保育園の5歳児クラスで行われた、カブさん(美術家・深沢アート研究所緑化研究室代表)のワークショップをご紹介します。会場になったのは、いつも子どもたちが生活している保育室。一人ひとりが作る過程もありながら、最終的にみんなで一つの作品になる経験をさせたい、との先生からのリクエスト。今回は、セロテープという素材にとことん向き合い、大きな透明の空間を作ろう、という内容でした。
実は、この日の1週間前に既に4歳児クラスでワークショップを実施していたので、隣で見ていた5歳児の子どもたちは期待が高まって、今日のワークショップをとても楽しみにしていたとのこと。部屋に入ってくると、「宇宙にするんだ!」など、既にイメージが広がっている様子でした。ワクワクする気持を押さえながら、まずはアーティストからのご挨拶。その後、今日みんなとやる事、道具の使い方などを説明していきました。
まずは、セロテープの使い方からです。セロテープ台を一人ずつ取り、両手を使ってセロテープをある程度の長さに切る。そしてクルクルっと丸めて滴のようにしていきます。何回か丸めてある程度大きくなったら、最後は顔を描いて自分だけの滴が完成です。小さいところに慎重に、真剣に好きな色を使って描いていきます。
練習が終わったら、今度はセロテープを教室中、好きな所に貼り巡らせます。脚立や机などをきっかけにして、あっちからこっち、こっちからそっちへ。長さが足りなかったり、上手く空中でセロテープを切れなかったり、セロテープ台の扱いも最初は難しい事もあります。でも、さすが5歳さん、大人が手伝おうとしても「いい!」と、自分たちで出来る方法を見つけていきます。経験を通して、子どもが成長していく瞬間でした。
また、貼り巡らせたセロテープには、滴(子どもによってオバケだったり、蛇だったり、好きなもの)などを張り付けて装飾します。ふと気付くと、制作のヒントになるよう流していたプロジェクタのイメージにもセロテープの影が映って面白い事に。自分の影で遊ぶ子もちらほら。
そして、ある程度時間が経つと、セロテープだけでなく、マジックで絵を描く事も始めます。いつもの紙と違って、立った画面に描くのは難しいかと思いきや、そんな事は気にせず友だちとおしゃべりもしながら描いていました。
時間が経つと、自分の空間をある程度決めて、そこを重点的に作り込む子も登場します。真剣にセロテープを見つめる姿は立派な職人さんのよう。そして、高い所にも低い所にもセロテープが貼ってあるので、屈んだり四つん這いになったり、子どもたちは身体を器用にいろんな風に使って部屋中を移動します。下手に大人が入ろうとすると、行く手を塞がれて進めなくなるゾーンもありました。
さらに時間が経過したところで、アーティストからセロテープ以外の素材も紹介されます。セロテープをとことん突き詰める事ももちろん、楽しんで制作できる事も大切、という事で、キラキラの折り紙、アルミホイル、カラーテープなど、子どもたちの想像力を刺激するような工夫です。嬉しそうにアルミホイルを見せてくれた男の子、何かと思えば、アルミホイルの上に、違う光り方をする銀の折り紙がいくつも貼られた素敵な作品になっていました。
始まってから約90分間、子どもたちの集中力は途切れる事がありません。友だちと一緒になって、のりまき&梅干しを隣同士に飾ったり、「大きくなったらオバケと友だちになりたいからオバケばっかり作るの。」と自分の作品を追及したり、それぞれの想像力を活かして、いろんな物語が生まれていました。最後には、みんなで集まって作った空間を眺めてみます。アーティストは、みんなが頑張った事を認めると同時に、「今日は特別ね。」と、いつも好きなだけ好きなようにセロテープを使える訳ではない事を、きちんと子どもたちに説明してワークショップを終えました。
先生からは、「最初は手探りだったけど、どんどん集中していく子どもの様子が分かった。」「アーティストやスタッフがサポートする姿を見て、子どもたち自身もお互いに助け合う事を学んでその場で実践していた。」などの感想をいただきました。また、この日はこの作品を残しておいて、空間を眺めながらお昼ご飯を食べたそうです。一見とてもシンプルな事のようですが、アーティストの導入や、素材を投入するタイミングなどにもいろいろな思いや考えがあってこそ成り立つワークショップ。そして道具の使い方ももちろん、自分の中で様々なイメージを広げて身体全部を使って次々に制作に取り組む子どもたちの姿に、本当に一瞬一瞬彼らが何かを吸収して成長している事をヒシヒシと感じた一日でした。
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カブ(かぶ)/美術家・深沢アート研究所緑化研究室代表
https://www.children-art.net/kabu/