて」と言えばすぐ止めてくれたり、「ここは下がって」と言えばすぐ下がってくれたり、何でこんなに急にできるんだろう、という感じでした。
渡辺:やっぱりお客さんのためにやっているという意識があるんですよね。
豊田:ライトが当たっている時はちゃんと自分が出ている感覚があって、袖にいる時は引っ込んでいる感覚があって、意識があるのを感じて、すごいなあと思いました。何でそれができるんだろう、ということを考えた時に、やっぱり「みんなでつくっている」という意識が一人ひとりあるのかな、それが良いなと思いました。個人的には、最後の(観客から)感想を聞く質問タイムがとても良くて、(子どもからの)指名制で(観客に)一人ずつ聞いていくのは良いなと思いました。
渡辺:恒例になってるんですよね。お客さんもドキドキして。
豊田:普通の舞台ではあまりないじゃないですか。アンケートにひっそり書くみたいなことだと思うんですけど、ちゃんと直接やり取りしてたのが良いなと思います。
中西:見守ってくれる方が本当にあったかいので、反応がすぐ返ってくるというのは子どもたちにとって何よりのご褒美になる気がします。
◆これからを考える
-伴走支援をしてくださったNPO法人まちぽっとの方の感想や、これからも活動を続けていくための、皆さんからのメッセージをお願いします。
金和代さん/NPO法人まちぽっと(以下、金):アーティストの皆さんの苦労があっての今日だったことが、改めて分かりました。発表に3回参加させてもらって、今日もリハーサルから見させてもらって、本番になると声が大きくなるとか、私からすると信じられない。緊張が増して声が小さくなるのが本番じゃないの、と思うけど、むしろ堂々としていました。親御さんの向けていたカメラを見て、ピッと立ち直してみるなどすごく堂々としていて、今年だけじゃなく去年も1年目も思いましたけど、そういうことにちょっと感動してしまう時間でした。さっき帰り際に、中村さんに音楽チームの2人がお礼のメッセージカードを渡しているのを見ちゃいまして、わざわざカードを書くって、よっぽどその時間が良かったんだな、と思いました。今日の発表のためだけじゃなくて、ワークショップがあったことが、参加していた子どもたちにとっては素敵な時間だったことが、その場面を偶然見かけてですけど、良かったなあと。ワークショップを通じて、WAKUWAKUスタッフの方の送迎もですけど、家族と学校以外でも大人と、大人に限らなくても良いんですけど他の人たちとふれあう機会が一つでも多いと、何かあった時に頼れる人と場所の選択肢が一つ増えるんだな、ということも改めて感じながら見させてもらいました。何かしら、来年以降も続いて欲しいなと希望も持ちながら、お手伝いできる機会があれば良いなと思っています。
小林幸治さん/NPO法人まちぽっと(以下、小林):一つだけ質問させてください。演劇だけを3年間やるのと、ダンスや音楽と一緒にやることは何か違いがありましたか。
渡辺:演劇だけをやっていた時は、この中だけでコンセンサスが取れていれば何とかなっていたけれども、でもダンスや音楽と一緒にやるから、「自分がこうしたい」だけじゃなくて、子どもたちももちろん、他のアーティストも含めて、みんながやって楽しいと思えることをどうやったら一緒になってできるかな、という考えでやれたことが今年、やっぱり違いましたね。
酒井:一つだと、若干トップダウンな感じはあるが、それがばらけると緩やかになるというか、少しそれぞれに任せられるところがある。
中西:もちろんそれぞれのグループでバラバラにやってても良いと言えば良いことなんですけど、つながりという意味で、ちょっと世界が広がるというか、点と点がちょっとつながる。そのつながり方と広がり方が、どこまでが良いのか、さらに違う演劇やダンスのグループが10グループとかあって合体すると、それは良いことなのか、という疑問も出てくるかもしれません。
今日渡辺さんが最後に、「こんなに大きなファミリーになりました」と言ってくれた時に、今の世の中だと、一つ一つの家庭だけだといろんなことが大変だけど、血のつながりじゃなくて、こういう一つの家族のようなつながりがあることの大切さを感じました。それがどのくらいの規模でどんなペースが良いのか、回数や場所のエリアなど、どこまでつながっていくのか、丁度良いのはどこなのかな、と考えます。交流するにしても最初は別々の時間があったのも良かったのかなと思うし、それぞれでやっていたことが、このくらいの規模で最後に一緒になる良さもあったのかなと、振り返ってみると思います。
栗林:ネパールの子たちを演劇に誘うのは、言葉の壁があるから、言っている意味も分からないしつまらないかもしれない。でもやっぱりダンスチームは、身体で表現する場だからこそまた来たくなるし、そこで別の子と出会って、ネパールの音楽に合わせてダンスするなど自分らしくいられて、そういうのが最後調和していくからこそ、今日の発表になったのかなと思います。なので、最初から場をつくってそこに、じゃなくて、その子が参加するためには「ダンス」の方がいいんじゃないかとか、そういう設えが今日の場なのかなと思いました。
小川:今日参加した子たちが、2年目3年目と参加できれば良いなと思う反面、来年度は中学3年生で受験生なのと、引っ越しになるかもしれないので、継続は難しいかもしれません。でも、他の子たちに慣れてもっと緊張感がほどけていくと、お子さん同士の関わりにも入れただろうなと思うと、今はちょっと残念な気持ちです。
それから、いつも学校の授業参観などは土曜日で、お母さんは仕事で見に行けないので、今日は娘さんたちの発表を見られる機会というのが珍しかったので、きっと喜ばれたと思います。
