小学4年生61人と取り組んだ、水内貴英さん(美術家)のワークショップをご紹介します。「空間で遊び、楽しくコミュニケーションとりながら形ができていき、クラス全体で空間を大きく使った作品をつくりたい」という先生からのリクエスト。各クラス2日間、実際に作業できる時間は3時間弱という短い時間が課題でしたが、『フォールダウン・オブジェクト~一瞬の作品~』と題して、作品を落下させる事で一瞬だけ成立する作品を制作することになりました。
ワークショップの導入は、アーティストの自己紹介。「変な事を仕事にしています。」と挨拶した後、実際にどんな作品を作っているか作品を見せながら説明します。興味をもった子どもたちから「それ今日作るの?」「すごい!」などあちらこちらで声が聞こえます。アーティストは「つくるのも仕事だけど、思いつかないと作れない。思いつくのが大変。みんなも自分の創造力をいっぱい使って、面白いことを思いついてください。」とメッセージを送り、この日のワークショップの説明へとつなげました。
落下させる作品ということで、空中にくす玉のような装置を設置し、その中に、子どもたちが自由に制作した作品を仕込んで、最終的にはみんなで一斉に落下する瞬間を眺めるという内容です。装置の使い方や、材料の説明をした後は、一斉に作業に取り掛かりました。
子どもたちは、見本で見せたパラシュートや紙飛行機のつくり方をアーティストやスタッフに教わりながら発展させたり、材料からインスピレーションを得てどんどん新たな形を生み出していったり、迷うことなく手を動かし始めます。作ったものは各自自由に装置に仕込んで、実際にどんな風に落下するか試していきます。装置の扱いがなかなか難しいので、自然と何人かのグループになって作業を分担する子もいれば、自分の作りたいものを大切にして、落下させる時だけ手伝ってくれる人を交渉して見つけるなど、様々なやり方で制作を進めます。
スタッフが見ていると、「それは絶対失敗するなあ。」と思うような特大のパラシュートを作り始めた子が。実際に落下させてみると、やはり紐が長くて重すぎるため上手くパラシュートが開きませんでした。しかし、彼はそこで諦めることなく、工夫すべきて点をアーティストと相談しながら再チャレンジ。子どもたちは失敗を重ねる中でどうすれば成功するのか、装置はどのように使えば良いのか、次々に学んでいっている様子でした。そうしているうちに時間はあっという間に過ぎ、納得できる結果が得られたグループもそうでないグループも一旦作業を終了。次回への期待を胸に挨拶をして学校を後にしました。
そして一週間後、2回目のワークショップは、装置の数を全員分に増やし、最後には一斉に落下させる時間を設けることを説明して作業に取り掛かりました。体育館に入って来た時からヒソヒソと何やら作戦を立てて話を聞くより作業をしたい気持ちが溢れていた子どもたち。この日も迷うことなく作業に取り掛かり、1回目とは違う事に挑戦したり、前回の内容をさらに工夫して発展させたりしがら、黙々と作業に入っていきました。
どんな風に見えるか何回も試してみたり、扱う素材を増やしてみたり、途中で糸が絡まったり装置が引っかかったりするなどのトラブルもちらほら見かけますが、大人も協力しながら、限られた時間の中でも力を尽くします。装置自体にも飾りを付け始める子や、垂れ幕のようなものを作ってメッセージを描いているグループ、プレゼントのようにラッピングする子など、様々な工夫が増えていきました。
そして最後は、いよいよ列毎に同時に落下させます。装置の準備を揃えるだけでも時間がかかりましたが、「私が持っていようか?」「ひっぱるのやっていいよ。」などお互いに協力し合いながら何とか設置完了。「5、4、3、2、1!」のカウントダウンで一斉に落下です!本当にほんの一瞬でしたが、キラキラした陽射しの中をフワフワと舞い散る作品に子どもたちからも歓声が。終わりの挨拶では「自分にしかできないことを考える。誰の真似もできなくなった時に、何もないところから考える。そういう事を思い出してくれたら嬉しいです。」とアーティスト。たくさんの創造力を秘めた子どもたちだったので、これからも面白くて楽しいことでいっぱいの毎日をつくってくれるといいなと思いました。
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水内貴英/美術家
https://www.children-art.net/mizuuchi_takahide/
読んだ絵本:「ふしぎなナイフ」「ふようどのふよこちゃん」「オオカミがとぶひ」「ブラッキンダー」「はやくはやくっていわないで」など
