いつのまにやらもう春ですが、年初めのASIASは、
巣鴨小学校の5年生29人(女子20人と男子9人)と写真家の梅佳代さんの授業でした。
以前から個人的に好きな作家さんで、当日を子どもたち同様に楽しみにしていました。
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当日の打合せでは少々緊張気味だった梅さんも、教壇に上がるとそれまでの迷いなどは一切感じられないほどの余裕で自己紹介。有名人との仕事の話になると子どもたちからも喚声があがり、それを楽しむかのように、「すごいやろ!」「すごーい」。「今の『~やろ』ってことで、出身地はどこでしょう?」「大阪!」「ブー!」色々な県名が出たがなかなか当てられない。そこで、手で県の形を作って見せると、即「石川県!」ご名答。このやりとりが子どもたちとの距離を一気に縮めたようだった。
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授業は、おおまかに言うと、一人1台ずつレンズ付きフィルム(使い捨てカメラ)を渡し、 クラスメイトの写真を1枚ずつ撮っていく、といういたってシンプルな内容。
梅さんからのリクエストは「カメラ目線で」 「1枚につき一人ずつとる」というもので、これまたシンプル。時間にも余裕があるし、あっさり撮り終えるのでは、という心配も正直なところあった。
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最初はサクサクと友達(同性)同士で写しあい、なにやら和気あいあいの様子。女子は背景にまで凝りはじめ、男子はおふざけ全開の者もいて大興奮状態に。図工専科の庖丁先生も梅さんも、彼らに混じってシャッターを切る。
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しばらくすると、教室内の空気がさっきと違ってきた。見れば、教室のまんなかを境に、男女別になっている。このクラスは男子が少ないので、同性同士の撮影会は男子の方が早く終わってしまう。まず男子側から女子に「撮影許可」を得ないといけない、というわけだ。「おい、おまえ先行けよ」「何だよ!?根性ナシがっ」 という男子のヒソヒソ声が隅のほうから聞こえてきた。振り向けば教室の隅に男子全員が貼りついている。写真を撮るという行為によって、普段よりも被写体を意識することになる。彼らにとってはこの授業は「照れ」の増幅装置となったわけだ。見ているこっちまで恥ずかしくなるような、そんな甘酸っぱい空気を含んで、少しずつ混ざり始めたが、それでも、なんとなくぎこちない。もしかしたら、当の子どもたちよりも、見ている大人たちのほうが楽しんでいたのかもしれない。
 ~ 次の週、現像上がり。
彼らにとって、カメラといえば「デジカメ」である。通常自分の撮った写真を見るのに時間を要することはないだろう。出来ばえはどんなだろうか、どんな顔で写っているのか、この“わくわく感”はフィルムカメラでないと得られない。
さて、図工室にやってきた彼らからは、先週の甘酸っぱい雰囲気はみじんも感じられなかった。ものの見事に、である。ふつうのお転婆でお笑い大好きな小学5年生だ。
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今日の流れは 撮影した写真の中から、自分のお気に入りの1枚を選び発表し、ファイルに収めるという内容だ。丁寧に選び出された1枚を大型モニタに映し、梅さんが一人ずつ講評していく。講評というより、一緒に楽しんでいる風だ。選んだ理由がそれぞれ思いもよらないヘンテコな理由である。うしろに写っている人や物までも、選ぶ理由になってしまうのだ。それらをひとつひとつを受け止めるように進行してゆくのだが、飽きることはない。たっぷり1時間も他人の作品を見る、ということは5年生とはいえ容易ではないはずなのだが、和やかな空気は崩れることなく最後の一人までみることができた。そのせいもあり、後のファイリングの時間が少し短くなってしまった。
そろそろチャイムが鳴る頃だというのに作業中の子が大半だ。一応の区切りとして梅さんの終わりの挨拶「写真を撮るとき、1対1になるやろ、そこで愛がうまれるんやよ、(ぼそっと)まあ子どものうちはわからんやろけどね。」・・・一同きょとん。いつかわかるときが来るかもしれないが、その頃に何人が今日のことを覚えているのだろう。記念として、ファイル1つ1つに梅さんがイラスト入りのサインをサービス。そのファイルを見たら、「愛」の話のこと、思い出してくれるだろうか。
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ワークショップ後の梅さんの話が印象的だったので追記すると、(時間が足りなかったが)この授業で一番重要な部分は、「1枚1枚写真をみながらファイルに収めるところ」であり、「写真の中の友達と目が合った時にさらに“愛”が深まる」とのこと。梅さんがデジカメでなくフィルムにこだわるのはまさにその部分で、加えて、デジカメでは削除されてしまうような「失敗作」の中に大事なものが納まっていることがあるそうだ。
偶然にも私は2度も写真のワークショップに立ち会っている。写真はその人(撮影者)をストレートにあらわすものであり、写真によって、アーティストの個性が子どもたちにそのまま伝わり、子どもたちも自分をストレートに表現でき、自然と仲間に興味を持つことができる。作品鑑賞に1時間もの集中力を維持することができるのは、他者への興味に他ならない。ASIASではあまり行われないジャンルのワークショップではあるが、これからもさらに多くの写真家と子どもたちとの出会いに期待したい。(事務局・田村)

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