今回は、都内公立小学校の特別支援学級、1~6年生の子どもたち35人と取り組んだ、関根真理さん(パーカッショニスト)とのワークショップをご紹介します。

1限目からのワークショップ。教室に次々と運び込まれる見たことのない楽器の数々に、登校した子どもたちは(先生方も)興味津々!早く触りたくてたまらない様子で、朝の支度をしていました。

教室に子どもたちが集まると、廊下から楽しいリズムが聴こえてきて…太鼓を演奏しながら、まりちょふ(関根真理さん)と、うっしー(西川郷子さん)、うりちゃん(URIさん)の登場です!目の前で繰り広げられるパフォーマンスに、思わず身体が動いてしまう子や声をかけてくれる子、びっくりして固まってしまう子など、色々な反応をしてくれました。

自己紹介と楽器紹介をした後、子どもたちも全員、太鼓の演奏に挑戦!思いっきり叩いてみたり、波のように順番に叩いてみたり、関根さんの手の動きに合わせて強弱を変えてみたり…。

太鼓の演奏に慣れてきたら、今度はリズムに合わせて叩くことにチャレンジ。子どもたちから出てきた「好きなもの」の言葉を使って、関根さんがリズムを作ります。

「京浜東北線・かっこいいな♪」「ラーメン・ラーメン・食べたいな♪」「麻婆豆腐・麻婆豆腐・辛くて美味しいよ♪」などなど…子どもたちも積極的に手をあげて、リズムづくりを楽しんでくれました。リズムに合わせて叩くと、身体も勝手に踊り出し、教室の中はお祭りのような賑わいでした。

最後は体育館に移動して、学習発表会に向けた音楽づくりです。絵本「はらぺこあおむし」の音楽劇を発表する予定の子どもたちは、「星空チーム」と「蝶チーム」に分かれて、それぞれ「星空」や「蝶」をイメージする楽器を探します。

真っ先にお気に入りの楽器を見つけて鳴らしている子、一つ一つの音を確かめながらゆっくりと吟味する子、アーティストや先生に相談しながら考える子など、それぞれのペースで「イメージに合う音」を探していました。

「なんでこの楽器を選んだの?」と尋ねると、「始まりの音だと思ったから!」「夜の風景の音に感じた」など、それぞれがしっかり考え、感じながら楽器を選んでいる様子が伺えました。なかには、大きな鈴を両手に持って、蝶のように羽ばたきながら演奏したり、夜の眠たい様子を身体で表現しながら演奏するなど、情景を演出するための様々な工夫も…!最後は、それぞれのチームが演奏を発表し、学習発表会に向けての気持ちを高めたワークショップでした。

あっという間の3時間。様々な楽器にふれ、力強い音となって響く子どもたちのエネルギーを、全身で感じられたワークショップとなりました。朝早くから、楽器の搬入・搬出・準備にご協力くださった先生方、本当にありがとうございました!この場を借りて改めてお礼を申し上げます。

芸術家と子どもたちでは、2021年度からの3年間、BNPパリバ財団の芸術教育支援プログラム「Dream Up」の支援を受けて、児童養護施設と障害児入所施設でのワークショップを実施しています。今回のブログでは、2021年度の活動をご紹介します。

「Dream Up」は、芸術教育を通じて世界の子どもたちを支援する社会貢献活動で、社会的に不利な状況にある子どもたちに、才能開花の機会を提供するために、世界30か国で展開されています。

今回のプロジェクトでは、社会的養護の下にある子どもたちや、障害のある子どもたちが、ダンスや音楽、演劇などの表現活動を通じて、他者とのふれあいや、自他の表現を認め合う経験を重ねながら、それぞれがやりたいことを見つけ尊重し、その力を伸ばすことをサポートします。そして、彼らの傷ついた心を回復し、自分や人を信じる力、人と関わる力を育てることで、彼らの自立を支援することを目的として始めました。

◎2021年度実施概要

児童養護施設×棚川寛子      
参加した子どもたち2施設(交流) 年中~中学3年生、施設退所者 18人
アーティスト棚川寛子(舞台音楽家)
アシスタント・アーティスト井上貴子(俳優)、加藤幸夫(俳優)、佐藤円(俳優)
ワークショップ実施日➀10/9 ②11/27 ③12/5 ➃12/26 ⑤1/9 ➅3/12 ⑦4/4 ⑧4/5
障害児入所施設×新井英夫     
参加した子どもたち小学5年生~高校3年生 12名
アーティスト新井英夫(体奏家・ダンスアーティスト)
アシスタント・アーティスト板坂記代子(ダンサー)、はしむかいゆうき(演奏家)
ワークショップ実施日日➀11/20 ②12/12 ③1/7 ➃1/30 ⑤2/23 ➅5/8       

・児童養護施設でのワークショップ

舞台音楽家・棚川寛子さんたちと、2つの児童養護施設の子どもたちが交流するワークショップを実施しました。2回目のワークショップでは、BNPパリバ社員の方から、BNPパリバの紹介や、SDGsのレクチャーをしていただきました。レクチャーの前には、英語のゲームで楽しく身体を動かして、子どもたちはその後のSDGsのお話を集中して聞いていました。丁度学校で勉強したばかりの子もいて、身近に感じることもあったようです。

そして、レクチャーで聞いたお話を元に、アーティストの棚川寛子さんたちとオリジナルの物語を一緒に創作しました。「自然」「環境」「貧困」などのキーワードから出てきたアイデアを、一つずつつなげて物語にしていきました。台本はありませんでしたが、子どもたち自身が想像力を働かせ、自分たちで言いたい台詞や動き、なりたい役を考えてシーンをつくっていきました。