新しい年を迎え陽の光がキラキラと差し込む暖かな1月の日曜日に、えほんの会を開催しました。今回のえぽんずメンバーは渋谷橙さんと田中晶さんのお二人。珍しく男性のみの回となりました。
午前の部、今年の干支にちなんでニョロニョロと蛇のように身体をほぐしてスタート。その蛇の身体がいつの間にかナイフになり、「ふしぎなナイフ」が一冊目。ポキッと折れるナイフ、プクーッと膨れるナイフ、どんどん不思議な形に変化してきいきました。
二冊目に読んだのは少し長めの物語「ふようどのふよこちゃん」。腐葉土が主人公のお話に、「ふようど」って何だろうと考えながら、豊かな自然を支える腐葉土の様子が語られていきました。そのうちに、えぽんずさんの差し出す楽器で子どもたちが即興の演奏をつけ始めました。
それならばと、みんなに好きな楽器を選んでもらい「カニツンツン」ではみんなに楽器を鳴らしてもらいながら読みすすめ、途中からは言葉に身体の動きもつけて、よじれたり、伸びたり、床をゴシゴシこすったり、様々な動きをみんなにも真似してもらいました。そしてその後もずっと楽器と一緒に賑やかなまま午前の部を終えました。
午後の部は、お昼ご飯も食べた後だからか、まったりした空気の中でスタート。最初の身体ほぐしは近くの人にも触れながら、身体を柔らかく伸ばしていきました。そして、一冊目は「ブラッキンダー」。黒い線で描かれる宇宙のような絵や「キンダー」と呼ばれるサボテンが登場したり、「ブラッキンダー」ってなんだったのか、という抽象的なお話でしたが、子どもたちは静かに世界に引き込まれていました。
そんな集中力のある参加者の方々の様子だったので、二冊目も「はやくはやくっていわないで」を静かめバージョンで。途中から打楽器で演奏をつけてみると、ピアノの得意な女の子が弾いてくれた曲がちょうど良いBGMになり、えほんの世界にピッタリでみんなからも拍手をもらっていました。
その姿に触発されてか、楽器に興味をもつ子どもが少しずつ音楽を奏で始めます。アコーディオンを抱えて、ちゃんとえぽんずさんの朗読に併せて演奏する女の子がいたり、自分の好きな楽器をたくさん並べて演奏していたらいつの間にか絵本のお話にピッタリの効果音になっていたりして、子どもたちの感覚には脱帽です。
その後は紙芝居で「おおきくおおきくおおきくなあれ」。みんなにも「おおきく~」と言葉を言ってもらい、卵から恐竜が生まれたり、大きな大きなケーキに変身したり、その様子に子どもたちも楽しそうに反応していました。たくさん音を出して声も出した後は、午前にも読んだ「ふようどのふよこちゃん」を賑やかバージョンで。子どもたちは音楽にも慣れた様子で、えぽんずメンバーにも近寄って賑やかに聞いていました。
さて、次回のえほんの会は3月30日(土)を予定しています。
春の光が感じられるようになっていればいいなと思いながら、皆様のご来場をお待ちしております。
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☆1月のえぽんずさん:渋谷橙(俳優)、田中晶(俳優)
小学校の特別支援学級で取り組んだ、上村なおかさん(ダンサー・振付家)によるワークショップをご紹介します。昨年度は美術家のアーティストとワークショップを実施した学校ですが、「ゲストが来て何か楽しいことをしてくれた」という体験を継続していきたい、という先生からのリクエスト。今年はダンスや音楽を使って自由にのびのびと表現活動を楽しめるようにということで、友だちと関わったり、普段動かしてない動きを経験したりするような内容に取り組むことになりました。アシスタントにはダンサーの戸川悠野さんをお迎えして、3日間実施した中から2~3日目の様子をお伝えします。
まずは2日目。ワークショップの始まりは身体をほぐすところから。足の先をマッサージしたり、肘、お腹、と身体の部分を一つずつ触ったりつまんだりして感触を確かめ、色々な触り方で自分の身体を労わるようにしてくまなく全身にふれました。続いては二人組のワーク。一人が寝転んで、もう一人が手を差し出した所へ順に足を伸ばして触れていきます。アーティストが見本を見せた後に早速やってみると、上下左右あちらこちらへ差し出される手によって、様々な身体の形が生まれると同時に、相手が届かない所へは差し出さないという自然な優しさも見られました。そうしてだいぶ身体がほぐれたら、次はタンバリンの音に合わせて「シャラララ」と鳴っている時は動いて移動、「パン!」の合図でピタッと静止するワークへ。移動はただの移動ではなく、アシスタントの方へ向かって好きな動きを考えながら進みます。6年生の男の子がスーパースローでゆっくりゆっくり時間をかけて歩く様をアーティストが取り上げ、みんなでその足の動きを観察しました。止まる時は相手にそっと触れて止まります。相手が痛くないように、自分の身体が気持ち良いようにしながら、ゆっくり動く難しさも感じて身体の感覚が開かれていくようでした。
