三重県伊勢市にある宮川医療少年院にて、水内貴英さん(美術家)と中学生の子どもたち11人とのワークショップを実施しました。2日間連続、各回90分・120分の実施となったワークショップの様子をご紹介します。
『わたしがいる場所~小さな世界を作ろう』と題された今回のワークショップで大切にしたのは、一人ひとりが「自由に作ろうとする」体験をすること。
「自由に作る」というのは、楽しいことではありますが、同時にとっても難しいことでもあります。施設の特性上、自由が少ない環境に身を置いている子どもたちが、そこに挑戦することで、これから社会で生きていく上での何かの力に繋がっていけば嬉しいなと思いながら、ワークショップの場を紡いでいきました。
体育館に並んだ2mほどの高さがあるシーツテント。中には電球が1つ吊るしてあります。
「これから2日間かけて、一人一つ、テントを自由に自分の空間にしていいです。作りたくなかったり、どうしようか悩んだりしたら、テントの中で寝ててもいいんだよ。」という水内さんの声掛けに、少し驚きながらも、開始と同時に早々に手を動かし始める子どもたち。
材料は水彩絵の具、油性マジック、色紙、カッティングシート、毛糸、リボン。それらを自由に使って、それぞれの空間を形作っていきました。
「テントの中をプラネタリウムみたいにしたいのだけど、どうしたらいいですか?」
「虹を描きたいんですが、虹の色の順番教えてもらえますか?」
「紫色って、どうやったら作れるんでしたっけ?」
水内さんはじめ、私たちが何か指示したり誘導したりすることもなく、子どもたちそれぞれに、作りたいものやイメージがあり、そこから生まれる疑問や課題に、大人が応えていくような形で進行していった今回のワークショップ。
自分の作品を描ききると、ふと隣の子の作品を見て、「それ、いいね」と声をかけ合っていたり、「こっちもこうしてみようかな」と新たなアイディアを思いついて作品に反映させている姿も印象的でした。
あっという間の2日間。ワークショップ終盤には、体育館の電気を消して、テントの灯りを楽しんだり、一人ひとりの作品鑑賞ツアーも行い、こだわったところ、みんなにみてほしいところを話してくれる子もいました。
ワークショップ終了後、子どもたちが書いてくれた感想文をいくつか紹介します。
・今まで美術というものに対して好きとか楽しいという気持ちをもったコトがほぼありませんでしたが、今回の体験で、美術への考え方がグッと変わりました。
・何事も実践してみたりしている時間が良いなと思いました。
・(印象的だったのは、)他の人がくふうして作っているのを、そんなふうに使えるんやと、見て面白かったこと。自分の想像で、いろいろなことを考え作って楽しいと感じられたこと。
・絵をかいている時は夢中で、ずっと集中していました。作業一つ一つが楽しかったです。
・今までは先生からやらされているような感覚があり楽しめませんでしたが、そのような感覚もなく、自分から考えていく楽しさがありました。
・美術の勉強をしたいので出来たら又来てもらえるとうれしいし、楽しそうな風に思うので又お願いします。
芸術家と子どもたちとしても、初めての経験となった少年院での美術ワークショップ。
子どもたちから湧き出て来る発想力や創造力に、驚かされ続けた2日間でした。
突然来た私たちを快く受け入れてくれ、臆することなく「自由に作ること」を楽しんでくれた子どもたち、また、子どもたちが安心して楽しく活動に参加できるよう、心を尽くしてくださった水内貴英さん、そして宮川医療少年院の先生方に、この場を借りて心から感謝申し上げます。
【助成】公益財団法人 ベネッセこども基金