<子どもたちが考えたアイデア>

・海の王国-海が汚れて、食べる物がなくなり困っている。

・飢餓を無くすためにコロッケ屋さんをやりたい。

・目が見えなくて困っている「白杖の女の子」の役をやりたい。

・小さい子がいじめられているのを助けたい。差別を無くそう。

・森を守る妖精になりたい。

・エコカーをつくりたい。

・訪問医療チーム(KISA2隊)になりたい。

また、衣装や美術は、Dream UpのTシャツにペイントをしたり、段ボールや不要になったカーテンや端切れなどの廃材を活用して船や車をつくったり、子どもたちと手づくりしました。こうして回を重ねて少しずつ形にしながら『海の王国とひそむ影』というオリジナルの物語を創作し、最終回には施設内職員の方に向けて発表会を行いました。

・障害児入所施設でのワークショップ

体奏家・ダンスアーティストの新井英夫さんたちと、zoomを使ったオンラインでのワークショップを重ねました。 オンラインということもあり、子どもたちの特性に合わせて、少人数の3グループに分けて実施。身体遊びや音遊びを通して、人と関わりながら、一人ひとりの興味・関心に寄り添い、オンラインならではの、映像の効果も楽しみながら取り組みました。

衣装は、Dream UpのTシャツを、学園にある自然素材や廃材を活用してペイントしました。いろんな形の枝や葉っぱ、輪ゴムや梱包材のプチプチなどを使って、スタンプのように使ってペイントしました。

最後の日は、衣装のTシャツを着てグループごとに映像を録画。後日施設内の職員や子どもたちが鑑賞できるようにしました。ファッションショーのつもりで、つくったTシャツを衣装に、それぞれが即興で自由に踊りを披露しました。物語が好きな男の子は、目をいろんな物に貼り付けて、見立てで遊びながら、アーティストと即興のお話をつくりました。

この二つのプロジェクトを通して、BNPパリバのCSR担当社員の方とミーティングを重ね、実際にワークショップにも何度も足を運んでいただきました。残念ながら、新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響を受けて、発表会に多くのBNPパリバグループの方をお招きすることは叶いませんでしたが、発表後には社員ボランティアの方々から手づくりのプレゼントをいただき、子どもたちもとても喜んでいました。

また、後日、社員の方には映像で発表をご覧いただけるようにするとともに、ランチタイムを活用した1時間程度のオンライン・セッションを設けてくださり、施設職員と事務局スタッフで、それぞれの施設の現状と課題や事業報告をさせていただきました。100人ほどの社員の方が視聴してくださったということで、

「活動や発表の様子を拝見できて、感動しました。」

「心健やかに育ってほしいきもちでいっぱいです。」

「自分の子どもの環境が、当たり前ではないということに、改めて気づかされました。」

などの感想をいただき、私たち事務局スタッフにとっても学びとなる貴重な機会でした。

児童福祉施設での取り組みは、様々な事情から広く広報することが難しいのですが、こうした形で企業の方が一緒に事業に取り組んでくださることは大きな励みになりました。この場を借りて改めてお礼を申し上げます。

今年度のパフォーマンスキッズ・トーキョーの幕開けは『カラフル☆ファンファーレ』

振付家・ダンサーの田畑真希さんと都内小学校の特別支援学級に8日間通い、1年生から6年生までの31名の子どもたちと運動会での発表を目指して、ダンスパフォーマンスの創作を行いました。

ワークショップの初日から子どもたちは圧倒的に元気で自由!
ワークで使おうと田畑さんが持ち込んだカラフルな風船を投げ合ったり、手ではじいて遊んだり、教室内を走り回ったり・・・。経験豊富な田畑さんも「これは大変だぞ・・・」と目眩がするような思いだったそうです(笑)
田畑さんはもちろん、先生方も私(コーディネーター)も運動会で発表することを目標にしているのですから、それはそうなのです。でも考えてみればそれ自体が大人の思惑。子どもたちにとってみれば、今この瞬間に目を奪われるもの、やりたいことがあるのは当たり前です。

そこで田畑さん、2回目から作戦を変更!
出来る限り少人数のグループにわけてワークショップを実施し、膝を突き合わせて話し、様々なワークを彼らにぶつけてみるなかで、子どもたち一人ひとりの興味や彼らがイキイキと動く瞬間を、辛抱強く発見していって下さいました。
そうやって時間をかけて、みんなで創ったパフォーマンスのタイトルは『カラフル☆ファンファーレ』。

運動会当日は、前日の雨が嘘のような五月晴れ!

一列に並んで、パフォーマンス開始の合図のファンファーレを待つ子どもたち(大人たちも)の勇姿。

初めて学級の全員がそろってポーズをとる姿に、感動しました!!(涙)

グループダンスのトップをがざるのは、女の子チームのパフォーマンス。

全部自分たちで考え、相談して振りをつくり、「自主練したいです」と先生にお願いして時間をつくり、「それぞれの色の布を持って踊りたいです」とやっぱり先生にお願いして小道具をつくり・・・・・

「私たちの輪の中で、踊ってください」とお願いされた田畑さんは、「このタイミングで出てきて、ここでいなくなってください」と、しっかり演出されていました(笑)

でも、色々お願いされた先生も、田畑さんも、とっても嬉しそうでした!!

そして、男の子たちのグループのダンス

担任の先生や田畑さん、アシスタントで入って下さったダンサーの鈴木さん、澁谷さんと一緒に踊りました。

闘いのダンスを披露する子、得意の側転を披露する子、なかには日本人離れしたリズム感で踊る子もいて、観客の喝采を浴びていました!