その後は、教室に青と黄色のビニールテープを交互に一直線に貼り、その上を一人ずつ歩きました。青はゆっくり、黄色は速く、また青になったらゆっくり歩きます。速い遅いも一人ずつ違ったスピードがあります。あっという間に端までたどり着く子、じっくりじっくり少しずつ歩を進める子など、一人ひとりの違いをアーティストが認めながら、息を呑むような静かなソロダンスが続きました。最後には、ビニールテープをあちこちに貼って、音楽をかけながら自由にテープとテープの間を移動、色のルールはそのままに全員で踊る時間です。細いテープの上に同時に何人か集まってギュウギュウになる時もありますが上手く譲り合ったり関わり合ったりして、最後の最後は「今日の形!」でポーズを決めて終えました。
最終回となる3日目は場所を変えて体育館での実施。校庭に雪の残る寒い日でしたが、広々とした環境の中でたくさん身体を動かす事ができました。最初の身体ほぐしは、お尻だけ床に付けてクルクルと回ったり、全身をブラブラさせてジャンプをしたり、足を開いたり閉じたり、これまでと同じように丁寧に自分の身体に向き合っていきます。続いては、差し込む陽の光を利用して、日向を海に見立てて魚になって動いてみました。アーティストがトーンチャイムを鳴らしながら「いろんな泳ぎ方考えていいよ」と言えば、「ホオジロザメになる」など口々に言いながら、床は冷たいのにニコニコと嬉しそうにそれぞれのイメージを広げていました。
その後は、体育館に元からある色の線を利用してのワークです。子どもたちにもアイデアを聞いて、赤は「クルクル回る」、白は「滑る」、青は「ブルーなのでブルブル(学校でダジャレが盛んな事を発見したアーティストのアイデア)」、黄色は「カチンコチンで形を決めて止まる」、緑は「ゆっくりと森の生き物になって動く」というルールを一色ずつ確認しながら取り組みました。もちろん全てのルールをアーティストが指定する事もできましたが、この日の子どもたちの様子を見てアイデアを出してもらう事に。結果的に自分たちが決めたルールということも、取り組みへの意欲を高めたようでした。
アーティストは、色ごとにタンバリン、鈴、マラカス、トライアングル、トーンチャイムと楽器でその場で音を付けながら、面白い動きを認めたり一緒に動いてみたり、子どもたちの表現を広げる環境を作っていきました。子どもたちは色ごとに違う動きにもしっかり反応して、線の上で渋滞になっても喧嘩したりはせずすっと避けたり、出会った友だちと一緒に動いてみたり、様々な関係性も垣間見えました。
その後は一人のダンスの時間。体育館の真ん中を端から端まで「途中にあるポール立ての銀色の蓋の上はジャンプして、それ以外は自由!」と説明してスタート。やりたい子が次々に手を挙げました。かなりの距離ですが、堂々と前を見つめ床を見つめ、くるくると、しっとりと、軽快に、そして時に戸惑いながら一人ひとりのダンスを披露、順番を待つ子どもたちも静かに見守ります。全員が終わってもまだ踊り足りない様子で、「2回目も良いよ」とアーティストから声がかかると、一人ずつではなく次々と前へ進み、そのまま全員でのダンスへ突入。再び一通り色の動きをした後は、一曲分の自由ダンス。広いと思った体育館が狭く感じる程、子どもたちの身体が空間を清々しく埋めていきのびやかに表現する姿に見とれているうち、あっと言う間に終了の時間となりました。
最後の振り返りでは、「見所がちょこちょこあって、みんな音の変化も良く聞いていた。視聴覚室で実施した前回までの経験が残っていて、体育館へと場所が広くなったことで、みんなの中でも表現が広がっていた」とアーティスト。先生からは、「普段ダンスというと運動会行事など決まった動きのものになり、そうすると“できない”“他の子と一緒の動きにならない”などとなってしまうが、ワークショップを通して創作する楽しみを学ぶことができたと思う」との感想をいただきました。毎回先生たちもワークショップに一緒に参加して下さって、子どもたちの変化を丁寧に拾いながら細やかにサポートしていただけた事も、子どもたちがのびのびと安心して表現出来るあたたかい環境につながっていて、子どもたちや先生との再会ができたことを心から嬉しく思いました。
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上村なおか/ダンサー・振付家
https://www.children-art.net/uemura_naoka/