石平:場がうんと大きくなるというよりは、まだ出会ってない子たちにこの機会を提供したいという気持ちもあるし、ここまで積み上げてきた子たちがさらにという気持ちもあります。どういう形が良いのかは、はっきりとは分からないんですけれど、町にこうして芸術にふれる機会があるというのは本当に大きなことだと思うので、形が残っていって欲しいなと思います。身近に無くて、ちょっと高尚なものと感じてしまう演劇とかを、そういうものではなくて、自分が参加して表現できるんだということを伝えてもらっていると思うので、身近で学校以外に、しかも無料で参加できる機会はなかなか無いことなので、在り続けてほしいというのは、とにかく思うところです。
中村:まず枠組みとして、何かを達成しなきゃいけないと思わずに開催できていること、その企画の空気づくりがとても助けられました。純粋に、今回だったら彼女らとの場をいただいただけで、そこから何をするかを自由に決めていけたのはすごくありがたかった。この発表会で何かすごいことをしよう、ということになってくると、子どもも大人もきっと辛くなってくる。それが良い意味でふんわりしていたのが、最初すごく良かったなと思います。きっとこの先も、発表の場はあるとは思うんですけれど、発表に向かうぞという空気が無いところからやることは継続していけると良いんじゃないかな、と今日も話を聞いてて思いました。
想像でしかないけど、「このワークショップはいつから始まっているんだろうか」というダンスチームの空気感をすごく良いなと、参考にしたいと思いました(笑)。音楽チームは、ちょびっとレッスン寄りの空気にはなっていたので。僕の方はやっぱり伝えたい、得て欲しい、という想いがどうしても先行してしまうシーンは何度もあったので、自分自身のことだけど、もし次があったら、そこはもっともっと遊びだったり、開いていけるかなと思います。
中西:発表をつくらなきゃいけないと思わせ過ぎると、習い事みたいになって子どもたちが来るのが嫌になっても困る。それでも、何かをやりたい気持ちや、楽器を学びたいとかの気持ちが無いわけじゃない。何もしたくないわけじゃない子たちに、丁度良いところで、何かをしたいという気持ちになって、少ししんどいこともあるけど、ちょっと発表頑張ってみようかな、と思えるくらいの背中を押してあげたいけど、押しつけにならない程度がどこまでなのかが難しいなと思います。
酒井:今年は、途中から参加する子も多かったけど、継続してた子たちが参加しやすい構成になっていたので、新しい子たちにも、何をしたいかなどもうちょっと対応してやれたら良いなというのと、もうちょっと音楽チームみたいに「みんなで一緒に集中するぞ」みたいなこともやってみたいんですけどね。
渡辺:演劇は、ワークショップの最後の5分でハンカチ落としをすることをすごく楽しみにしている子とかもいて、そのために頑張っている子もいる。そういうことも含めて、学校じゃないから、たまにしか会わないからこそ、そういう時間もすごい大事だったなあと思っている。そこでコミュニケーションを取ったり、いろんな時間があって良かったかな。
栗林:あんなに真剣にハンカチ落としをしてくれる大人は、多分ここにしかいない。本当に楽しそうです。あそこまで向き合ってくれることがすごい。
渡辺:もちろん私たちも楽しいんです。これからに向けてですけど、人数が多くなるとその分、個別に接する時間がどうしても短くなってしまいます。今日も、実はあの子とあんまり話してなかったな、ということもあります。なので少人数の時間もあっても良いなと思いつつ、ダンスも音楽とももうちょっと回数を重ねていろんなやり取りをする時間も取りたいです。演劇だけが楽しいわけでもないし、お互いにこれもやってみたい、というのがもっと広がると、最後見てもらう時にも、もうちょっと違うこともできるのかなとも思います。
小林:休眠預金の助成金は3年間の活動として自己評価をしてくださいというのが特徴になっています。今日のお話の中で、一つは、子どもたちの変化を感じています。参加された、見に来た家族の方の変化を聞けたのもすごい成果だと思います。もう一つ、アーティストの方々がワークショップをやる中で変化してきたことも、とても大きなことだなと思います。これを上手く表現できると、その必要性が分かりやすく伝えられる材料になって、多くの人に共感してもらって「必要だね」と言ってもらえるのではないかと思います。
休眠預金は残念ながら3年間の支援で終わってしまうが、来年3月以降もまちぽっと自身はなくならないので、いろんな形で応援できればと思っていますので、ぜひ続けていただきたいです。
この事業を始める前は、子どもたちにどんなニーズがあるのか、ワークショップのような場が必要とされるのだろうか、そしてどんな時間になっていくのだろうか、と未来が見えていないことも多く、手探りでスタートしたことを懐かしく思い返します。アーティストが言っていたように、子どもたちが思っていたような反応ではなく「これは大変だ」と思った瞬間もあった気がしますが、回を重ねるごとに集合時刻より早く集まるようになった子や、発表を重ねる度に思わぬ姿を見せてくれた子どもたちと一緒に過ごした時間は、段々と居心地の良いものになっていきました。出会った人、つながった人たちと0からこうした場をつくれたこと、子どもたちやアーティスト、そしていつもあたたかく見守り活動を支えてくれたWAKUWAKUネットワークやまちぽっと、関係者の皆々様に心よりお礼申し上げます。
記録・編集・写真:NPO法人芸術家と子どもたち
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