最後はみんなで「どんな色が好き?」のダンス。

これが唯一、みんなで一緒の振りを踊るダンスです。
全員揃って踊っている姿に感動・・・・本番に強いと聞いてはいたけど・・・大人はハラハラしたよ。
ちなみに、田畑さんが着ているTシャツと同じものを、みんなも着ています。色んな形のスタンプを押して作りました。

フィナーレはみんなでポーズ。カラフルな紙テープが花を添えてくれます。

紙テープを担当してくれたのは、女の子たち。

「私がこっちに走るから、あっちに走ってね!」などと、入念に打合せしてました。
先生は、「相手の気持ちを汲み、協力して取り組む彼女たちの姿に、大きな成長を感じた」と目頭を熱くされていました。

こうして、今年度のパフォーマンスキッズ・トーキョーは賑やかに、カラフルなファンファーレとともに幕をあけたのでした!

最後になりますが、田畑さんが当日パンフレットに寄せて下さったメッセージをお届けします。

「はじめて子どもたちと出会った日、それはそれは賑やかでした。

元気いっぱい走り、風船で遊び、机の上からジャンプ!

じっと様子を見ている子、溌剌とした身体で楽しそうに真似っこダンスをしてくれる子、

即興的に美しいダンスを踊る子・・・・目眩がしそうなほどカオスな時間でした。

「これは大変だぞ・・・」が、初日の正直な感想でした。とにかく、本番である運動会まで時間がない!!

作品の大まかな構成を用意していましたが、どうやら全員で決まった踊りは出来そうにないぞ・・・と、頭を抱えた初日でした。

2回目から作戦変更。子どもたちも少し馴れてきて、どんなダンスにしようか?とお話することが出来ました。すると、子どもたちから色々なアイデアや、面白いダンスが浮かんできました。

「そうか!!子どもたち一人一人が素敵なダンスを創り、踊ることができるじゃないか!!」

知らぬ間に、型に嵌めたダンスを押し付けようとしていたのかもしれないなぁ、と反省しました。子どもたちの鮮やかな身体に感動しました。

カオスだと思っていた時間は、カラフルに彩られた尊い時間になりました。

子どもたちとの出会いは、私にとって今後の活動に変化をもたらす出会いになったような気がします。

みんな、ありがとう!!また一緒に踊ろうね♪

                           まきまっちょ 田畑真希

小学6年生の子どもたちと取り組んだ、浅見俊哉さん(写真作家・造形ワークショップデザイナー)とのワークショップをご紹介します。

自分なりの表現方法を見つけて、のびのびと表現できる機会をつくりたい。そして、手を動かしながら何かを発見していく面白さを味わうような体験をしたい、という先生からのリクエスト。アーティストに出会い「こんな表現方法もあるんだ」と知ることができれば、という想いも受けて、フォトグラムという手法を使った作品で各地で活躍されている浅見俊哉さんと『影をつかまえる』ワークショップを行いました。

授業の始まりは、浅見さんの自己紹介から。浅見さんの好きなものの話から、影を見るのが好きだったということや、作品の紹介もしてくださいました。そして、今日は「カメラを使わない写真=フォトグラム」をつくることを説明して、最初はジアゾタイプと言う手法での撮影です。室内の光でも感光する用紙を使い、それぞれが自由に選んだモノを使って1枚目の撮影へ。

 

 

 

 

 

 

子どもたちは、「影を撮影する」ということがなかなか実感できない様子で、少しキョトンとしながらモノを並べている子もいました。しかし、熱=アイロンで現像した瞬間、影が浮かびあがる様子に目の色が変わる子どもたち。仕組みが分かると、次はどうしたいかをどんどん考えて、2枚目の撮影へと進みました。1枚目の時より、モノの配置をじっくり考えて、影を机に写して試してみたり、組み合わせて形をつくったり、一人ひとりの発想が広がっていきました。

 

 

 

 

 

 

そして、まだまだ「やってみたい」という気持ちを抱えて、3枚目の撮影へ。最後は、サイアノタイプという手法で、より大きな紙に、自然光で露光する方法です。外では風という天敵がありますが、用紙やモノが飛んでいかないように工夫もして、中には手や顔の影を撮影しようと奮闘している子どもたちもいました。あいにく曇り空の時間もあったので、露光には10分間ほど時間がかかりましたが、待っている間も校庭で紙の色が次第に変わっていく様子を眺めながら、じっくりゆっくり影を写していきました。

 

 

 

 

 

 

最後は、みんなの作品を展示して観賞会。同じモノでも組み合わせ方や見立てが違っていて、一人ひとりのこだわりも感じられる作品が出来上がりました。海の世界をイメージしたり、上靴を使って不思議な生き物のような形をつくったり、露光の途中でモノを動かして残像を活かしたり、想い想いの影をつかまえることができたように思います。

 

 

 

 

 

 

 

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浅見 俊哉(あさみ しゅんや)/写真作家・造形ワークショップデザイナー
https://www.children-art.net/asami_syunya/

小学6年生2クラス48人の子どもたちと取り組んだ、青山健一さん(美術家)とのワークショップをご紹介します。

身の回りにある世界なら想像できるが、アーティストと出会うことで、「こんな世界もあるんだ!」と気づけるような機会をつくりたい、という先生からのリクエスト。アーティストという存在との出会いを大事にしたいとの想いを受けて、既存のギャラリーのみならず、劇場やライブハウスでも多彩な活動を展開中の美術家・青山健一さんと、絵を描くことに向き合う時間をつくりました。

まず初めは、青山さんの自己紹介から。体育館を暗くして5分ほどの映像作品を観る時間もつくりました。暗闇の中でじっと画面を見つめ、子どもたちの集中力が高まるのが感じられました。そのまま暗い中で「暗い体育館って良くないですか?」という青山さんの投げかけから、今日は「洞窟にいる一匹の長い謎の生き物」を描こうという話につなげていきました。謎の生き物なので、どんな形や色になっても良いけれど、一人一匹描くのではなく、「みんなで一匹」というところがポイントとなりました。

その後は、体育館の端から端まで敷かれた25mの真っ白な養生シートに、一人一色の絵具と一本の刷毛を持って、早速描いていきました。何を描いていいのか躊躇する子もいれば、何のためらいもなくどんどん筆を進めていく子もいます。そして描かれていく線や形にお互いが刺激を向けて、いつの間にかシートに乗って手や足が絵具だらけになる子もどんどん増えていきました。

一旦描き始めてからの子どもたちの勢いはすさまじく、5分、10分もすればあっと言う間に画面が埋まっていました。そこで一旦電気を付け、2階のギャラリーに上がって、全体像がどうなっているのかを見る時間を設けました。青山さんから「生き物に見えるかな?」と投げかけられると、それぞれに感じたところがある様子の子どもたち。勢いで描くことから、少し考えて、色やつなげ方の工夫、全体で一匹の生き物にするにはどうすれば良いか、一歩踏み込んで考えてから続きを描いていきました。


子どもたちは、反対色を重ねることや、輪郭や一本の長い線を使うこと、顔を創ってみることなど、お互いが描いているものを意識しながら描くようになりました。ただ勢いに任せるだけではなく、最初よりも少し落ち着いた雰囲気で、あちらこちらで相談し合う声が増え、綺麗なイメージになっているところは、それ以上手を加えないようにするなどの判断をしているところもありました。途中、青山さんが端から端まで絵の細部を投影して壁に写し、面白いポイントを伝えていく時間も取りながら、次第に全体で一つの絵として感じられるようになっていきました。

そして、最後は再びギャラリーに上がって明るい中で絵を眺めました。1回目に見た時とはまた違って、とても迫力のある謎の生き物が浮かび上がっていました。
自由に想いのままに描くことと、少し考えて絵に向き合うことと、その両方を経て生まれた大作に、アーティストもスタッフも清々しいエネルギーをもらい、感心しきりの一日になりました。

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青山 健一(あおやま けんいち)/美術家
https://www.children-art.net/aoyama_kenichi/

小学6年生2クラス62人の子どもたちと取り組んだ、中山晃子さん(美術家)のワークショップをご紹介します。
完成させることや何かに縛られてつくるのではなく、その場で立ち上がってくるモノやコトを楽しみ「アートってすごい」と感じられるような場や、アーティストとの出会いをつくりたい、という先生からのリクエスト。
「なぜ絵は乾いてしまうのだろう」という疑問から、様々な絵具や素材が相互に反応し変容し続ける姿を”Alive Painting”として描く中山晃子さんと、各クラス90分間のワークショップを行いました。まるで生き物のように動き続ける液体、絵と音が呼応していく時間の流れ、変容するモノとコトをつくり出し眺める時間から、子どもたちは何を感じたのでしょうか。
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真っ暗な体育館に入ったら、早速中山さんのパフォーマンスが始まります。挨拶も説明もないのでスクリーンの謎の映像を見て「何これ?」など小声で話す子どもたち。しかし、音が鳴り始め、映し出された絵が動き始めると、あっという間に集中していきました。何がどうなっているのか気になって、中山さんの方を覗き込もうとする子もちらほら。15分ほど経ったところでパフォーマンスを中断し、中山さんが簡単な自己紹介と、作品がどうやって描かれているのかを説明しました。
その後は、再びパフォーマンスを見る時間。でも、今度は「座っていなくても良いから好きな場所でどうぞ」と中山さん。その途端に中山さんの真横に陣取ったり、並べられた絵具の周りに集まったり、それぞれが興味の赴く場所で絵を眺めていました。
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子どもたちの中にもいろいろな想いが湧いてきたところで体育館を明るくして、改めてどんな道具があるのか、子どもたちの質問も受付けながら機材の仕組みや材料の説明をしました。普段見慣れない形の瓶もあり、外側を見るだけでは何が入っているのか分からないものも。「ここにあるのは、何かアクションを起こすと何かを起こすもの」と中山さん。いわゆる絵具だけではなく、粉や墨汁、油なども用意されていて、子どもたちは「これ何だろう?」と気になるものをどんどん手に取ったり、質問をしたりしながら、自分たちで描く時に使いたいものを選んでいきました。
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後半は、選んだ絵具などを使い「一筆入魂」ということで、一人一筆(もしくは一振り)ずつ絵を描いていきました。それぞれの材料の特性によって画面上に様々な反応が生まれ、前の人が描いた跡を意識しながら描く子や、自分の気持ちで思い切って筆を動かす子、それぞれのやり方で描いていきました。事前にスタッフが予想していたよりも、子どもたちは迷いなく、でもそれぞれの想いを乗せて、一筆一筆色を置いていました。子どもたちは、画面で起こる変化や反応に「おお!」「きれ~い」と時折感嘆の声も挙げながら、どんどん絵を描いていきました。
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一通り体験した後は、次に何がしたいか子どもたちに委ねました。絵具に興味がある子は2つめの絵具を選んで続きを描き、それ以外にも好きなやり方で絵に関わっていきます。スクリーンの裏側に回ってただただ眺めている子、スクリーンの前に身体の影を映してみる子、タブレット端末を使って写真を撮る子など。また、途中で音の仕組みの説明もしました。絵を描いている間に流れる音楽は、既存の楽曲だけでなく、その場で加工したり、作業の音を拾ったりしてつくられているのです。普段の声を拾うマイクではなくて、作業をしている手元の音を拾うマイクや、その音にエフェクトをかけて時間を遅らせて再生できる機械の説明なども。音に興味を持った男の子たちは、機会をいろいろさわって試しながら、まるでジャングルのような音風景をつくり出していました。
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思い思いの時を過ごしたワークショップの中で、中山さんは絵具についても丁寧に話をしました。長い年月をかけてつくられる鉱物や宝石からできている絵具は、人間が加工したものでもあるけれど、生き物であり「バサッと出した時に、その絵具の山は人間のたくさんの文化の中で実はできていたものなんです」と。「この(絵具の)山が一体何年かけてつくられているものなのか。一体、いくら分のモノが、ここに、あるのか。でも何で線を描くのか」と子どもたちに問いかけました。
振返りでは、先生から「ここを見なさい」という大人の指示ではなく、子どもたちそれぞれの見方が広がっていたとの感想をいただきました。中山さんとの出会いを通して、一人ひとりの中に、ザワザワとした何かが、少しでも生まれていたら良いなと思います。動き出していないように見えた子たちの中には何が起こっていたのかな、と想像を膨らませつつ、何かを感じて動き始める気持ちをじっくり、ゆっくり待つ楽しさを思い返しています。
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中山 晃子(なかやま あきこ)/美術家
https://www.children-art.net/nakayama_akiko/

5歳児クラス12人の子どもたちと、東山佳永さん(踊り手・美術家)のワークショップをご紹介します。みんなで一つのイメージを共有して、豊かな表現に出会う機会にしたい、という先生からのリクエスト。この園では、5歳児クラスだけがお昼寝をしない「ひみつの時間」という設定があり、その時間の中でアーティストと出会い、普段できないような体験をしてみたい、とのこと。普段の生活の様子でサーカス小屋をつくった子の話や、みんなおばけが好きということも伺ったので、『おばけサーカス』(作・絵:佐野洋子)という絵本をモチーフにワークショップの内容を組み立てました。アシスタントに音響デザイナーの白石和也さんもお迎えして、世界にたった一つのサーカス団をつくりました。

1日目は、アーティストによる『おばけサーカス』の朗読からスタート。物語に登場するおばけのサーカス団が披露する芸は「虹の橋を渡る」「森の中でヴァイオリンを弾く」など、想像を掻き立てる描写がたくさん詰まった絵本です。
朗読の後「うたと、おどりと、おえかきと、いろんなものを使って物語の中に入っていきます」と子どもたちに伝え、アーティストによるサーカスの芸を披露しました。アーティスト自身が描いた絵を背景に、踊りと音楽で芸を表現してみると、子どもたちは静かに見入っていました。
そしていよいよ、みんなでおばけのサーカスになる時間です。まず初めに「ひ・ひ・ひみつのサーカス団♪」というオリジナルの歌を練習してから、おばけになるためのストレッチ。身体のいろんな部分を伸ばしてほぐしてやわらかくして、身体の準備も整え、歌に合わせた振付も練習しました。
その後は、サーカス団の秘密の作戦会議。一人ひとりがどんな芸を披露したいか、得意なことや、どんな風景が思い浮かぶかということをヒントにアーティストと一緒に考えました。顔を後ろにするのが得意だから「さかさまの国」、「全部がへんてこな国」、「片足が得意」など子どもたちのアイデアを一つずつ拾いながら12人それぞれの芸を相談しました。

何を披露するか決まった後は、一人一枚ずつの布に芸のイメージを描いていきました。クレヨンや絵具、布を貼るなど、どんな風に描いても良く、いろんなものを使って好きなように描いていきました。最初は、自分より大きな真っ白の布を前にして、何から始めて良いか戸惑っている様子でした。でも、一人、また一人と描き始めると、あっという間にみんなどんどん手が動き出します。そのうち、手や足で描く面白さに気付く子も現れ、周りの子がどんな風に描いているかも参考にしながら、夜空の情景や、コウモリのいる洞窟、リンゴの木のある山の風景など、12枚の素敵な風景が完成しました。

最後に「上から見るときれいだよ!」と言ってくれた子がいて、みんなの描いた絵を眺めつつ、アーティストがその絵の中でみんなが考えた芸をヒントに少し踊ってみました。次回はみんなに芸を見せてもらうよ、と予告をして1日目の活動を終えました。
一週間後に迎えた2日目、この日はいよいよサーカスの始まりです。まずは準備運動で体をほぐし、前回覚えた「ひみつのサーカス団」の歌と踊りを思い出したら、早速サーカスの芸の練習です。描いた絵を被っておばけになって踊った後に、一人ひとりの芸を披露しました。芸のイメージを元にアーティストがつくった12人それぞれのテーマ曲に合わせて、山々をジャンプして飛び越えていく芸、ひっくり返ってさかさまの国を表現する芸、一番怖いおばけになって見ている友だちを驚かせる芸、星空を綱渡りする芸、ウサギやライオンに変身する芸など、色とりどりの芸が出そろいました。

さて、サーカス芸の練習が終わったら、次はサーカス小屋が必要です。子どもも大人もみんなで協力して、描いた絵を一つにつなげてサーカス小屋を組み立てました。平らな布が立体的に立ち上がっていく様子も楽しんで見守り、出来上がった時には中に入りたい気持ちが抑えきれない様子の子どもたち。「ひみつのサーカス団」を歌いながら入ったら、しばらくは好きにテントを眺めたり、いつの間にか走り回ったり、テントそのものとふれ合う時間を過ごしました。

そのうち、本を読みたいという子が出てきて、ここでもう一度『おばけサーカス』を朗読しました。でも、今度はお話の中に、12人それぞれの芸の話も織り交ぜてオリジナルの物語になっていました。
そしていよいよ、サーカスのはじまりはじまり。部屋の電気を消して懐中電灯の光だけにし、テントの中という特別な空間で、最初の練習よりも思い切って披露できたように思います。サーカスの最後は、12人みんなでリーダーの真似をするダンス。友だちが考えた動きをみんなで一緒に踊って、サーカスはおしまい。

アーティストから「うたでも、おどりでも、絵でも、何でもいいんだ。何か自分の得意なことを見つけて磨いてみてください。きっときれいになると思います」という挨拶と、みんなの音楽をCDでプレゼントして2日間のワークショップを終えました。
先生との振り返りでは、イメージがあることで動きも広がり、思ったより自己表現ができていた、絵からもイメージをつなげて表現していた、という感想や、「ひみつの時間」に自分たちでつくった特別な「ひみつのサーカス」のことを、人に話したい気持ちと秘密にしたいという気持ちの間で葛藤するのでは、というお話を伺いました。『おばけサーカス』の世界観を共有しながら、その中で一人ずついろんな表現を見せてくれた子どもたち。これから何でもできる可能性を秘めた子どもたちの中に、みんなでつくった「ひみつ」がいつまでも潜んでいられると良いなと思います。
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東山 佳永(とうやま かえ)/踊り手・美術家
https://www.children-art.net/touyamakae/

芸術家と子どもたちでは、小学校や保育園だけではなく、児童養護施設でのワークショップも実施しています。今回は、平成26年度に公益財団法人JKA「RING! RING! プロジェクト」の補助を受けて実施した取り組みをご紹介します。
児童養護施設のワークショップでは、施設の担当職員の方との打合せを密に行い、参加対象となる子どもたちの要望や実態を丁寧にヒアリングして実施を迎えます。ある施設では、自己表現や他者との関わりが苦手な小学生を中心に、身体を動かしながら自信を持って自分を表現することを楽しめるような活動を、という希望を受けて身体表現のワークショップを実施しました。実施期間は11月~3月に全10回、最終日には施設の職員の方などに向けて発表の機会を設けました。
最初は、アーティストの動きの真似などから始まったワークショップですが、それぞれの興味関心の違いや、参加することになった子どもたち同士の関係性を築くことにも時間がかかり、時にはワークが思うように進まないこともありました。
しかし、回数を重ねていくうちに、アーティストに対する子どもたちの信頼も深まり、子どもたち同士のコミュニケーションも豊かになっていきました。互いに身体の一部をくっつけたまま動物の形をみんなでつくってみたり、一人ひとりのアイデアを拾いながらリズムに合わせた振付を考えたりするなど、身体を介した他者とのふれあいや関わりを促すことで、参加している子どもたち同士の関係性が豊かになっていきました。
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また、側転や三点倒立など、子どもたちが得意なことや挑戦してみたいこともワークショップの中に取り入れ、それぞれの個性を発揮する場も設けました。中には、ワークショップ以外に普段の生活でも自主的に練習をするなどの意欲を見せる子もいて、その気持ちを受け止めながら、発表会を設けることにもしました。
発表会では、ワークショップで取り組んできた、視線を合わせたまま相手の動きを感じて即興的に踊ることや、それぞれが考えた振付のシーン、一人ひとりが得意技も織り交ぜてソロで踊るシーンなどで作品を構成しました。
大勢の人の前での発表に緊張や戸惑いもありましたが、終わった後に、大きな拍手と職員の方々からの感想など、たくさんの温かい反応を得て、子どもたちの満足そうな笑顔が見られました。また、発表を終えた後にも、普段の生活の中で職員の方と子どもたちがワークショップや発表のことを話題にするなど、施設内での職員と子どもたちとの関わりの面でも、子どもたちを褒める機会が広がったという声もありました。
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近年、児童養護施設における自立支援の拡充に向け、外部支援団体の支援活動なども多様化していますが、半年近い期間に継続して実施する芸術の分野からのアプローチはまだまだ未開拓の分野と言えます。しかし、ワークショップを実施した施設の方からは、継続実施を希望される声も多くいただきました。ダンスや音楽などの表現活動という新しい手法、今までとは違った視点で子どもの自尊感情や自己肯定感の育成に寄与できるよう、これからも事業の拡充につとめていきたいと思います。
※児童養護施設とは、保護者がいない、虐待を受けているなど、様々な家庭の事情により、家族と暮らせない子どもたちが生活する施設です。厚生労働省による2013年の調査では、入所児童の内、虐待を受けた経験のある子どもの割合は59.3%、何らかの障害のある児童は28.5%に上り、一人ひとりの特性に合った支援の充実が求められています。また、大学などへの進学率は22.9%と一般に比べて低く、自己肯定感をもって自分らしく生きる力を育むなど、自立支援の拡充も大きな課題となっています。
※公益財団法人JKA「RING!RING!プロジェクト」
https://www.ringring-keirin.jp/ 

当NPOでは、10日間前後のワークショプを行い、最終的に作品を発表するという取り組みも行っています。例年学芸会などに向けて実施することが多いのですが、今回は、6月の学校公開日に発表した4年生70人との取り組みをご紹介します。「自分で何かをつくり上げる経験がまだ少ない子どもたちに、苦労して考えてこそ、という作品をつくる難しさや楽しさを経験させたい」という先生からのリクエスト。アーティストは、セレノグラフィカ(ダンスカンパニー)の隅地茉歩さんと阿比留修一さんをお迎えして、9日間のワークショップを実施しました。
初めての出会いの日。子どもたちが体育館にやってくると、既に踊っているアーティストの姿が。二人は一言も話さず、そのままアーティストを囲んで鑑賞タイム。いつもとちょっと違う動きに思わず後ずさりする子もいますが、子どもたちに近づいたりふれ合ったり、何人かを誘い出して踊ったりするうちに、アーティストの世界に引き込まれていきました。その後の自己紹介では「たくさんびっくりして、笑って、初めての景色をみましょう」とアーティスト。まずは身近な歩くことから、ダンスが始まりました。狭い範囲でもぶつからないように歩いたり、「ストップ」の合図で片手や片足を挙げて止まったり、少しのルールを加えると色々な身体の動きが広がり始めました。
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2日目以降は、毎回ヨガのポーズでワークショップを開始。三日月のポーズ、立木のポーズ、ウサギのポーズなど、丁寧に呼吸を整えながら集中力を高めました。また、前半4日間はクラス毎に実施して、一人ひとりに向き合い様々な種類のワークを体験しながら、身体の可能性を探りました。「なぞなぞダンス」というワークでは、「カマキリの綱引き」「掃除するロボット」などのお題を身体で表してチームで当てっこ。相手の動きを鏡のように真似する「鏡の中のあなた」や、二人組で身体の一部に触れられたところからスルッと抜ける「さわってぬけて」などに取り組みました。

また、各ワークでクラスを半分に分けて互いに鑑賞する時間も設け、友だちのダンスを見合う時間も大切にしました。自分の名前に振り付けする「ネームダンス」では、一人ひとりが世界にたった一つのダンスをつくりました。一人だけで黙々と考える子、友だちと相談しながら考える子、先生の分まで考える子など、取り組み方は様々。出来上がったら全員で輪になって一斉に、また一人ひとりみんなの前で「ネームダンス」を披露。一人だと大きな声が出ず動きが小さくなる子もいますが、その緊張や恥ずかしさも含め見られることが貴重な体験になっているように感じました。

さて、後半5日目からは2クラス合同70人でのワークショップ。衣装(子どもたちが選んだ6色のTシャツ)を着ると子どもたちの気持ちも更に高まる様子。一方で、ワークショップも後半になると段々慣れてきて新鮮な気持ちが途切れる事も。そんなある日の始まりは、アーティストと体育館を縦横無尽に動き回ってとにかくいろんな動きを真似すること。賑やかな音楽にのって、なんだかセクシーな動きや顔の表情も豊かでどこか笑いを誘う面白い動きに、見ている子どもたちからも笑い声が。気持ちも新たに、いよいよ構成に入っていきました。

作品は、「花」「ロボットダンス①」「STOP&GO」「ネームダンス」「ロボットダンス②」「オクラホマミキサー」の6つのシーンから構成されました。どれも全員がワークショップの中で経験したものですが「花」「ロボットダンス」「ネームダンス」の3つは、子どもたち自身がどのシーンに出たいかを選び、「STOP&GO」とフォークダンスをアレンジした「オクラホマミキサー」は全員で踊りました。また、3つのシーンには出演せず全員のシーンだけに出演する選択肢もつくりました。全員が同じ時間同じように登場するより、一人ひとりの選択と責任に任せることで、一人ひとりのありのままが活かされたように思います。

そして迎えた9日目の本番。直前には目を閉じて隣の人と手をつなぎ、静かに理想の本番をイメージ。全校児童と保護者が見守る中、いよいよ開演です。「花」のシーンを選んだのは5人。両手を合わせて宙に好きな人の名前を丁寧に、ゆっくりと描きました。「ロボットダンス」は大人気だったので曲を2種類用意して2シーンに。曲を感じフロアを行き来しながらロボットになりきります。「STOP&GO」では、曲がストップする度に片手を挙げる、片足を挙げる、両足を挙げるなどのポーズでストップ。一人ひとりの身体から多様な形が生まれます。

「ネームダンス」は12名が登場。一人で自分のネームダンスを披露したら、全員でもう一度繰り返します。スポットライトを浴びて、飛んだり跳ねたり、面白い動きには会場から笑い声も。そして最後は全員で「オクラホマミキサー」。

2人組、4人組、8人組、同じTシャツの色、全員で、などなどアーティストの音頭に合わせて腕を組みながら軽快にステップ。後半は、歌詞を学校オリジナルにアレンジ。子どもたちに聞いた学校自慢を歌詞に織り込んで、「プールの床も動きます!」など元気よく歌いながら踊りました。最後はTシャツの色ごとにお客さんにご挨拶。9日間のいろいろな想いや経験を詰め込んだ本番を、無事終えることができました。

本番の後には、別の部屋で一人ひとり「ネームダンス」を披露してもらい、その後一言ずつ感想を聞きました。「緊張して手がつめたくなった」という子や「思ったより緊張せず楽しめた」などそれぞれの感じ方があった様子。9日間はあっという間に過ぎ去り別れはいつも名残惜しいですが、アーティストと出会い、ダンスに出会ったみんなが、それまで知らなかった気持ちや新たに見たかもしれない景色を抱えて、それぞれの毎日をまた元気に楽しく過ごしていると良いなと思います。
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セレノグラフィカ/ダンスカンパニー
https://www.children-art.net/selenographica/

保育園の5歳児クラスで行われた、東山佳永さん(踊り手・美術家)のワークショップをご紹介します。身体を動かすことが大好きな子どもたちと、身近にあるものも使いながら動と静の動きを楽しめるような活動を、というリクエスト。5歳児ということもあり、少し静かに考えたりイメージを膨らませたりする時間があっても良さそう、と先生。『しずくのぼうけん』(作:マリア・テルリコフスカ、絵:ボフダン・ブテンコ)という絵本をモチーフに、身体と音で物語の続きを表現するという内容が組み立てられました。アシスタントに音響デザイナーの白石和也さんをお迎えして、雨の季節にぴったりな、子どもたちとの2日間の冒険が始まったのです。

まずは、陶器でできた「しずく」のネックレスを纏ったアーティストによるパフォーマンスと、『しずくのぼうけん』の読み聞かせからワークショップがスタート。絵本は、バケツから飛び出した「しずく」が、クリーニング屋さんやお医者さんを訪ねたり、空へ行ったり雨や氷になって旅をする、水の循環がテーマの物語。
しかし、絵本は終わってしまっても「しずく」がどうなったのかが気になるところ。そこで「絵本の続きを考えてみよう」とアーティスト。みんなで輪になって「しずくしずく どこに消えた~♪」というワルツに乗せた歌に、簡単な振りをつけハンカチ落としゲームのようにしながら、しずくの行き先を考えました。「ほし」「やま」「うみ」など子どもが答えると、アーティストが言葉と絵で紙に残していきます。そして最後は「雨になって、水道を通って、家に帰ろう」という物語が出来上がりました。

物語の続きができたら、今度は「しずくの足音」をみんなでつくります。ペットボトルやジョウロ、霧吹き、ストロー、空き缶やアルミホイルなどアーティストが用意した道具も自由に使って、いろんな音を探します。コップの中に水を入れ、そこに物を落として音を出していた子は、落とす高さによる音の違いに気づいたり、「ポトポトって音がする~」「こんな音どうかな?」とアーティストに見つけた音を知らせたり、友だちと相談したり、賑やかに活動しながらささやかな音にも耳を傾けていました。みんなが作った足音はその場で録音し、たくさんの「しずくの足音」をたっぷり捕まえて1日目の活動を終えました。

2日目、この日は子どもたちみんなが「しずく」になって冒険をする日。まず、しずくになる準備のストレッチ。手足をぶらぶら、寝転がって三日月の形になったり、身体を小さく丸めてコロコロ床を転がったり、静かに身体をほぐしていきます。身体の準備ができたところで「しずくの形ってどんなの?」とアーティストが聞くと、先の尖った形や丸い形をつくり始める子どもたち。そのまま「水の中へ」「冷たくなって氷になるよ」「お日様で溶けるよ」「葉っぱの上をコロコロ~」という言葉からイメージを広げて、身体を動かしました。

その後、一度みんなで集まって、前回のみんなで考えた物語からアーティストがつくった歌を聞きました。しずくの行き先を考える時に歌った「しずくしずく どこへ消えた~♪」というフレーズに呼応する形で「すいどうとおるよ せんたくぐるぐる おひさまかわいた くもにあつまり あめになったら にじをわたって やまについた もりをたんけん はっぱころころ うみへきたよ ほしをゆめみる」(作:みんな と かえ と かずや)というとても素敵な一つの歌になっていたのです。

そして、いよいよしずくの冒険の始まりです。「すいどうとおるよ」では、3人組になり、2人で輪をつくってもう1人が輪をくぐり抜けます。「せんたくぐるぐる」では、1人でグルグル回ってもいいし、誰かに出会ったら腕を組んで一緒にぐるぐる。「キャーキャー」大興奮で洗濯されていました。「くもにあつまり」では、床にテープで描いた雲に全員で入って身体をくっつけます。ギューッと抱き合う子もいれば、そっと頭に指先をつけるなど、くっつき方も様々。雨になって雲をピョンピョン飛び出したら、リボンでつくった虹を一人ずつ渡ります。

虹を通って山に着いたら、5人組で山の形をつくり、海の中では一人ひとりが自分の思う海の動きを考えて部屋中を動き回りました。魚になっている子、手を広げて早くスイスイ進む子もいれば、「ハートの貝を見つけたよ」とアーティストに差し出す子も。そして、たくさん身体を動かした長い長い旅路は、星に辿りついてお休みの時間を迎えます。「流れ星流れた!」「地球が見えた」など、子どもたちには保育室からでも宇宙が見えている様子。それぞれの見ている景色の大きさと広がり、豊かさには本当に驚かされました。

再び朝が来て、しずくの家に戻ったら早速「もう一回やりたい!」という声が。歌や音をつけながら、もう一度みんなで旅をしてワークショップを終えました。最後にみんなでつくった「しずくのぼうけん」を小さな本にしてプレゼントすると、ポケットに大事そうにしまってくれました。
振り返りでは、子どもたちがワークショップを楽しみに待っていてくれたことや、保育園でも最近冒険をテーマに日々の活動に取り組んでいたので、自然なつながりの中でワークショップも楽しめたのでは、というお話を先生から伺いました。アーティストが決めた設定もありつつ、その中で一人ずつの世界を広げていった子どもたちの姿に「みんなの中に‘自分でつくれる’という感覚が残っていけば」とアーティスト。アーティストから生まれる動きや音に軽やかに反応しながら全身でそれらを吸収して、自分たちだけの物語を紡ぐことができる子どもたち。そんな彼らがつくる未来を楽しみにしたいです。
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東山 佳永(とうやま かえ)/踊り手・美術家
https://www.children-art.net/touyamakae/